龍脈に浸されし狂骨。 【アイスボーン】龍脈に侵されし狂骨の効率的な入手方法と使い道【モンハンワールド(MHW)】

【アイスボーン】導きの地採取マップ|導き素材の入手場所とおすすめルート【モンハンワールド(MHW)】

龍脈に浸されし狂骨

サムライエンパイア南西部に、紅湖(こうこ)という国がある。 古くから武術の盛んな国で、戦国時代には猛威を振るったという。 そこに、高内(たかうち)という大名家がある。 代々武芸百般に秀で、鷹狩りを能くし数多の武功で名を馳せた。 高内とは"鷹射ち"と"多功地"に通ずる。 そのぐらいの家なのだ。 領内に多くの道場が存在するのも、納得と言えよう。 「そのお侍様の領地で、オブリビオンが暗躍してるのよ」 グリモア猟兵の白鐘・耀の予知によると、『嗤う厭魅師』なる呪術師が首魁らしい。 「こいつは口八丁手八丁や呪術を使って、当主を籠絡しているわ。 おかげで領内じゃ"武侠御免状"なんてものまで出回ってるんですって」 免状なくして武を修めること罷りならず。 しかしこれを賜るのは無法者ばかり。 おまけに免状は呪力を持ち、所持者を強く闘う相手は弱くしてしまうという。 「私達ならそこまで致命的な影響は受けないでしょうけど、まだ敵が居るのよ。 "紫陽衆"とかいうはぐれ忍者の集団が、親玉の周囲を常に守ってるってわけ」 厭魅師の呪法により、武家屋敷は奇怪な"オブリビオン城"と化している。 領内の悪漢どもを糺さねば、城に攻め込むことすら叶わないのだ。 無策で飛び込めば苦戦は必至である。 しかし、手がないわけではない。 「"流派を名乗って闘った時"だけは、御免状の呪いが弱まるのよ。 多分、武芸者同士を争わせて自然淘汰したかったんでしょうね」 名乗りは即興でも構わない。 武術流派とはだいたいそういうものだ。 だが実際に修めた流派ならば、呪いはさらに弱まり敵を精神的に圧倒できる。 そうでなくとも、武術らしく見えれば同じ効果を得られるかもしれない。 「でも皆が皆、殴ったり斬ったり得意なわけじゃない。 そういう人いるでしょ?」 何名かが手を挙げたのを見て、耀はなぜかドヤ顔で頷く。 「そこで可憐な私が考案したのが、ズバリ『ホニャララ書房作戦』よ!!」 名前からして不安しかないが、ようは漫画などでよくあるアレだ。 戦わずとも横からそれっぽく解説すれば、説得力が増して呪いを弱められるんじゃね? ……という、大変杜撰でルーズな作戦である。 効果の程は実際に試さねばわからない。 一通り説明が終わったところで、耀の背後に紅湖国の風景が映し出された。 免状を持つ悪党どもが、あちこちの道場に押しかけ狼藉を働いているではないか! 「ご覧の通りよ。 遠慮はいらないから即! ぶっちめてやりなさい!」 無辜の人々を救い、奇妙奇天烈なオブリビオン城を打ち砕く。 やることは単純明快だ。 耀は火打ち石を取り出し、自らも蹴りまくりたくてしょうがないという顔で笑う。 「私のぶんまで大暴れしてくるのよー!!」 カッカッという勇ましい音が、転移の合図となった。 武侠小説とか好きだから!! 焼餅(シャオピン)です。 色んな意味で説得力が高いほど、呪いは大きく弱まる。 『ホニャララ書房作戦(合同プレイング推奨)』 誰かの技を『あの技はもしや!』みたいに解説するとプレイングボーナス。 (その方自身は非戦闘もしくは後方支援扱いになります。 解説役なので) 以上です。 かっこいい(もしくはトンチキな)プレイングお待ちしています! それでは皆さん、必殺拳で悪党どもをぶちのめしましょう! 種別『冒険』のルール 「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。 5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。 成功度は結果に応じて変化します。 大成功 🔵🔵🔵 成功 🔵🔵🔴 苦戦 🔵🔴🔴 失敗 🔴🔴🔴 大失敗 [評価なし] 👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。 往来を肩で風切り歩くは、いずれもうだつの上がらぬ悪党ばかり! 「おう姉ちゃん、めんこいのう。 儂が大人にしてやろうか! おお?」 「ご勘弁くださいまし、どうか!」 髭面のうらなり男がおぼこい町娘を捕まえ舌なめずりする。 他方、病気がちな老婆とその息子を取り囲む剣客くずれの男ども! 「拙者らは人助けが大好きでのぉ。 その身なり、懐が寒かろう?」 「十中八九、ご母堂殿の薬代と見た。 助けてしんぜようぞ」 「どうれ、我らのこの自慢の槍でぶすりと一突きじゃ」 「おらぁ刀でばっさりやってやろうではないか!」 「「ご勘弁を、どうか、ご勘弁を……」」 あちらはどうだ。 古びた武術道場! 汚い身なりの悪漢どもが徒党を組んで、道場主と思しき男を袋叩きにしている! 「おっとう~! もう、もうやめてけれぇ!」 「うるせえ餓鬼だ、引っ込んでろ!」 悪辣……! 幼い少女の襟首が掴み上げられる! いまや高内の領土はどこもかしこもこうだ。 往来を肩で風切り歩くは悪党ども。 路傍の石も涙で濡れて渇きゃしない。 浪人は皆々高楊枝で大威張、盗人どもはお天道様すら憚らんと来ている。 救いはないのか。 光明はないのか! ……否! 見よ。 街のど真ん中、通りに生まれた幾つもの光を見よ。 あれが救いだ。 あれが乱麻を断つ快刀だ! 世界を越えて来たる者、化生を猟する不思議の者ら! 天地よ人よ刮目せよ。 突如として虚空から現れた謎の女に、男どもは呆気にとられた。 びょう、と一陣風が吹く。 尖り耳の女は、目を輝かせながら顔を上げる。 「てめえ、何者だぁ!」 いままさに、おぼこい町娘を手篭めにせんとしていた悪党が吼えた。 女はその悪辣な所業に眦を決し、凛とよく通る声でこう名乗る。 男達の雰囲気が一瞬にして変質する。 そして町娘を突き飛ばした男が、胸元から一枚の御免状を取り出した。 「儂らは天下御免の武侠様だぜぇ? それに流派を名乗るってこたぁ……」 「わかっていますとも!」 大音声! 悪漢はその意気に思わず息を呑みたじろぐ! 「これ以上の狼藉、たとえ殿様が許そうともこの私が許しません。 さあ、退くなら今ですよ。 愛用の夜槍を華麗に振るう。 「ああなってしまいますからね! いいですか!?」 「お、おう……!?」 微妙に具体性に欠ける脅しに、悪漢はちょっとだけ我を取り戻した。 そして織愛の全身を頭からつま先まで眺め、下卑た笑みで舌なめずりする! 「けけけ。 いいじゃあねえか、"神無池波流"が免許皆伝の儂が相手をしてやるぜ!」 無論、ありもしない流派である。 悪漢は鎖鎌を構え呵呵と哄笑した! 「退く気はなしですか。 しからばいざ、尋常に!!」 その時、御免状が不気味に輝き、悪漢を赤黒いオーラが包む。 そして織愛を青紫色のオーラが包み込む。 四肢がわずかに重くなる違和感! (これが呪い……でもこの程度なら戦えます!) 「勝負だァ! キーヒヒヒヒヒィ!!」 卑劣! 先の先を打ったとばかりの不意打ちである! 悪漢は鎖分銅を抛ち、織愛の腕から槍を絡め取らんとする! 下手に踏みとどまれば敵の接近を許し、槍を奪われれば無手となる。 そこに鎌で斬りかかるという二段構えの攻撃だ。 「これぞ池波流殺法、縛り大鎌よォーッ!!」 「……っ!」 だが悪漢は知らなかった。 織愛という女の真髄を。 彼女は縛られた槍ごと、満身の力を込めてぐいと鎖を引く。 自分とさして変わらぬ体躯の少女が、おお、悪漢を……一撃誅伐である! 「……ああ! 名乗りに立ち合い、そして必殺技……! いいですね、すごくいいです! ね、そう思いませんか!?」 「へえっ? あ、ああ、えっと」 嬉しそうに飛び跳ねる織愛に、町娘はぽかんと頷くばかりであったという。 【POW】 こういうノリは嫌いではないよ。 そうだね…… 「北斗派総帥とでも名乗っておこうか」 「北斗は死を司る神。 北斗派の技は敵に必ず死を齎す。 死の運命からは何人も逃れることは出来ないよ」 絶技『降神十八掌』(でっちあげ)でお相手しよう。 《シドンの栄華》、『破壊の魔力』(内功)を込めた十八種類の掌打で戦います。 それを取り囲むのは、各々一山いくらの刀を佩いた浪人崩れである。 「……誰だ!!」 まさに老婆を槍衾にしようとしたその時。 悪漢が鋭く誰何した! はたして土埃舞う通りを、まるで散歩のように悠々歩く長駆がひとつ。 「ほう、これはなかなか。 いかにも"らしい"相手だな」 金眼の男はそうひとりごちると、楽しげにゆるく笑んだ。 悪党どもは片眉を釣り上げる。 男の余裕綽々が鼻についたらしい。 「手前ェ……我らが何者か知っての無礼か?」 「残念だが知らないな。 ご紹介いただいても?」 「この野郎!!」 青筋を立てて勇みかけた槍男を制し、頭目と思しき男が歩みだす。 にこり。 一見すると紳士めいた穏やかな笑みを浮かべるが、纏う気配は鋭い。 「同門が失礼し申した。 いずれも御免状をこれ見よがしに取り出しにやついていた。 槍が一、刀が三。 頭目らしき男は徒手空拳だが苛烈な殺気を放つ。 「無礼は承知ながら、其処許の名をお聞きしても?」 男はふっと笑う。 そして思案ののちにこう言った。 するとその隣の青瓢箪めいた男がくふふと笑った。 「北斗星君と言えば、死を司る神にあらせられまするな」 「いかにも。 北斗派の技は敵に必ず死を齎す。 誰一人例外なく」 ……どろりと、周囲の空気が濁った。 窮地を救われた老婆と息子はしかし、震えながら見守る他にない。 「我らは御免状持ちにござりまするぞ。 「"そんなものは関係ない"。 君達はもはや、死の運命からは逃れられんよ」 「「「…………!!」」」 五人組が凄む。 御免状の呪いが互いを強めあるいは弱めた! だがシーザーの表情は変わらず。 八つ裂きにしてはらわたを路端に広げてやれぃ!!」 「「「「ウオオオオーッ!!」」」」 四人が一気に迫る! 意外や意外、統率の取れた同時攻撃だ! 一の槍を避ければ残る三の刀が、飛ぼうが這おうが頸を断つ構えか! 「「「「これぞ卍組が秘剣、卍血衾斬りよぉーっ!!」」」」 シーザーは微笑みながら腰を落とし、それらしく身構えた。 内気功めいて高められた、破壊の魔力を撃ち込む強烈な掌打! 四人組はどさどさと地面に倒れる。 シーザーは残る頭目を見やり、 くいくいと指で手招き挑発してみせた。 「絶技『降神十八掌』。 どうだね? それらしいだろう?」 「て、てめえ、ふざけ……が、はっ!?」 おお、いかなる不思議の技か? 悪漢どもの顔が、肉体が……! 「「「ぶぎょらっ!!」」」 膨れ上がりある者は折れ曲がり、奇怪な断末魔と共に……おお、おお! 「ふ……くっくく。 いやこれはなかなか……ふ、ふふ!」 シーザーはこらえきれず噴き出しつつ、呆然とする親子へ歩み寄る。 「ご無事かね? もう安心だ。 今日のうちに悪党どもは皆、この街から姿を消すだろう」 この男、割とノリがいい。 颯爽と歩み寄る背中は、まさに英雄好漢そのものである! 悪党ども、そこまででです! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい。 蒸気の力を込めたこの鞘から放つ刃はまさにジェット噴射の如し。 流派、ジェット居合流伝承者、館・美咲、ここに見参ですよ! と高らかに名乗りを上げて、正面から悪党どもを切り伏せましょう。 これもジェット居合流の名を広めるため、門下生を増やすため。 実際に強くなっているかは食らった相手のみぞしる。 そして道場主と思しき中年の男は、噫! 取り囲まれ袋叩きにされている! 「おとう~! おっとう~!」 涙ながらに父を呼ぶ幼き少女。 身の丈七尺半はあろう巨漢が掴み上げる! 「うるせえ餓鬼だ、てめえからぶっ殺してやろうか!」 「や、やめろ……うちの娘に、手ぇ出すんじゃねえ……!!」 「けっ、老いぼれは黙ってな!!」 ずん! と踏みつけられ、師範は血を一塊吐いてしまう。 なんという所業か。 いかな神仏もこの悪行を見逃すといいたもうか!! 「そこまでです!!」 だが神も仏もなくとも、ここには猟兵という者がいる。 黒髪をたなびかせ屹然と悪党どもを睨みつけるは、異国情緒の装い纏う女ひとり。 「ハ! 誰かと思えば女かよ。 なんだ、俺らに可愛がられてえのかあ?」 巨漢がニタニタと言えば、手下と思しき悪党どもがげらげらと笑う。 だが黒髪の女はそんな挑発も意に介さず、不敵に胸を張るではないか。 「ただの女ではありませんよ! あなた達を成敗する者なのですから!」 男どもは女の言葉を鼻で笑う。 巨漢はこれみよがしに御免状を突き出した。 呪いの気配! ただでさえ巨大な体躯の威圧感がさらに増す……! 「どうだ、恐れろ! こいつぁ大名様直々の武侠御免状よぉ。 それとも本気で挑むてか? この無敵無双流の鶴清(かくせい)様に!!」 「その通りですよ。 さあ皆さん、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」 大仰に両手を広げ、女は威風堂々と自らを名乗る! 「蒸気の力込もりしこの鞘より、放つ刃はジェット噴射の如くなり!」 愛用のサムライブレイドを手に、朗々響く言の葉気合十分! 「ジェット居合流伝承者、館・美咲! ここに見参ですよ!!」 ぺたん、と地面に尻餅をついた幼子も、涙を止めてきょとんとするばかり。 だが面白くないのは悪党ども! 鶴清はビキビキと青筋を立てて歯を剥いた! 「小娘がァ……!! いきがりやがって!!」 「どうしました? その小娘と立ち合うのはお嫌ですか!」 「くだらねえ! おうてめえら、やっちまえ!!」 「「「ヒヒヒーッ!!」」」 段平を提げた一山いくらの悪党どもが、美咲めがけて襲いかかる。 女一人に徒党を組んで、何が武侠か片腹痛し! 卑劣千万この上ない! ……しかし! 美咲に些かの恐れなし。 その場にいる全ての者が、そこ"まで"は目視できた。 だが直後! 女の姿は悪漢どものはるか後方にあるではないか! まるでその後を引くかのごとく、入道雲めいた蒸気一筋吹き荒ぶ。 美咲の利き手には、白白と輝く刃ひとつ。 「「「ぐわああああっ!?」」」 直後! 迅風一閃、十は居ようという徒党がまるごと吹き飛んだ! ごしゅう! 機構鞘が思い出したかのように蒸気を噴出する! 「ふっ、今日も冴えてますね、私の剣!」 「お、おねえたん、あぶないっ!」 幼子の悲鳴! 然り、美咲を背後から襲わんとする鶴清だ! 奴は猿(ましら)じみた雄叫びとともに、岩をも砕くであろう膂力を込めて拳を振り上げる。 無敵無双流など駄法螺もいいところ、所詮は力自慢の木偶の坊か。 ごしゅう、と蒸気が噴出する。 まるで舞踏を刻むかのように、軽やかな足取りで踵を返す。 緩やかに見えてしかし疾く。 清々しいまでの一太刀であった。 おのが噴き上げた蒸気をも断ち切る、音をも超えし神速抜刀。 切り裂かれ払われし蒸気は、さながら朝露と消える濃霧の如し。 ゆえにこの剣、その技、銘をこう呼ぶ。 血漿ひとつ刃紋を汚さぬ凄絶な居合。 そして蒸気は消えていく。 「ほう……」 暗黒めいた広間に佇む長身痩躯、笑みは張り付く仮面の如し。 いかにもこれこそが、いまや領内を悪漢匪賊の住処に変えた外道の首魁。 "笑う厭魅師"。 「これはこれは。 我らの天敵がいらっしゃるとは」 遠見の呪術によって転移を嗅ぎつけた厭魅師は、楽しげに呟いた。 時期尚早の襲来ではある。 だが早晩、誰某が忍び込むであろうと予期していたゆえに。 「さて、噂の猟兵、その力はいかばかりか……まずは見物いたしましょう」 闇の中に禍々しい気配が立ち込める。 「悪鬼羅刹流の中でも、血を奪う事に特化した一派【致死舞曲】の技、存分に味わうと良いよ。 」 適当な流派を名乗って、妙な威圧感を出しつつ悪党たちの前に出ようかな。 …ノリと勢いで言ってみたけど、意外と楽しいねぇ。 若干悪役っぽいけど。 悪党たちは複製した大鎌で峰打ちでもしてボコっとこう。 「ちなみに悪鬼羅刹流には他にも【毒伊吹】とか【霧殺界】があります。 須藤・莉亜がやってきた通りには、まさにそういうあからさまな連中がたむろしていた。 「うわあ、よくもまあここまで絵に描いたような連中集めたもんだねえ」 「あぁ? てめえ何様のつもりだ!!」 飯屋で威張り散らして酒をゆすろうとしていた悪党どもが、 気怠げな莉亜の物言いに青筋を立ててガンをつける。 「何様のつもりでもないよー、それよか君達アレ持ってるんでしょ?」 「こいつ……わかってて喧嘩売ってるってのか」 殺気立った悪党ども、手に手に取り出したるは呪いの御免状。 だがもとより呪詛に慣れた莉亜、大して驚くふうもなく大鎌を担げば、 「悪鬼羅刹流の中でも、吸血に特化した一派"致死舞曲"の技。 存分に味わうといいよ」 と適当な流派を名乗り、表情を変えぬまま妙な威圧感を醸し出してみせる。 この男、飄々とした外見に似合わずなかなかの益荒男である。 裡に秘めた闘争本能はかくたるもの、さながら猛獣がごろごろ唸ったかの如く、 悪党どもは目に見えぬ異様な気配に震え上がってしまった! 「……これ、ノリと勢いで言ってみたけど、意外と楽しいなあ」 「ぶ、ぶつぶつ独り言してんじゃねえっ!!」 ゴカッ!! 迂闊に飛び出した悪漢一人目の鳩尾に、大鎌の石突が突き刺さる! 「なあっ! い、いつのまに!?」 「しかも、おい! 見ろよ、あ、あれ!」 悪党どもは震えた。 なにせ莉亜の周囲には、三十以上の不気味な大鎌が死霊めいて浮かんでいるのだ! 「若干悪役っぽい気がするけど~」 呑気な様子と裏腹に、莉亜の口元に三日月めいた不気味な笑み……! 「かかっておいでよ。 御免状持ちの武侠様なんでしょ?」 「「「な、嘗めやがってぇええええ!!」」」 段平に手斧にいかにも雑魚らしい得物を手に悪党どもが襲いかかる! ……が、そんな一山いくらの連中が敵うはずもなく。 丁寧な峰打ちにより、六人目の悪党が白目を剥いて顔から倒れた。 「ひいいっ!!」 「ちなみに、悪鬼羅刹流には他にもいろいろ技があるんだけど……味わってみる?」 一人残った七人目、鼻水を垂らしてへたり込みぶんぶんと首を横に振る。 完全に心が折れているようだ。 莉亜は少し残念そうに唇を尖らせつつ、 荒らされた飯屋に首を突っ込みにへらと笑った。 「あ、せっかくだしお酒一献もらっていい? お金はちゃんと払うよぉ」 はたしてどちらが本性なのか、掴みどころのない男である。 すさまじいエグゾースト爆音だ。 「なんだなんだどこのちんどん屋だぁ!?」 「わたしです!!!!!!!!!」 エグゾースト音のほうがまだマシという大音声が応えた。 そして戦国バイク(彼女自身は馬だと思っている)シュバルト丸に跨がる者こそ、 雄々しき人狼騎士リゼリナ・ファルゼナだ! すでにおわかりだがアホである! 「天が呼ぶ地が呼ぶ紅湖が呼ぶ、それが」 「なんだこの乗り物マジでうるせえな!」 「耳が壊れそうだ!!」 「あの女はもっとうるせえ!!」 「正義の騎士リゼリナ参上!!!!! です!!!!」 「「「うるせえ!!!!!!」」」 ドルドルドルドル。 エンジン音が大きすぎて悪党どもの声もリゼリナにはよく聞こえない。 「そこの悪いことしてるあなたがた!!!!! 目が合いましたね!!!!! 名乗りなさい!!!!!」 「「「そのうるさいの止めろよ!!」」」 「このリゼリナと黒剣シナナイがその性根を叩き切ってやりましょう!!!!!」 「「「だからまずそのうるさいの止めろって!!」」」 「えっ!?!? なんですって!?!?!?!? 聞こえません!!!」 「「「その!! うるさいの!!! 止めろって!!!!」」」 ウォオオンウォオン。 ドルドルドルドル!!(エグゾースト音) 「もっと大きい声で!!!!」 「「「だから!! そのうるさいのを!!! 止め」」」 「もっと!! 大きな!!!!! 声で!!!!!! ウオオオオーーーー!!!!!!!」 「「「グワーーーーーーーーーッ!?!?!?!?」」」 ナムアミダブツ! リゼリナの人狼咆哮が炸裂だ! 会話からのよどみなきアンブッシュ、正直正道を名乗る騎士としてはどうなのか! だが待ってほしい、リゼリナにはそもそもユーベルコードを使った自覚すらない。 「……はっ!!!!!」 耳からたらーんと血を流して倒れている悪党の皆さん。 無辜の民の皆さん? その前に気絶したので問題なかったようだ。 「自ら改心して倒れるとは……敵ながらあっぱれ!! ですね!!!!!」 誰かこの暴走騎士を止めたほうがいいのではないだろうか。 バイクもろとも。 たとえばあそこだ。 町民の憩いの場である井戸端へ群がる野盗ども! 「おうおう、水が使いたきゃ俺らに許しを得な!」 「そんな……娘が熱を出しているのです、どうかお許しを」 薄幸そうな女が平伏すれば、やつれた男どもは下卑た笑みを浮かべる。 その視線の意味を悟り、若き母はぎゅっと目を瞑った。 なんたることか……! 「ったく、ろくでもねえことしてやがんなあ」 「「「誰だっ!?」」」 殺気立つ悪党どもを前にして、飄々とした面持ちの男が一人! 優男は不敵な笑みで片眉を吊り上げると、自らをこう名乗る。 「黒鳥流師範、セリオス・アリス……ってとこか? ま、我流だからな」 「聞いたこともねえぜ、田舎の三下流派じゃねえのかあ?」 「色男さんよぉ、俺たちゃこれからお楽しみなんだ! 帰(けえ)んな!」 徒党を組んで気の大きくなった悪党どもはげらげらと笑う。 そしてこれみよがしに御免状を見せつけるというわけだ。 「ハ! そりゃこっちの台詞だぜ?」 「何ィ……?」 「ま、井戸端と来りゃあ死に水を取るには最適だろうけどよ。 朗々たる煽り言葉に、余裕綽々でいた悪党どもが再び殺気立った。 だがセリオスには些かの恐れもなし。 むしろちょいちょいと指で挑発してみせる! 「てめぇ、くたばりやがれぇ!!」 御免状が禍々しく輝きセリオスを呪う。 「……あ?」 「なんだ、見えなかったのか?」 己が斬られたことすら察知出来なかった悪党は、呆けた面のままどさりと倒れる。 そして見よ! 振り抜いた剣から生まれる蒼き炎を。 悪党どもがなまくら刀を振るうより速く、ぐるりと回転飛翔し敵を薙ぎ払う! 「「「ぐわぁーっ!!」」」 「こ、この野郎! 嘗めんじゃねえぞ!!」 一山いくらの三下どもが吹き飛べば、頭目らしき男が血色ばんだ。 「へえ、お前は少しは腕に覚えがありそうだな」 「一刀流の村丸様だ! つかてめえ……鳥、黒くねーじゃねーか!!」 ごもっともな指摘である。 「あ? あー……まあ、アレだ。 お前が燃えて黒い炭になる、っつーか」 「どこまでもふざけやがってぇ!!」 疾い。 さすがは悪党どもをひとまとめにするだけはあるか。 だがセリオスの踏み込みはなお疾い! 気がつけば間合いの内側だ! 「何っ!?」 「おらよっと!」 がぎん! 打刀と青星が撃ち合う。 敵の一に対しセリオスの撃剣は二! 蹈鞴を踏みながらも留まった村丸が、全力を込めた袈裟懸けを繰り出した! 「死ねぇ!!」 「おっと」 がぎんっ!! セリオスも感心するほどの重い一撃である。 セリオスが引いた!? 「な」 拍子を崩された村丸は体幹を崩す。 その時青年は舞踏めいて一回転。 そして青星で打刀を払って守りを剥がすと、がら空きの鳩尾に左拳を叩き込む! バチバチバチ! とすさまじい雷撃が村丸の全身をつんざいた! 「げえええっ!」 「こいつはお釣りだ、とっときな!」 ざんっ! とどめの剣閃一条、その軌跡もまた蒼碧なり。 「ち、畜生、卑怯だぞ……」 ビクビクと稲妻の魔力に痙攣する村丸が、恨めしげに呻いた。 セリオスは悪びれもせず、刃を肩に担ぐとニヒルな笑みを浮かべて応える。 「おいおい、剣だけって誰が言った? 最近の流行りってのはなぁ」 ばちばちと雷の残滓を纏う拳を掲げれば、そこへ星の鳥が舞い降りる。 「剣も拳も魔術も、全部載せた強くてかっこいい流派なんだぜ?」 この伊達男、いかにも強者なり。 己らがいかに井の中の蛙だったかを悟り、悪党どもはぐたりと倒れるのだった! やれやれ、けったいな免状もあったもんじゃ。 我流、されどこの身は剣に秀でる烏天狗の加護を預かりし退魔の霊刀。 名などお前らにくれてやるつもりはない。 この身退魔の刃、ヒトを斬るものにあらず。 魔性の者でないのなら用はない。 俺を鞘に納めたまま、静かに、疾く、鞘や柄で昏倒させていく。 なにが楽しくて名乗りやら正面勝負やらをするものか。 俺は侍でも、ましてや武芸者でもない。 ただの、刀よ。 通りをそぞろ歩いていた士(さむらい)が、ふと足を止めた。 昼時である。 常ならば往来には多くの町人や働き手が行き交って、 さぞかし活気ある風情を描いていよう。 だがいまは無人の如く静まっている。 「やれやれ、けったいな免状もあったもんじゃ」 嘆息し頭を振る。 見れば通りの向こうから、男が数人やってくるではないか。 流浪の剣客めいた士と異なり、彼方の奴らはいかにもな風体である。 すなわち帯を着崩しだらしなく髷を解き、口元には卑賤な笑み。 ぎんぎらとした煙管やら大切羽やらを見せつけるあたり、趣味が悪い。 士を閉口させたのは、連中が懐から御免状をちらつかせているところであろう。 「あぁん……? なんだぁてめえ、ここらじゃ見ねえ面だな」 「この通りは辺り一面、俺らの縄張りって知らねえのかあ?」 にたにたと笑う浪人崩れが威張り散らす。 士は無言。 「けっけ、ビビって声も出ねえときたか!」 「おいおい、よせ野郎ども。 無知は悪いことじゃねえよ」 恰幅のいい親分らしき男が、手下どもをニヤニヤしながらたしなめる。 「いやいや親分、まさかあっしら紅湖五名刃を知らねえ奴がいるはずがねえや!」 げらげらと笑う悪党ども、いやさ紅湖五名刃! 無論それはでっちあげだろう。 斯様に士道も心得ぬ悪漢どもには、大仰に過ぎた二つ名である。 「ほう」 その時、士が口を開いた。 「三下どもを然様に有難がるとは、変わった風習もあるもんじゃ」 ぴきり、と周囲の空気が張り詰めた。 「……てめえ、今なんつった?」 士、含み笑いをひとつ。 「いや失敬、三一(さんぴん)侍とでも言ってやったほうがよかったかのう」 「この野郎……!!」 血気盛んな手下が一人、その言葉に苛立ち剣を抜き士を斬って捨てた! 「あ?」 だがそこで男は気づいた。 いやに手先が軽いことに。 ……鍔から先、太刀がへし折れているではないか! 「げええっ!?」 「て、てめえ何をした!?」 悪党どもは慌てて飛び退き、各々鞘走って身構える。 士、再び嘆息。 鞘は握れどその手は決して柄に運ばれず。 士は抜刀すらせずに柄尻で刀身を叩き折ったのだ! 「何者だ、こいつ!?」 「名を名乗りやがれ!!」 士はぎらりと悪党どもを睨めつけた。 「名などお前らにくれてやるつもりはない。 所詮は我流の身なれば」 実はこの士、人に非ず。 古くは烏天狗の加護賜りしと謳われる、退魔の霊刀の化身である。 どうしても名が必要な時のみ、この無愛想な刀はこう名乗る。 "無銘・飯綱丸"。 いかにも士らしい無骨で不器用な名と言えよう。 「お前達、免状は与えられどヒトの身は外れておらぬと見えるな」 退魔の霊力を宿した浄眼が、ヒトの本質を容易く見抜く。 呪いの顎が触手めいて士を絡め取らんとするも……さもありなん。 赤黒い波動は、男の裡より溢れる破魔の気配に鎧袖一触なり。 「き、気取ってんじゃあねえ!!」 親分らしき男が吼えた。 それを合図に四人が一斉に斬りかかる! 士、やはり抜刀せず。 腰元から鞘ごと刀を引き抜き、柄尻や鞘でもって敵を打つ。 剣が来ればこれを弾きあるいは砕き、首筋や鳩尾に重い一撃を加えて昏倒させるのだ。 瞬き一つの間に、あっという間に徒党は白目を剥いて倒れ伏していた。 「……まったく、何が楽しくて名乗りやら勝負やらをするのか」 士は頭を振った。 なぜならその身、侍にも武芸者にもあらぬただの刀なりと。 そして再び通りをしめやかに過ぎていく。 恐れ慄きながらも一部始終を目の当たりにしていた街の人々。 戸口の隙間から食い入るように男の背中を見送った幼子が、呆然とする両親に言う。 「すごいや、おさむらい様だ! 本物のおさむらい様だよ!」 悪漢どもを見逃さず、無用な殺生すらも控えて風の向くまま去っていく。 その背中、まことの士と呼ばずにどう呼ぼうか。 どっちを向いてもヒーロー不在!だったら俺がやらなきゃ誰がやるってんだ! [SPD] どこもかしこも悪党だらけ、1人ずつ相手してたんじゃきりがないぜ。 走り回って連中を原っぱに集めてまとめて決闘だ。 お前はどこのどいつだって? 誰が呼んだか、愛と勇気と熱い鼓動流のテイクとでも名乗っておくぜ。 俺の獲物はこのレンチかって?違う違う、今から見せてやるよ。 幸い街を駆け回ってる間に材料は十分集まったしな。 正々堂々真正面からUC即席爆弾で勝負だ。 そして悪あるところ苦しめられる人々がいる。 であればヒーローにも出番がある! 「ってなわけで……さあ、これだけ集めりゃ十分だろ!」 街から離れただだっ広い原っぱに、少年ひとり。 するとあちらから来るわ来るわ、うだつの上がらぬ悪党どもの群れ! 「が、ガキぃ! ちょこまか逃げ回りやがって!」 「ぜえ、ぜえ……ようやく追い詰めたぞ!」 「こんなとこまで来させやがって……!」 どいつもこいつも息を切らせて、口々に少年を罵る。 少年は挑発や不意打ちで悪党どもの気を引き、走り回りながらここまで逃げてきたのだ。 いや、逃げてきたというのは正しくないだろう。 「ふさわしい場にご招待したって言ってくれよ。 決闘てのはこういうとこが定番だろ!」 「決闘だとぉ……?」 「こいつ、よほどの命知らずらしいな」 「どこのどいつだ、名を名乗れ!」 数十人近い悪党を前にして、少年は少しの恐怖も見せはしない。 問われればむしろ胸を張って、こう名乗ってみせる。 「誰が呼んだか、愛と勇気と熱い鼓動流のテイク・ミハイヤー、なあんてな。 ……ちょっと長すぎるかな? ま、大した問題じゃないだろ!」 草原に風が吹き、テイクの赤いマフラーをたなびかせる。 悪党どもの目線は、彼が肩に担いだ動力機つきのモンキーレンチに集まっている、が! 「おっと、早とちりするなよ? 俺の得物はこいつじゃないぜ!」 "スチームモンキー"と名付けたチープウェポンを槍のように地面に突き刺し、 テイクがポケットから取り出したのは……はてな、ガラクタばかりだ。 割れた陶器片やら炭の欠片やら、これで何をしようというのだろう? 「ケッ、大口を叩きやがって! もうハッタリにゃ騙されねえぞ」 「こっちは数がいるんだ、逃げ回ったてめえの判断を恨むんだな」 「おい、やっちまおうぜ! 囲め囲め!」 ザザザザザ、と悪党どもがあっという間にテイクを取り囲む! そこで奴らは気づいた。 包囲網を敷く僅かな隙に、テイクがなにやら妙な物体をこしらえていたことを。 「おーおー、らしいことしてくれるじゃんか。 こっちは正々堂々真正面から行くぜ!」 ぽーい。 ガラクタの塊にしか見えない球状物体が……着弾、爆発!? 「「「グワーッ!?」」」 KA-BOOOOM!! 爆裂とともに陶器片が散らばり大ダメージだ! 「なんだこりゃあ!?」 「おっと、お決まりのアレを忘れてたぜ。 "いいわね? 行くわよ!"なあんてな!」 SWOOOOOSH……KA-BOOOOOOM!! 「「「ぎゃああああっ!!」」」 「くそっ、やっちまえ! 殺せぇー!!」 「そうは行くかよ、まとめてドカンだっ!」 BOOM! BOOM!! KA-BOOOM!! こんな開けた場所では遮蔽物に隠れることも、逃れることも出来はしない。 テイクは逃げていたのではない。 誰かを巻き込む心配がないフィールドで、悪党どもを思うがままに吹っ飛ばす状況をセッティングしただけなのだ! 鬨の声は、あっという間に情けない悲鳴と断末魔に変わってしまったのである。 流派を名乗って堂々と闘うとは、これほどオレに向いた依頼もねえ 実戦経験と流派の武名の為にも、悪党悪漢叩っ斬って行かなきゃな というわけでごり押しで解決のみだ。 そうでなくとも力を嵩に狼藉ばかりの奴らなんて風流さのかけらもねえし見過ごせねえ。 出来うる限りぶった切る。 ユーベルコードは春風だ。 徒党を組んだ野郎共に、風流ってのを教えてやらなきゃな、文字通り。 一切合切横薙ぎだ。 あと何はともかく武名を上げねば。 逐一流派の名前はアピールするぞ。 参らせてもらう。 突然ふらりと現れた男の声に、鋭い視線がいくつも応えた。 エルフの青年がやってきたのは、町外れにあるボロ屋敷である。 かつては郷士の立派な住まいであったであろうに、今や見る影もなく、 御免状を笠に着た悪党どものねぐらと化している始末。 しかもどうやらここに屯するのは、もともと徒党を組んだ賊の群れであるらしい。 「なんだぁ? ここはてめえみたいな優男が来るとこじゃあねえぜ」 「酒が欲しけりゃよそへ行きな、もっともここらの酒はみぃんな俺らが頂いてるけどな!」 げらげらげら。 略奪を隠しも悪びれもしないとは、悪漢ここに極まれり! そんな野盗どもの嘲りにも目くじら一つ立てず、青年は肩を竦めた。 「力を笠に着て狼藉三昧、挙句に弱えモン同士でお山の大将気取りかい。 ああ、やだやだ。 これだから風流の欠片も知らねえドサンピンどもはよ」 「んだとこらぁ!!」 歯に衣着せぬ物言いがよほど癪に障ったか。 野盗どもは額に青筋を浮かべ、ガシャガシャと剣呑な武器を手に取る。 あっという間に入り口を塞いで青年を取り囲み、じわじわとにじり寄るのだ。 「俺達"空羅党(くうらとう)"に嘗めた口聞いてくれるじゃねえか、ええ?」 「あん? なんだって? "ぼんくら党"?」 これみよがしに耳に手をやって、聞き間違えたふりをしてみせる。 「「「げぇえっ!?」」」 「なっ!?」 身構えていた後続は、己らの真横を砲弾めいて吹っ飛んだ仲間の姿に唖然! 一瞬である。 青年はすでに抜刀していた。 そして刀身が異様なのだ! まるで鞭めいてしなっていたそれは、しゅるしゅると音を立てて元の太刀へ。 薄い笑みすら浮かべながら、青年がじろりと悪党どもを睥睨する。 「いきなりご挨拶をくれるじゃあねえか。 もう終わりかい?」 「て、てめえ……な、何者だ!?」 ふっ、と微笑んだ青年が身構えれば、どこからともなく一陣の風。 「春夏秋冬(ひととせ)流、アロンソ・ピノだ。 悪漢どもに風流を教えに来てやったぜ。 さあ、かかってきな。 免状もろとも、一切合切オレが横薙ぎにしてやらぁあよ!」 「か……かまうこたあねえ、やっちまえ! 殺せ!!」 「「「うおおおおおお!!」」」 アロンソはニヤリと笑う。 そして再びの斬撃一閃! 瞬間、伝家の宝刀"瞬化襲刀"がしゃらりと伸びてしなり、悪党六人をばっさりと薙ぎ払う! 「「「ぐえええ!!」」」 「春夏秋冬流・春の型壱の太刀……春風。 春一番ってやつだ、避けてみなぁ!」 春一番などとはとんでもない、悪党を薙ぎ叩き斬る様はまさに颶風なり! かくして破れ屋敷の野盗どもを相手に、アロンソの大立ち回りが始まった。 「オレの流派は春夏秋冬流だぁ、地獄に行っても忘れんじゃねえぞぉ!」 風に乗って響く大音声に、外の悪党どもすら震え上がったことだろう! ……ふっ、常ならば君達のようなこざいくだよりの武侠くずれに名乗る名等は無いのだが……そうは行かないようだ。 然らば、そうだね。 これがどういうことか解るか? 僕は得物を持たないのでなく、持つ必要がないのさ。 得物の元は君達が用意してくれるし……なんなら、石礫一つあれば良い。 無形無尽流、幽薄紡糸。 ……なんて。 ね 多対一は慣れてるのでね【ロープワーク】【敵を盾にする】【地形の利用】+無形無尽流の弦術で裁いていこう。 そしてこの手の輩が好むことと言えば、酒に博打に女と相場が決まっている。 「よぉ~お嬢ちゃん、見ない面だなぁ? んん?」 そんなわけで銀髪の少女は、今まさに悪漢数人に囲まれていた。 着物をだらしなく崩した連中は、御免状を懐からちら見せしているものの、 間違いなく犯罪者上がりの無法者どもだろう。 武芸者ですらないのだ。 「俺っちの好みにゃちと歳が足りねえが、何、これも乙なもんよ」 「へ、へ、へ! そこがいいんだよそこがぁ」 下賤! 本人を前にして斯様な会話を控えもしないとはなんたる下劣さか! だが色白の少女は瞑目したまま、男どもの言葉を無視して歩き出そうとした。 「あ、が、お、俺の手が!? ああああ!?」 まるで鋭利な刃物で斬ったかのように、手首から先が切断されているのだ! 「こ、こいつ!? 妖術師か!?」 残る悪党どもがざざざっ! と後退って段平を構えれば、ようやく少女は眼を開いた。 虚のごとき黒い瞳に睨みつけられ、男達は金縛りに遭ったかのようになってしまう。 「常ならば、君達のような小細工頼りの連中に名乗る名など無いのだが」 しゅるしゅると音を立て、"何か"が少女の手に撚り集まる。 「これ以上は荷が勝つか。 尋常ならざる気配が張り詰めているゆえに。 まるでそれは、路辻を彷徨う恐ろしい亡霊と相対してしまったかのよう。 「無形無尽流"弦"術師、在連寺・十未。 細められた十未の眦に、あざ笑う気配。 「幻に見えるかい? あいにくだが違う。 僕の得物は鋼糸。 目に見えないほど細いが、ね」 「ほざけこのガキぃ!!」 二人目。 裂帛の気合とともに、振り上げた刀を兜割りめいて叩き下ろす。 十未は避けも防ぎもせず、ついと指先を伸ばして、降り来たる刃に触れた。 するとどうだ。 刀はひとりでにしゅるしゅると"解け"、そして消えてしまった。 否、消えたのではない。 すべては十未の言葉通りである。 「や、刃が消えてなくなっちまった!?」 柄から先が失せた剣を放り捨て、悪党が蹈鞴を踏む。 きらりと光の筋が煌めいたかと見えた瞬間、悪党の体はバラバラに四散する。 「ひいっ!!」 「い、糸だと!? どこから出しやがった!」 「見てたならわからないのかな? "変えた"んだよ」 ひゅるるる。 十未の掌の上に、喪われたはずの刀身"だけ"が現れた。 正しくは糸に変じていたそれが撚り集まったのである。 そして一流の糸使いである十未にかかれば、糸は見えない殺意の雨にも壁にもなる。 「僕は得物を持たないのではなく、持つ必要がないのさ。 ところでさっきは、なにやら僕を相手にあれこれ口走っていたようだけれど」 「「「う、うおおおおおーっ!!」」」 この時点で、生き残った連中はさっさと逃げるべきであった。 十未は表情を変えぬまま、最初に飛び込んだ一人を盾として糸を展開、攻撃を捌いて受け流し、淡々と片をつけていく。 「……適当に名付けてみたけど、こういうのも楽しいな」 歩み去る十未の足元で、御免状がバラバラに切り裂かれた。 風が吹き、紙片をさらっていく。 「ほう」 剣客は吐息を漏らす。 その口元は残忍な笑みを浮かべていた。 時間はやや巻き戻る。 「……って感じでいこうと思うんだけど、どうかな?」 長台詞を終え、オルハ・オランシュは得意げに笑った。 彼女の考えた"最高にかっこいい流派"の設定である。 「準備がいいに越したことはないのですが、流派の開祖まで設定する必要はあったんでしょうか」 対するヨハン・グレインは相変わらずの無表情で首を傾げる。 「いいのいいの、こういうのは細かいとこまで考えるのが大事なんだよ!」 「はあ」 「それに、あれまだ省略したほうだしね」 「完全に考えるのが楽しくなってるやつじゃないですか……」 ヨハンは呆れた。 オルハはいつもこうなのだ。 「とにかく! ちゃんと合わせてねヨハン、解説は任せたからね!」 「まあ、作戦は了解しました、やってやりましょう」 といったところで二人は石段を登りきり、荒れ寺へやってきた次第である。 そして時間軸は元に戻る。 (……なるほど、あれは) ヨハンをして中々の腕前と分かる、鋭い殺気。 そしてあの笑み。 いかに御免状があろうと猟兵と常人とでは差があれど、気を抜けば危ういか。 しかしオルハはヨハンの方をちらりと見ると、胸を張って一歩前に出た。 「其処許、儂の免状目当てで参ったか」 時代がかった口調で剣客が言えば、オルハは三叉矛を身構える。 「うん……じゃなくて! いかにも、その通りである!」 (微妙に素が隠しきれてないんですが大丈夫でしょうかね) 若干不安そうなヨハン。 剣客は大して気にした風もなく誰何する。 「神無双松前流・天全。 其処許も名乗るがよい」 二人は顔を見合わせ、こくりと頷いた。 オルハは朗々と名乗りを上げる! 「緒蘭朱(おらんしゅ)流槍術士、折葉! 推して参るんだ……じゃない、参る!」 そして飛び込んだ。 剣客はすでに柄に手を置いている! だがオルハの初動が先の先を得た。 小手調べの薙ぎ払いが大気を切り裂く! 「ほう!」 剣客はこれを見事に躱していた。 すかさずヨハンが合いの手を打つ。 「なかなかやりますね、あの緒蘭朱流槍術の初撃を避けるとは。 フェイントを交えての刺突。 狙いは喉! 「っと!」 「呵呵! 聞かぬ名だが中々の使い手よな!」 がきん、とウェイカトリアイナの柄と刃が拮抗し火花を散らす。 剣客は二度ほど小刻みな刺突を放った上で飛び退る。 攻め手は再びオルハへ。 (っ……ちょっと、体が重くなってきたかも) 呪いの影響か。 長期戦はどうやら不利と見えた。 ここは速攻で勝負を決めねばなるまい。 一つ大技を放ちたいところ……だが。 (あっ。 どうしよう、必殺技の名前考えてなかった!) ものすごくどうでもいい、ように見えて実はけっこう大事なことに気づくオルハ。 その間にも天全は刺突薙ぎ払いを丁寧にいなして躱し、攻撃の隙を伺う。 呪いの重圧は少しずつ高まる。 ここはヨハンを信じて撃つ他にない! 「君……じゃなくて、お主もなかなかやるではないか」 「ハ。 酔狂をほざいておる場合か?」 「それはこちらの台詞だ……である! せやぁ!」 瞬間、ヨハンと天全はオルハが消えたように思えた。 だが実際は、そう見えるほどの速度でオルハが踏み込んだのだ! つまり彼女は勝負をかけに行っている。 ヨハンの頭脳が高速回転した! 「! ……あれは、閃影迅!」 (なにそれ、かっこいい!!) 「鋭い一閃が影も残さず翔けるという……さすがは折葉さん、少女の腕であれほどとは!」 オルハの体が軽くなったのは、呪いが弱まったせいかあるいはノリにノッたからか。 反撃の糸口を失った天全は、徐々に徐々に圧されていく! がきん! ひときわ重い金属音とともに、両者は飛び離れた。 「ぬうう……!」 天全は呻く。 あちこちには避けきれなかった疵が増えつつある。 「これはどうやら、奥義を見せる時が来たようだ……な!」 (ほんとにああいう演技が苦手なんですね……仕方ないか) ヨハンはんん、と咳払いをひとつ。 「彼女が本気を出せば、狼藉者など……」 若干の間。 「……四肢を切り裂かれ舌を絶たれ、二度と陽の光は拝めないという。 だがオルハはあえてこれに乗ることにした。 空より来たる避けようのない多段攻撃である。 奇しくもその時、ヨハンとオルハの声はまったく同時に重なった。 「み、見事なり……」 どしゃり。 天全が倒れ、免状はボロボロと塵に変じて消えてしまう。 「ふっ、またつまらぬものを斬ってしまった……」 「それ、槍で使う台詞じゃないと思うんですよね」 「んもうっ、そういうツッコミはいいから!」 などと言い争いをしつつ、ふっとオルハは片目を閉じて微笑んだ。 ……意外なことに、ヨハンもまたこれに、リラックスした笑みを返す。 数多の戦いを、そして年頃の少年少女らしい交流を経た二人だからこその笑み。 (…………思ったより、楽しかった) だけではないらしいのは、ご愛嬌である。 つーワケだから、今回オレらは【チーム・いろは】で行こうかァ! ホラ、オレらの名前って頭文字が「あ・い・う」だからサ。 ってなワケでオレサマはトーゼン解説役担当だァ。 気張れよお二人サン! おっと、あっちゃんのあの技は『豪打・啄木鳥』!目にもとまらないスピードでキツツキみてーに全く同じポイントを突き刺す妙術!あれ難しいんだよな真面目に。 槍でもスナイパーかよ。 あ、いっちゃんたら『無明長夜』出してる。 敢えて視界を捨てることで相手のフェイントを無視し、的確に急所を刎ねる技だ。 手加減してなきゃ首が落ちてたナ! コレ楽しいな!UCで臨場感溢れる実況しちゃろ!がんばれアホ共ー! なーにが【チーム・いろは】だっての、この性悪狐……。 流派、流派ねぇ……そんなの考えた事もなかったなぁ。 僕の槍は完全に我流だし……。 でもこういうの考えるの、楽しいよね。 なんかカッコ良さげな感じにしたいなぁ。 うーん……よし。 やあやあ、遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ! 我こそはカルラ流槍術の皆伝者、アルバートなり! 蛮力ひけらかす卑賤の輩め、この僕が相手してやろう! こんな感じかな? あとは変に魔術使わないで、UCで技能を底上げしつつ槍で戦っていこう。 地に足着けて戦うの久しぶりだなぁ。 羽根は仕舞っておこうね。 しかし……狐うるせぇな……。 絵に描いたような、しかしけっして許されてはならぬ悪行がそこにあった。 「元はと言えばお袋さんよぉ、あんたが俺らにぶつかってきたのが悪いんだぜぇ?」 「で、ですから私のことはどのようにしてくださっても……」 「あぁ? 俺らに指図するつもりかこのババア!!」 「おかあちゃあ~ん! びぇえええ~!!」 ……とまあ、このような有様である。 幼子の年頃はまだ3つか4つといったところだろう。 母の顔立ちも若々しい。 だが悪党どもが意に介することはない。 むしろ下卑た舌なめずりをする始末! 「おい、さっさとその餓鬼を黙らせちまえ。 そのあとはよう……」 「お願いでございます、その子だけはどうか……!」 覚悟を決めた母親の嘆願も、卑劣な連中の耳にはまさに念仏か。 泣きじゃくる幼子が地面に叩きつけられようとした、その時! 「あでぇっ!?」 「「「!?」」」 幼子の襟首を掴んでいた輩の手の甲が、ばっくりと砕けていた。 そして勢い余って宙を掴んだ幼子に、何かが絡みついてぐいっと引っ張る。 杖である。 一撃で外道の手を叩いて砕き、素早く幼子を絡め取ったのだ。 続けざま、母親を取り囲んでいた一党がわけもわからず吹っ飛んだ! 「「「うおおおっ!?」」」 「な、なんだ! 誰だ!?」 「いいねェ、お決まりのセリフって大事だよなァ!」 誰何の声に応えたのは、ボリューミーな赤髪が特徴的な伊達男である。 「チーム・いろはだ。 今回はそういう趣向らしい」 巨漢が真面目くさった……より正確に厳密に表現するならフラットな声音で言う。 その機微に聡く気付くようなものでなければ、理知的で温厚と見えるだろう。 「それ、ホントに使うの?」 不満げな優男の言葉に、伊達男がカッカと調子よく笑う。 「こんな奴らにゃ"それ"で十分だろ? それにホラ、オレらって名前の頭文字が"あ・い・う"だしサ」 「だからってなーにが"いろは"だっての、この性悪狐……」 などと軽口を叩く優男だが、この状況そのものはまんざらでもないらしい。 三人して、人助けだとか悪党をやっつけてやるなどという義憤は見当たらない。 つまりは景気よく暴れられればそれでいい、そういう連中であった。 「こいつら、ふざけてんのか!?」 「まァまァ焦りなさんなって、ほれお二人サン、ちゃんと名乗らねェと」 主犯格……もとい焚き付け役の荒・烏鵠はさっさと後ろに退いてしまいつつ、 うまいこと優男と巨漢に水を向け、悪漢どもの注意をそちらに逸らしてしまう。 殺気立った視線がいくつも向けられるが、二人がそれを恐れる節はなし。 「だってさイル、なんか考えてある?」 「この杖術は烏鵠から教わったものだからな、当時の奴はどう名乗っていたか……」 呑気に腕組みなどして、巨漢はしばし沈思黙考。 やがて"ああ"と思い出した様子。 なんだかんだで名乗りには胸躍るものがあるのか、その隣でひゅんひゅんと槍を構えた。 「やあやあ、遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ! 我こそはカルラ流槍術の皆伝者、アルバート・クィリスハールなり!」 なかなかどうして、威風堂々とした朗々たる名乗りである。 実際のところは我流なので何もかもでっちあげなのだが、こういうのは迫力が重要だ。 その点において二人は満点と言えよう。 悪党どもは気圧される! 「蛮力ひけらかす卑賤の輩、この僕が相手をしてやろう!」 「このイリーツァ、義によって助太刀いたす」 といった具合である。 後ろの烏鵠は大受けで手を叩いている。 性格が悪い。 助けられた親子にとっては、まさに天の遣わした救いも同然なのだが! この奇妙な三人組のやりとりに毒気を抜かれていた悪党どもも、 どうやら連中が自分達をぶちのめしに来たのだと分かると再び血色ばむ。 「嘗めた連中だ、畳んじまえ!」 「「「おおっ!!」」」 数にして十……いや二十近い連中、いずれも免状をひけらかした悪漢ども! 「来るがいい虫けらども。 叩き潰してやろう」 「こんな感じでいいのかなぁ? じゃあまあ、始めようか」 かくして戦端は開かれた。 だが趨勢は誰の目にも明らかである。 呪いによる補正を差し引いても、いろはの二人の方が圧倒的に上手だからだ。 「地に足着けて戦うの、久しぶりだなぁ」 世間話めいて軽く言いながら、アルバートはすいすいと敵の攻撃をかいくぐる。 いや、そもそもあまりにも自然な動きゆえに、懐に入られたことすら敵は察知出来ないのだ。 先ほど吹き飛ばされた悪党どもも、こうして間合いに飛び込まれたのである! 「ぎゃああ!?」 「お、俺の脚がぁ!」 アルバートの両手が霞んだ瞬間、敵の苦悶が木霊する。 まるで畳針で縫い留められたかのごとく、手足に穿たれた大きな穴! 「おっと、あっちゃんのあの技は……『豪打・啄木鳥』!」 「ご、ご存知なんですか?」 幼子を掻き抱いてへたり込んでいた母親の台詞に、烏鵠はナイス! と指を鳴らす。 「目にも止まらないスピードで、キツツキみてーに全く同じとこを突き刺す妙術! ……あれ、難しいんだよな真面目に。 槍でもスナイパーかよ」 然り。 アルバートの本来の戦闘方法は斯様な"生っちょろい"やり方ではない。 今の彼は、猛禽の黒翼を隠せし一人の槍手であるゆえに。 目で見ずにしていかに敵を捉えるというのか? 「いや、そんなことねえぜェ。 ありゃ『無明長夜』の構えだなァ」 そして狙いすましたかのように、烏鵠の名解説が挟まれる。 杖術には些か不似合いかつ不穏当な響き。 直後、それは現実となる。 「ぐええええ!!」 ひとつ、ふたつ。 瞑目したままのイリーツァによる的確な打撃。 それはまさしく敵の腕を足を刎ね飛ばすような鋭さで、前後左右の悪党を昏倒させるのだ。 「手加減してなきゃ首が落ちてたナ! さすがいっちゃんだぜ!」 この技、本来の銘を"不推不察・超直観"と呼ばれている。 五感に頼ることなく、直感を研ぎ澄ませて"正解"を見出す。 そこに"もしも"はありえないのだ。 「おお! 今度はあっちゃんの『瞬打・百舌鳥』が炸裂だァ!」 「……あのさ、イル」 「すげェ! いっちゃんもまさかの『暗夜套路』でガンガン攻めやがる!」 「どうした、アルバート」 軽々と悪党どもを薙ぎ払いながら、アルバートはげっそりとした顔をした。 「あの狐、うるさくない? いや、ていうかうるせぇ」 「そうだな。 楽しそうでなによりだ」 「イルらしい感想でなによりだよ……」 次から次へと悪党どもが駆けつけては、鎧袖一触とばかりに打ち倒されていく。 「コレ楽しいな! 化けて終わりじゃ能がねェ、がんばれアホ共ー!!」 一方の烏鵠、いよいよ解説芸に磨きがかかりその様まさしく"万両役者"。 二人の大立ち回りと一人の名調子は、悪党どもが山と積み上がるまで続いたという。 「俺の流派は神酒坂風桜子抜拳流」 挨拶し。 「今はシティ拳豪の神酒坂恭二郎だ」 名乗りを残して背を翻す。 挨拶から名乗りまでの間は1秒足らず。 恭二郎の抜拳術は30分の1秒で放たれる。 10人ばかしの悪党を倒すには、少しばかし長すぎる時間だった。 紅湖の悪党の中でも、ことさら腕自慢として名を知られる連中がいる。 武のためならば殺人をも厭わぬという、札付きの罪人どもだ。 常に十人。 されど一切馴れ合うことなく、隙を見れば互いに殺し合う。 飢えた猛虎すら素手で殺すという、恐るべき達人集団。 御免状を賜るに当たり、これほど向いた奴らもいなかろう。 今や奴らは街の一角を己らの縄張りと定め、完全に支配していた。 よその悪党どもから守るという名目で、近隣の住民から酒や金子を巻き上げているのだ! 「……で? その十指鬼のねぐらと分かってて、来たわけか」 剣呑な入れ墨を全身に施した男が、闖入者に向かって凄む。 常人ならば、その一睨みだけで言葉を喪い立ちすくむだろう。 入れ墨男の他にも、巨漢や太っちょ、はたまた痩せぎすや小男……。 多種多様な奇人変人が、合わせて十人。 まさに十指鬼の集いである。 あたりには酒瓶や食い散らかした飯が、さながら獣の屍肉めいて散らばる。 否、獣の死骸"も"、である。 太っちょが血まみれで骨をしゃぶっている。 浅ましくも凄まじい有様。 だがふらりと現れた男は無言である。 凄まれてなお、あたりに立ち込める血臭を浴びてなお、口元には薄い笑み。 「おいおい、あんまりビビらすなヨォ。 震えて声も出なくなってるゼェ?」 小男がヒョッヒョと気味の悪い笑い声をあげた。 それがあまりに涼やかで平易な声音だったものだから、誰もが呆けた。 訝しみながらも、闖入者の言葉の続きを待つ他なかった。 「お前さんらが居るとは知らなかった。 ただふらついてただけなもんでね」 ……誰ともなく、十指鬼は笑った。 声を上げてげらげらと笑った。 己らの縄張りに踏み込んでおいて、"知らなかった"と来る! 「は、は、ははは! こりゃいいや、傑作だ!」 「命乞いにしちゃあ新しいや、ぐひひひひ!」 「こ、ごいづ、喰っでいいのがぁ?」 よだれを垂らす太っちょを、刺青男が制する。 「よせよ。 刃めいた双眸が闖入者を睨めつけた。 「"そういう挑発だ"なんてことは、ねえよなあ?」 笑い声が、止む。 すさまじいまでの殺意が周囲を張り詰めさせる。 鳥すらも恐れおののき頭上を飛ばぬ有様で、男はしかし笑っていた。 名前より先に、己の武術流派を名乗る、それが意味するところはひとつ。 十指鬼は血走った目で男を睨みつける。 誰かの拳がごきりと鳴った。 それぞれの殺人武芸が繰り出される緊張。 筋肉がぎちぎちと縄めいて引き絞られる音! 「今は、"シティ拳豪"の……神酒坂・恭二郎だ」 ふざけるな、と誰かが言った。 嘗めるな、とも誰かが言った。 そしておそらくは同時に飛びかかったはずだろう。 だがその時、恭二郎はすでに踵を返し、すたすたと歩いていた。 一秒にも満たぬ、一瞬である。 一体この男は何をしに来たのかと、常人ならば思うことだろう。 名乗るだけ名乗って逃げ帰るつもりなのか、と。 否である。 その時すでに、恭二郎の拳は叩きつけられていたのだ。 神酒坂風桜子一刀流・"石火(いわほ)"。 本来ならば電光石火の速度で刃を振り抜く、神速の抜刀術。 剣の代わりに拳を抜き、放ち、そして打ち込んだ。 一撃わずか30分の1秒。 十指鬼に叩きつけられた拳は十と四つ。 その者ら、腕自慢として名を知られる悪党徒党。 されど、神酒坂・恭二郎にとっては一山いくらの雑魚である。 うだつの上がらぬサンピン侍が無様に倒れ伏す。 これでちょうど十人目。 免状狩りは上々と言ったところだ。 「ほう……どこの誰かと思いやこんな餓鬼とはな」 「む!!」 ゆらりと姿を現した悪漢に、少女は表情を変えて身構える。 纏う気配が、これまでの雑魚とは一味違うと知らせていた。 「目当ては俺か、免状か、両方か。 この心眼流の道雪斎様にかかってくるつもりなら名乗りな!」 懐に差した御免状が赤黒く輝き、悪漢あらため道雪斎の体を覆っていくではないか! さらに呪いは少女にすら作用し、じわじわと体の動きを重くさせていく。 「師匠! よいですか? よいですね!」 少女が独り言めいて呟けば、彼女が着けた眼帯から声がする。 『……まあ、これまでの雑魚狩りはすべてそのためのもの。 悪漢だけを斬るならばそれでよし。 油断だけはするでないぞ?』 「承知!」 そして意気揚々と道雪斎を見据え、少女は朗々と名乗りをあげた。 「聞かれて名乗るもおこがましいが、聞かれたからには名乗りましょう! ウチこそがアルダワ新選組切り込み隊長! スペースジゲン流リョーコ・アサギだー!」 「なんだぁそりゃ、聞いたことねえな! 田舎の三流剣法か!」 もとよりリョーコと"師匠"が悪党どもを見逃すつもりはないが、 このあからさまな挑発は彼女らにとって覿面に効いた。 『……叩きのめしてやるでござる、リョーコ!』 「もちろんです!規律を破り、世の風紀を乱すものはウチが叩き斬ってやる!」 罰・即・斬を合い言葉に、サイキックエナジーの刃を纏いし剣を構えた! スペースジゲン流とはすなわち示現流に通ず。 示現流は、猿叫とも呼ばれる奇怪な怪鳥音とともに一ノ太刀を叩き込む流派だ。 ゆえに道雪斎は、当然上段からの打ち込みを警戒した。 した、のだが……リョーコの剣速は、ヤツの想像をはるかに越えていた! 「ちぇすとぉーっ!!」 「ぐほぉっ!?」 一撃! 一撃である! 防御のために構えた剣を叩き折り、大上段から叩き込まれた振り下ろし一条。 真正面から正々堂々と挑みかかるという士道に相応しい戦いぶりが、 呪いをはねのけリョーコの力をさらに強化したといえよう。 「見たか! スペースジゲン流の恐ろしさをー!」 『ま、多少はやるでござるな!』 「ええーっ、満点ではないのですかー!?」 などと、やかましい凸凹師弟であったという。 ばなこ(f00572) いのちゃん(f01962)と「GWP」で参加 ルール上、武術に詳しい人が解説した方がいいはず! と解説役に あのユーベルコード(黄金果実の情熱)を解説するの? あれは!…あれ、は…何? ええい勢いで押し切れ! 「流派絢爛芭蕉とは、UDCアースがまだ戦乱の時代。 悪党どもが村を支配して農民を強制労働させているのだ! 睡眠食事はおろか水分補給さえ制限された農民達は、目も虚ろで足元が覚束ない。 「も、もう無理でさあ、勘弁してけろ……」 頬のこけた農民男性が、悪党の足元に跪く。 息も絶え絶えだ。 「口答えするのかぁ? ならお前を……いや」 ニヤリと笑った悪党の視線の先には……おお! 農民の若娘の姿! 「親の責任は子供に取ってもらわないとなぁ?」 「ま、待ってくだせ! おらぁ痛めつけるってんならわかる、あの子は関係ねえべさ!」 「ごちゃごちゃうるせえんだよぉ!」 すがりつく農民を蹴り飛ばし、悪党の魔の手が娘へ迫る! 若き娘が逃れられるはずもない、もはやここまでなのか……!? 「ハーッハッハッハァー!!」 「「「誰だっ!!?」」」 突如どこからか響き渡る高笑い、悪漢どもはたじろいだ! 「あ、あそこだ! 櫓の上にいるぞ!」 指さした先、物見櫓……のさらに天井に凛と仁王立ちする姿あり。 まるでその姿を照らし出すかのように、中天に登った太陽が逆光を背負わせる! 「ううっ!? ま、眩しくて見えねえ……!」 「そこまでだ! 悪党どもォ!!」 くるくるくる……しゅたっ。 軽やかな回転跳躍からの着地。 「何者だ、名を名乗りやがれ!!」 「よくぞ聞いてくれたじゃねえか。 決まった……! そんな彼女の横にざざっと駆けつける影さらにふたつ! 「ねえお師匠様、今のってあそこ(櫓のこと)に登る必要あったのかな!!」 「あ、あんまり深くツッコまないほうがいいよ、いのちゃん……」 そっかー! と天真爛漫(ややアホっぽいとも言う)な笑顔で納得した、 白い髪に色黒の肌をした少女の名は八海山・いのこ。 そして二人のハイテンションっぷりに、苦笑いを浮かべているのが西行・胡桃だ。 合わせて三人、いずれも見目麗しき少女達。 だが悪党数十人を前にして恐れなし。 「あ、あんたがたは一体(いってぇ)……!」 「フッ、よくぞ聞いてくれた。 胡桃はちょっと恥ずかしそうだ! 「流派! 絢爛芭蕉!! ……百戦錬磨、甘味完食のナナコたぁアタイのことよぉ!!」 若干の間。 「絢爛芭蕉? 聞いたことあるか?」 「いや、ないな……俳人の名前じゃんよ」 「そもそも流派なのか二つ名なのかわかんなくねえか?」 悪党どもの反応はイマイチであった。 (お師匠様お師匠様、これ私達の出番じゃない!?) (そ、そうね。 じゃあいのちゃんは村の人達をお願い!) 了解っ! と笑顔で敬礼したいのこに人々の避難を任せ、胡桃はおほんと咳払い。 「流派絢爛芭蕉……それは、えーと……UDCアースがまだ戦乱の時代だった頃! 時の権力者が反乱を恐れて刀狩りを行った頃に興ったとされる流派……!」 「知っているの、お師匠様!!」 UDCアースってなんだ? 的な悪党どもの疑問は切って捨てる二人である。 なお、ナナコは腕組みをしてさあ解説しろとばかりにふんぞり返っていた。 何様だ。 「一見武器だとは思われないよう、バナナを使って戦った反逆者達が始まりだと言われているわ。 つまり……そう! バナナを使って戦う、まったく新しい武術流派なのよ!!」 「な、なんだってぇー!?」 どぉーん。 いのこと胡桃のコンビネーションはある意味完璧であった。 バナナが武器? 物ですらなく? みたいな悪党どものごちゃごちゃを察したナナコが、くわっと目を見開く! 「御高説はここまでだ! 悪党ども、テメエらの悪行はアタイ達の前では許されねぇぜ!」 「すごい、ナナちゃんが強引に話をねじ込んでいったよ!」 「私達必要なのかしらこれ!?」 ジャキン! ナナコが両手に取り出したのは……おお、見よ! 「バナナだ」 「バナナだな」 「バナナ? バナナナンデ!?」 コワイ! なぜか両手にたっぷりのバナナのぶら下げてドヤ顔のナナコ! あまりの意味不明っぷりとドヤ顔っぷりに悪党はある意味でたじろいだ! ついでにいうと助けられる側の農民のみなさんもだいぶ訝しげな顔だ! 「見ておけよテメェら……ここからが絢爛芭蕉の恐ろしいところだぜ」 「「「うう……っ!?」」」 ナナコのただならぬ眼光に、武器を構えていた悪党どもは尻込みする。 その隙にいのこは農民達を助け出し、戦闘の邪魔にならない場所へ避難させるのだ。 「まさか、あの技が出るというの……!?」 「お師匠様、知ってるの!?」 (……知らないし嫌な予感しかしないけど、ここは勢いで乗り切るわ) (そっか、勢いは大事だよね!) 解説役&驚き役の二人もある意味ハラハラドキドキである。 そしてナナコは……おもむろにバナナを……おお、なんたることか……! バナナの皮をむいむいと剥がし、そしてバナナを……バナナを!? 「このアタイの恐ろしさを、思い知らせてやるからな! いくぜぇ!!」 バナナを食べ……食べない! 食べないが目の前にぶらさげて凝視する! 「うおぉおおおお!! バナナが、バナナが食べてぇえええ!!」 食べたい。 だが食べない! 眼の前にちらつかせるだけで我慢する! どこからどう見ても狂人だ! だがあまりの熱意がオーラめいて揺らぐ! 「あ、あの技は……あれは!」 「あれは!?」 いのこがうまい具合に合いの手を入れる。 胡桃は……。 「……あれ、は……何?」 バナナを手に持ちメラメラと荒ぶるナナコ。 かなりセインではない光景である。 「よ、よくわかんねえがやっちまえ!」 「「「うおおおおおっ!!」」」 そこへ襲いかかる悪党ども! 悪い夢は終わらせるに限るからだ! ……だが!! 「「「グワーッ!?」」」 見よ。 飛びかかったはずの悪党どもが放射状に吹っ飛ぶ! ナナコは無傷。 それどころか陽炎めいて揺らめくほどの闘気、体が巨大に見え……いや、 実際に巨大化している。 ぐんぐんと大きくなっていく! 「「「な、なんだーっ!?」」」 「うおぉおおお!! バナナを求める! このバナナへの熱い想い!! この力が、感情が! アタイを成長させ強くしていくぅうう!!」 「目の前にあんだから食えばいいじゃねーか!」 「問答無用だ喰らえーっ!!」 「「「ぎゃああああ!!」」」 鎧袖一触とはまさにこれ。 悪党どもは為す術もない! 「……えーと」 気を取り直した胡桃は勢いで押し切ることにした。 「あの技は、あまりにも絢爛芭蕉が強すぎたために、バナナの所持も禁じられてしまった時の伝承者達が『なら食べてしまえばいいんだ! もともと食べ物だし!!』と思いついて編み出された技よ!」 「すごいや! それでどう強くなれるのお師匠様!」 「……み、見ての通りよ!!」 「見ての通りなんだ……そうか、そんなにすごい技なら、それならきっと!」 きっとも何もナナコの体は増大を続け、文字通り悪党どもを足蹴にしていた。 もはや悪党が悲鳴を上げて逃げ出す有様だ。 逃げ遅れた農民の皆さんも悲鳴をあげる。 「うぉおおおバナナバナナバナナバナナバナナァアアア!!」 「「「グワーッ!!」」」 もはや暴れ狂う怪獣みたいな勢いである。 「飢えれば飢えるほど強くなる……つまり、逆境に強い!」 「逆境っていうか蹂躙だよね、あれ!」 「それはそれで強いということよ! みんなで応援しましょう!」 「そうだねお師匠様! ナナちゃん頑張れ、すごいすごーい!!」 流派・絢爛芭蕉ここにあり。 その武名は大きく知れ渡ったことだろう。 「…………そもそもバナナって、なんなんだべか」 「おっとうも知らないんだべか?」 助けられたはずの農民達は、蹂躙を呆然と見守るばかりだったという。 〇アイリ・ガングール(f05028)さんと合わせ 呼ばれてないけど参上、です。 お天道様に変わっておしおきです、よ 狩猟本能に目覚めたきつねの怖さを悪漢に思い知らせて……、って、アイリさん……!? そんな性格でしたっけ……!? でも凄い戦術、です。 かっこいいです、ね……!私もがんばらないと 私の白兵戦技も、巷ではシス・テマとか言われているらしいので、ある意味流派、です。 では宴の参加者は? 顔にも脛にも傷のありそうな悪党ばかりである! 壁際には何人ものうら若き乙女達が並べられ、酌に配膳にと右往左往していた。 「皆さんのおかげで私も商売繁盛してますからねえ」 「こちらこそ、旦那のおかげでのびのびと遊ばせて頂いておりやすよ」 「天下の御免状に呉服屋旦那のご後見とくらあ怖いものはねえや!」 「法度も政令もくそったれ、てなもんだぜ!」 ガハハハハ! と笑いあう悪党と呉服屋。 なんたることか……! あろうことか呉服屋の主人は御免状を賜った悪党どもを囲い込み、 食客としてもてなすことで商売敵や都合の悪い相手を蹴落としているらしい。 免状を持つ者だけが悪党ではないということか。 ではこの娘達は!? 「さてお前達、わかっているね?」 呉服屋のいやらしい笑みが、かすかに震える娘達へ向けられる。 ……然り。 彼女らは法外な借金や言いがかり、あるいはより直接的な脅しによって、 呉服屋の屋敷へ連れてこられた無辜の町人達である。 夫や両親、はたまた友人や子供を守るためにいいように使われているのだ。 無法ここに極まる! 悪を糺す正義は、もはやこの地から喪われたのか!? ……否! 突如として外から警備の悲鳴が響き渡り、悪党どもは殺気立った。 勢い衾が開かれ、血まみれとなった浪人が転がり込んでくる! 「どうした騒がしい!」 「だ、旦那様! ふ、不埒者が、屋敷の正面からこちらへ……!」 「なんだと!?」 がくり。 浪人はそのまま昏倒してしまった。 そして戦闘の鬨の声は、まさに酒宴場に面した中庭へとなだれ込んでくる! 「コココココ! いやぁ、こうしてると昔の頃を思い出すねぇ! こうしてあちこち攻め込んで、悪代官をぶった斬ったもんさ」 奇矯な笑い声とともに颯爽と現れたは、金の髪が艶やかな幼子である。 だが心せよ、この女、見た目にそぐわぬ長齢老獪、武も呪も究めた剣豪術士なり。 「聞けぃ悪漢ども! 我は天正新谷新道流が師範、アイリ・ガングールなり!」 「何! 天正新谷新道流とな!?」 「知っているのか雷丸よ!」 雷丸と呼ばれた禿頭の悪漢が、持っていた盃を握り潰しながら頷く。 「今は亡びしさる国に伝承されていた、ただならぬ流派と聞いたことがある。 その剣、風よりも速く岩より重く、先の先を得ては出を潰す剛剣であると」 「コココココ。 存じておるとは見上げたものじゃね、みどもは嬉しいぞぉ?」 異色の双眸が艶然と緩く笑みに歪んだ。 あどけなさにそぐわぬ妖しの色香……。 「と、相手はアイリさんだけではないですよ?」 手足をてんでばらばらにへし曲げられた浪人を放り捨てつつ、 続けざまにやってきたのはやはり妖狐の少女。 前髪で覆われているはずの双眸は、たしかに悪党どもを見据えている。 「流派は……シス・テマとしておきましょう、か。 巷ではそう言われている、とか。 アイナ・ラウタヴィーラ、呼ばれてないけど参上、です」 お天道様が見逃そうと、悪漢どもの所業を見逃すはずはなしと身構える。 アイリよりは一回り大きなれども所詮は少女の体躯、だが異様なまでに充実した殺気! 然り、この娘、見た目に反して恐るべき戦場傭兵なのである。 女狐だからと嘗めていれば、あの浪人どものような目に遭うは必定か! 「せ、先生! 畳んでしまってください!」 「どうれ……」 「余興にゃあちょうどいいな、きっひっひ!」 「化生なら我が刃にも不足なしよ」 悪漢どもは各々剣呑な武器を構え、悠然と中庭に降り立つ。 「重畳じゃね。 しからばいざ、尋常に立ち会わん!」 「応さ小娘。 この新陰如月流が吉政、相手になろうぞ!」 アイリの挑戦に応じたのは、二刀流を構えた鷹の目じみた鋭き眼光の剣士! 雷丸は瞠目した。 立ち合いが始まった直後、アイリの姿が消えたからだ! 「吉政殿、注意めされよ!」 「失伝流派何するものぞ……ぬうっ!?」 疾い。 だがアイリは剣豪であるとともに呪師でもある。 妖狐仕込みの呪術ここにあり。 機動力が強みたる二刀流が圧されるばかりとは! 「そうらそらそらそらそらぁ!!」 「アイリさん、そんな性格でしたっけ……!?」 旧知の仲であるアイナをして、攻め手の苛烈さはすさまじい。 いや、あそこまで高揚に酔いしれる女の姿は初めて見るのではなかろうか? 「でも凄い戦術、です。 かっこいいです、ね……!」 「よそ見をしてる場合かァ、女ァ!」 「……私も、頑張らないと」 そしてアイナと対峙するは、彼女の二倍近くの背丈を誇る異常身長の怪人! 「あいにく我流だ。 だが二つ名ならあるぜェ……クッキキキ。 "怪力乱人"の剛羅様たぁオレのことよぉ! バラバラにしてやるぜぇ!」 ビキビキと全身の筋肉が緊張する。 特に指先はもはや異形だ。 おそらくは膂力で相手を殴り蹴り叩き伏せ、握力で以て破壊する闘法と見えた。 アイナはいかにして立ち向かうか? ……構えるは小ぶりな刀一振りのみ。 「"狐刀一尾"でお相手いたしま、しょう。 どうぞ、かかってきてくだ、さい」 「そんな脇差みてえな刀で何が出来るってんだ、クソガキがぁああ!!」 ドウ、ドウドウドウ! 巨象じみた巨漢の突進がアイナへ迫る! 「剛羅が完全にキレたな。 あの娘っ子、もはや形も残るまい」 「いかにもよな。 天禀たる膂力で鉄の柱すら引きちぎる、まさに"怪力乱人"よ」 観戦に回る悪党どもは、アイナの無残な最期を予期し下卑た笑みを浮かべた。 だがただ一人……雷丸のみは違う。 冷や汗がこめかみを伝う! 「むうっ、あれは!」 「「「なんと!?」」」 そして次いで全員が驚愕した! 防御も回避も為す術なく捻り潰されると見えたアイナは、しかし! まず片腕の腱を一太刀で切り伏せ、空いた片手で敵の片腕を掴み受け流す。 勢いそのまま懐へ潜り込み、まず鳩尾へ痛烈な肘打ち! 巨漢は絶叫! 「触らない……でッ!」 「ぐほぁっ!?」 くの字に折れ曲がった上体をばっくりと切り裂き、さらに腹部へ膝! たまらず倒れ込んだ後頭部への回し蹴り。 痛烈かつコンパクトな連撃である! 「あ、あれほどの体格差を逆に利用するとは……!」 斯様な閉塞状況でこそ、アイナの白兵戦技(クロース・コンバット)は最大効果を発揮するのだ。 ……そしてアイリの側は! (攻め込めぬ、これが失伝流派だと……!?) 防戦に徹せざるを得ない状況で、吉政は屈辱に唇を噛んでいた。 そしてふとアイリが拍子を外した瞬間、防御が……がら空きに! 「な」 「よう耐えたもんじゃね」 剣士は震えた。 己が相対していた者の正体を知ったゆえに。 呻き声すらなく、亡国の名刀が剣士に引導を渡す。 剣刃一閃。 納刀音と対手が倒れ込む音は全く同時に。 「お見事、です!」 「うおうっ!? なんじゃ、そっちはもう終わっとったのかアイナ!」 髪で隠れているが、おそらく目をキラキラさせたアイナの小さな拍手に、 我に返ったアイリはテレテレと顔を赤らめて慌てた。 「いやぁ、おばあちゃん張り切りすぎたやね!」 「とても参考になりそうでし、た。 かっこよかった、です」 「あ、アイナこそ、戦いのときは中々に果敢じゃのぅ! コココココ……っ」 照れるアイリ。 真正面から称賛するアイナ。 尊みのある空間だ。 だが残る悪党どもはそうもいかぬ! 凝固した殺気を放ち身構える! アイナとアイリは咳払いして頷きあい、肩を並べて武器を構えた。 「さあて、次は誰がみどもの相手になるのじゃね?」 「誰からでも、かかってこい……です!」 かくて、死闘はなおも続く。 武侠御免状を持つ武人とお見受けする! 「実戦空手紫電会初段、雷陣・通が武を以って、汝に挑まん。 いまだ声変わりを迎えきらぬ少年の、しかしびりびりと大気を揺るがす声だ。 「……ほう」 ゆらり。 陽炎めいたオーラをどよもしながら、ボロボロの僧服を纏う怪人が振り向く。 背の丈は少年より三、四回りはあろう。 七尺近い巨体である。 「この繋心坊に勝負を挑むとは、見上げた心意気。 名乗るがいい」 巌じみた巨体が大きく両足を開き、大地を踏みしめた。 ずしりと地が揺れ、 まるで猛獣が足踏みしたかのように土埃が吹き上がる。 ただならぬ気配。 「実戦空手・紫電会初段、雷陣・通だ。 武を以て汝に挑まん……!」 対する少年……通もまた、ずしん!! と大地を踏みしめる。 だがそのまま腰を落とすことなく、まるで地面の反発力を受けたかのように、 小柄な体躯はふわりと浮かび上がり、やがて小刻みなフットワークを重ねる。 「お互い名乗ったんだ。 決して逃げたりはしねーよな?」 「笑止」 亀裂めいた眼窩に病的な眼光を宿した破戒僧は皮肉げに微笑んだ。 さながら力士めいた、四股を踏むかのような泰然自若たる繋心坊の構え。 対する通は、半身を切ったサイドスタンスで常にフットワークを刻み続ける。 静と動。 大と小。 剛と柔。 揺らめく赤い呪詛(オーラ)と紫電の飛沫。 繋心坊の言葉に、通が片眉を吊り上げた。 言わずもがな、奴が言及したのは、通が背負う一振りの刀である。 「ハッ、おめーらみてえな悪党には必要ねえよ!」 「…………笑止」 呪詛が濃密さを増す。 殺意が迸り、通りに面した家々を軋ませた。 対抗するかのごとくに、通の内側からバチバチと紫電が吹き出す……! ……そして、先の先は通が得た! 「っしゃおらぁ!!」 疾い! 文字通り稲妻じみた速度での接敵、そして二連蹴り! 繋心坊はあえてこれを避けずに、より深く強く地を踏みしめて受ける。 みしりと脛、そして脇腹を蹴り足が打つ。 通は瞠目し即座にバックステップ! ずしんっ!! 少年が鞠めいて後転宙返りを打った瞬間には、 直前まで彼が居た場所に雪崩めいた恐ろしい手刀が突き刺さっていた! (まるで大木、いや大岩だぜ……ちょっとやそっとじゃ揺らぎやしねえ!) 「どうした小僧、小手調べにもなってはおらぬぞ」 「言ってろ、ライトニングにいくぜぇ!!」 再びの踏み込み。 迎撃の前蹴りをあえてのしゃがみこみで避け、 立ち上がりながらのアッパーを鳩尾へ。 入った、だが筋肉の鎧が分厚い! 通は即座に拳を引き戻し、勢いを殺さぬまま跳躍、さらに鳩尾へ二連突き。 (どんだけ鍛えりゃこんな腹筋が作れんだよ……!) まるで手応えがない。 じんじんと痛む手の甲を強く握りしめながら、 通は裂帛の気合とともに首筋めがけ空中回し蹴りを叩き込んだ。 ……不動。 「笑止」 「!!」 破城槌じみた正拳突き! ばちんっ!! と奇妙な破裂音が響く。 「ぬう……?」 鼻骨は愚か頭蓋を破砕する心算であった繋心坊は、その手応えに呻いた。 通はこの一撃を見切り、巨木じみた手首を掴んで勢いを殺していたのだ! 「もらったッ!」 そのままぐるりと体をひねり、小柄な体躯で腕ひしぎへ移行……否! (動かねえッ!?) 繋心坊は両足で寝技への移行を拒否する。 そして腕を振り上げ叩きつけようと! 「ぬんっ!!」 「そうは行くかよ!」 通は即座に四肢を離し、腕を蹴って寸前で着地。 だが着地直後のよろめきを狙い、繋心坊は本命の踏み込みを終えていた。 「砕け散れぃ……!!」 あまりの威力に踏み込んだ地面が砕け、土埃が両者を覆い隠す。 正中線めがけた満身の正拳突き。 勝負あったか……!? ……土煙が、晴れる。 「教えてやる」 「何……」 見よ。 通は片手を頬に添えるようにぴたりとつけ、肩で押し出すように拳をいなしている。 「紫電とはすなわち死に至る電(いなずま)。 少年の裡なる稲妻が四肢を伝って迸る。 紫電とは死に至る電を伝えるものであり、すなわち至伝に通ず。 起死回生を自ら生み出す、一撃必殺ならぬ"連撃必殺"の套路。 狙いは顎下への飛び蹴りか。 繋心坊は全身に膂力を込め、これを凌ごうとする。 そして瞠目した。 全身を使っての踏み込み、撥条じみた緩急による威力の作動。 敵の攻撃を誘ってのカウンター。 威力は双方の運動力がそのまま倍増する……。 「がぼっ」 "紫電の空手(ライトニングファクター)"ここに完成せり。 血の塊を吐いて倒れた繋心坊、通は油断することなく残心を切る。 ひらりと舞った免状を掴み取れば、それはボロボロと炭めいて散って消えた。 「もらってくぜ免状。 一本と一緒にな!」 青天の霹靂の如き、晴れやかな戦いぶりであった。 看板娘は震えながら顔をそむけるしかない。 免状持ちに逆らうことは出来ないのだ! 「そこまでです!!」 悪漢どもは、突如として遮った声にギロリと振り返る。 そこにはなんと……男達の胸に届くかどうかという、小さな背丈の少女が一人。 「悪い人達の狼藉三昧、見過ごすことなんて出来る筈がありません!」 「あぁ~ん? なんだあお嬢ちゃん、ごっこ遊びかあ?」 「ままごとなら他所でやりな、他所でよう!」 悪党どものからかい言葉にも臆することなく、少女はきっと眦を決する。 「まさかたぁ思うが……俺らが免状持ちと知ってて逆らうんじゃないだろうなぁ?」 「その通りです!」 「けっ! 餓鬼が。 ならてめえの名前を名乗ってみやがれ!」 少女は腰に両手を置き、胸を張ったまま答えた。 「はつらさんに、悪い人達に名乗る名前なんてありませんっ」 「「「はぁ?」」」 悪党どもが声を揃えて呆れたのも無理からぬもの。 中には仲間の方を見て、こめかみのあたりでくるくる指を回す輩もいる。 しかしそれは見下しが過ぎるというものだ。 なぜならば……。 「さあ、外に出てください! お店の迷惑ですから!」 「うおおおおっ!?」 ぺたぺたと無造作に近づいたはつら、悪漢の腕を掴み外へと放り投げたのだ! 呆気にとられる他の連中も、次々にぽいぽい店外へ放り出される! 「痛ぇ!」 「なんだこの餓鬼、とんでもねえ馬鹿力だぞ!!」 「はつらさんはバカじゃありませんっ!」 唇を尖らせながら店外に出てきたはつらは、悪党どもが身構える前に剣を振り上げる。 ただし鞘に入れたままだ。 そう、このはつらという少女、実は人間ではない。 すなわちヤドリガミ。 人ならぬ怪力を持つ器物の化身なのだ! 「これこそ優鉢羅流の零の巻、悪いことをしたら地面に埋まって反省ですよ!」 首から下が穴に埋まってしまった悪党どもは、目を回して昏倒している。 なんという怪力、そして大破壊を可能にする不可思議な超重刀であろうか。 鯉口を切るまでもなく、悪漢をひとまとめに片付けてしまうとは! 「快刀乱麻を断つどころではありませんでしたね。 まあ問題ありません!」 ひょい、ひょいと地面に落ちていた免状を拾い上げ、はつらは微笑む。 「お天道様に顔向けできるぐらいに懺悔したら、またお会いしましょう?」 仮に改心したとして、この恐ろしい少女に二度も会いたがる輩が居るかどうか。 突然の救い主に、店の主人と娘も腰を抜かすほかなかったという。 そして頭数が増えれば増えるほど、この手の奴らは幅を利かせるものなのだ。 強き心を持たぬがゆえに悪に堕ちる。 驕慢はすなわち臆病の裏返し。 「おーおー、こりゃあまた盛大なこって」 ゆえに街の外れにたむろする悪党どもを前にして、青年が恐れを抱くことはない。 むしろ怒気の籠もった睨みなどどこ吹く風で、愉快げにニカっと笑ってみせるのだ。 「小悪党が揃いも揃って、何の罪もねえ人らをビビらせ大物気取りっすか。 そういうの、イキってるっつーんすよ? ま、知らなくても無理ねえか!」 かんらかんらと呵々大笑する青年を、悪党どもが取り囲む。 さもありなん。 見返す青年の凄絶な眼光に、恐れをなしたのである。 「"ナメてんのかテメェら"だ? そりゃこっちの台詞だぜ」 底冷えするような怒気。 一山いくらの悪漢どもはごくりと息を呑む。 「て、てめえ! こちとら天下御免の武侠様だぜぇ!」 御免状を掲げられようが、青年は萎縮するはずもない。 目当てはそれなのだ。 「ハッ! 弱者をいたぶるばかりのチンピラが武侠を名乗るなんざ、片腹痛ぇ」 青年が担いだ盾に、掲げるべき紋章はない。 なぜならば彼は傭兵まがいの騎士。 誇りとする家紋も家柄もなく、その日その日を生きる風来坊なのである。 自由を愛する遍歴騎士と言えば聴こえはいいが、所詮は根無し草の戦争屋だ。 落ちぶれたと言わば言え。 否定するつもりもない。 それでも騎士の家の出なのだ。 貫くべき道と精神、そして守るべきものがなんであるかは知っている。 「たとえ世界が違おうが、武芸者の在り方ってのは大して変わりゃしねえ。 それが青年の名。 外道に堕ちた悪漢を前にして、騎士が退くことなどありえない! 「ほざけ余所者がぁ!」 「たかが一人で何が出来んだ、あぁ!?」 「囲め! 数で圧して押し潰しちまえ!」 そしてこういう時、数を頼みに徒党を組むのもよくある光景。 辟易した様子で嘆息しながらも、リンタロウは銜えていた骨をがりっと噛み砕いた。 ばり、ごり、がぎん。 リンタロウは咀嚼したそれを躊躇なく嚥下する。 するとどうだ。 再びリンタロウの姿が霞のようにかき消えて、チンピラどもの間をくぐり抜ける! 「ど、どこだ!? 速すぎる!」 「捉えきれねえ! なんだこいつ!?」 「あ、脚が! 俺の脚がぁ!!」 色付きの風となったリンタロウには、誰も追いつけない。 達人ならまだしも、数を頼みに群れるごろつき風情に何が出来よう? 骨を喰らうことで力を得る。 これが"骨喰"リンタロウの力にして呪いである! ざっと一分。 土埃が舞い上がり、最後の一人がどさりと倒れた。 死んではいない。 手足の腱を的確に斬られ、二度と刀を握れなくなっただけだ。 「これにて再起不能ってとこっすねえ、まあ運が良けりゃくっつくんじゃねえっすか?」 「ち、畜生、覚えてやがれこの野郎……!」 痛みに呻くチンピラは、己の発言を後悔した。 太陽を背負い自分を見下ろす騎士の、殺意に溢れた眼光に射竦められたのだ。 こんな雑魚ども相手では栄誉にもならず、またその名誉を誇示するつもりもない。 が、辺りの住人に、ひとまずゴミ掃除が終わったことは伝えて回るとしよう。 「民草を安心させるのも、騎士の務めってやつっすからね」 さあっ、と気持ちのいい風が吹く。 リンタロウは、どこか故郷を思い出した。 シズル・ゴッズフォート、参ります!」 剣と大盾での「武器/盾受け」を駆使した、防戦を中心とした個人級白兵戦術 剣で斬り、いなし、時に盾での殴打や体術も交えつつ防ぎ、どうしても防げない攻撃は【無敵城塞】で受ける 言葉にすればそれだけですが。 相手は傷つかず、自分達だけが損耗する理不尽への恐怖……耐えられますか? 「力ある者には、相応の義務が生じるものです。 怯え震える民草を足蹴にして、げらげらと下卑た笑いをあげる匪賊ども。 耳に届くのは悲鳴、懇願、あるいは嘆願。 痛ましい叫びばかり。 武侠とは名ばかりの惨状である。 だが名は体を示すとも言うではないか。 形だけでもそう名乗るならば、相応しき振る舞いを求められるのは当然のこと。 「世も己も意に介さない。 なるほど、よくわかりました」 「あぁん? なんだこの女、一人でブツブツと!」 「おいおいずいぶん別嬪じゃねえかあ、けひひひ!」 女の存在に気づいた悪漢どもが、ぞろぞろと群れをなして取り囲む。 足蹴にされていた人々は、安堵と不安の入り混じった表情で女を見上げる。 己らから矛先が逸れたのは正直ありがたい。 だが次は彼女なのだ! それを見て見ぬふりが出来るほど、民の心は穢れていない。 悪党どもがたじろぎ一歩退けば、大きく息を吸い込み朗々と名乗りをあげた。 戦場において、己と家の名を高らかに叫ぶのは騎士の本懐、職務である。 声が大きく高く響けば響くだけ、それは味方を鼓舞する力となるのだ。 「神塞流陸殲術、防楯の型皆伝。 さて、このシズルなる女、実は只人ではない。 強烈な飢えと衝動を抱えながらも、薄く笑む様は凛々しくそして美しい。 しかして騎士を名乗る者ならば、美しいだけで済むはずもなし。 バスタードソードを苦もなく片手で振り回し、もう一方を守るは巨大な盾。 彼岸花と蝶の紋様を刻んだそれは、彼女の誇りである忠誠の証。 「な、なんだこの女、さっぱり攻め込めねえ!」 「くそっ、なんべん打っても斬っても隙がねえぞ!」 堅固とは、堅くまた固いさまを示した言葉である。 シズルの戦いはまさにそれ。 剣でいなし、斬り、あるいは柄で敵を打つ。 迫る攻撃を盾で凌ぎ、弾き、近づくものは打ち払う。 よしんば守りをかいくぐったとして、その身を超常の防御が包むのだ。 「これこそが防楯の型。 あなたがたの攻撃は決して私に届きはしません」 傷一つ負わせられはしないと豪語する、その言葉は事実である。 数十、ともすれば百の撃剣を浴びてなお、鎧はおろか肌にすら一縷の傷もなし! 「ひ、ひぃ! 化物だぁ!!」 「た、助けてくれぇ!!」 相手は傷つかず、撃てど殴れど響きもしない。 体力だけが減っていく。 さながら山を、あるいは海を相手にするかのような理不尽との戦いである。 人は、理不尽には勝てない。 体より先に心が折れる。 恐怖して潰走する悪党どもを、しかしシズルは心を鬼にして打ち据えた。 これが戦場ならば斬って捨てている。 だがここは戦場ではない。 ゆえに殺しはせず、昏倒させるに留める。 見逃すつもりは一切ない。 「力ある者には、相応の義務が生じるのです。 望むにせよ望まざるにせよ」 「ぐええっ!!」 背中を踏みしめられ、足元のチンピラが呻く。 「よく覚えておきなさい。 そして二度と、罪なき民を苦しませてもなりません」 金色の瞳には、たしかな嗜虐と血への高揚と陶酔があった。 満たされぬ植えを強靭な精神力で押さえ込み、正道たる騎士は悪を討つ。 そのさまは、まさに終わりなき求道そのものである。 そんな物に頼って人を傷つけたら、君達もそんなモノになってしまうよ。 咎を重ねたいなら、それを棄てて己だけでね。 咎は何時か廻り帰るものだから。 でも近くで人を襲ったら止めるけどね。 故郷の名前は無くなったし、僕等は七人だし。 悌が残ってるのかな。 夷洞みさき。 いざ尋常に。 物理のみ。 片手両手で車輪を振り回す。 【POW】 車輪の使い方を習っていたのは事実だしね。 車輪の回転音が【恐怖を与え】掠るだけでも摩擦で【傷口をえぐる】 車輪の輻(スポーク部分)で絡めとって色々へし折りつつ【敵を盾にする】 されど、基本は無慈悲に【踏みつけ】る。 馬の耳に念仏、というやつだ。 馬鹿とはまさによく言ったものである。 「君達、そこまでにしたほうがいい」 「「「ああ?」」」 だが世の中には、その愚行をあえて犯す者もいる。 ただし彼女の場合は、それが愚かとわからぬほど世間知らずなわけでも、 ましてや人の善性を脳天気に信じ切っているわけでもない。 「"そんな物"に頼って人を傷つけたら、君達も"そんなモノ"になってしまう。 どうしても咎を重ねたいならば、それを棄てて己だけでやるべきだね」 痩せぎすの女の神妙な物言いに、悪党どもはきょとんとしたあと声を上げて笑った。 どうやら連中にとって、彼女の言葉はさぞおかしいものであったらしい。 「なぁにわけわかんねえこと言ってやがんだ、こいつはよぉ!」 「ぎゃはははは、どこのお坊様だよ! 説法でお布施ねだりか!」 そんな嘲笑の囲まれようと、痩せた女はあるかなしかの笑みを崩さない。 「咎はいつか、巡り帰るものだ。 君達が咎を重ねることを僕らは止められない。 とはいえ、見てる範囲で人を襲うようなら、それはもちろん止めるけれどね」 なるほど、道理をあざ笑う悪党どもならば、彼女の物言いを嘲笑うのも納得か。 だが奴らはこの時点で気づくべきだったのだ。 "咎"の在り様と輪廻を説く、痩せた女の不可思議な雰囲気の正体に。 ……彼女からかすかに漂う、この世ならぬ海の薫りのその意味に。 「おい、ちょうどいいぜ。 この女で遊ぼうや!」 「けけけ! そりゃ豪気だな!」 下賤な笑みを浮かべ己を取り囲む徒党に、女はくすりと微笑む。 誘うような? 否。 嘲るような? それもまた、否。 たとえるならば、それは臨終を見送る死神めいた微笑み。 まあでっち上げなんだがね」 故郷の名は無く輩は在れど亡く、ただ遺るは悌のみ。 ゆえに名乗る。 「なんだ、この女……!?」 「お、おい、やばいんじゃねえか!?」 いまさら気づいたところでもう遅い。 すでに奴らは剣を抜いている。 そしてみさきは名乗った。 咎を殺す車輪がそのために来た。 彼らは現世の者。 されど罰するべき咎はそこにあり。 「殺しはしない。 ぎしり、ぎしりと車輪が軋んで回転する。 悪党どもは剣を振り上げる。 車輪の歩みが疾いということはない。 しかし緩くもないのだ。 現世の者であれそれは当然。 奴らは人々を甚振り悦楽した咎人なり。 軋み音が心を砕き、掠れば肌を皮を裂いて摩擦が肉をこする。 ならばと破壊にかかれば、これこそまさに悪手。 めきりと骨がへし折れる。 逃げ惑う者がいる。 それを追って車輪はぎしぎしと咎人を押しつぶす。 踏みつける。 これぞ貴様らの咎なりと、心と体に刻み込む。 車輪が軋む。 傷をえぐる。 刃を弾き、ぐるりとその身を盾にして、 同胞を従えた海鳴りの女が幽鬼めいてそぞろ歩く。 「た、助、助け……あぎッ」 「殺しはしないよ。 みさきは、ただ微笑んだまま、表情を変えることなくそう言った。 咎を殺し罪を禊ぐことこそ、その身に与えられた使命であるゆえに。 独学で覚え、指南書で伸ばした弓術です。 流派などありません。 即興ですか?無理です。 耀さんの提案された作戦に乗らせていただきますね。 過去に共闘した方でしたら戦法もおおよそ記憶していますし、 初見の方でも上手く合わせていきましょう。 書物で得た表現力を活かせると尚良しですね。 しかし、真の一手は次にこそ。 先程の攻撃は確たる死の刻印を与えたに過ぎません。 あの構え……いよいよですね。 麒麟を討ったと云われている、彼(彼女)の秘儀。 狙われたが最後。 己の死にすら気付かぬほど、鮮烈な最期を迎える事でしょう。 お疲れ様です。 お見事な戦いぶりでしたよ。 心底を震わせる重低音のビートを刻み、名乗りを上げる。 あるだわしきですめたりゅう・ぎたりすと 阿流蛇倭式出主眼多流・魏足素斗 才堂紅葉と申します、一手ご指南いただきたく 優雅な外国(とつくに)の礼儀作法で挨拶する。 戸惑う男達に向け演奏を開始 超絶技巧を見せつけ、悪魔を称えるが如き邪悪な歌詞を天使の如きクリアボイスで歌い上げる 「あら、かかってはこないのですか。 「おかわいいこと」 冷ややかな憐憫の眼差しを向ける。 激昂した男達の攻撃は流水の如く回避し、悪魔の演奏を続け心をへし折り。 曲の締めに蒸気ギターで殴り倒します。 なんだかここのところこういう役割が多いような気がする。 人形は訝しんだ。 おそらく気のせいだろう。 他のグリモア猟兵の予知だとまともなはずだ。 「なぜこんなところに、その、なんですかそれ実況席……?」 「いいところに。 ちょうど解説が欲しかったの」 ツッコミを完全スルーした神元・眞白はぽふぽふと解説席を叩く。 アルジャンテは言語によるコミュニケーションの限界と可能性に思いを馳せつつ、 これ多分断ってもYESを選ぶまで選択肢が出続けるやつだな、と諦め、 おとなしく眞白の誘いに従って解説席に腰掛けた。 寒風がぴゅうと吹き抜ける。 「……で、なんなんですかこれは」 「通りすがりの実況と解説」 「なんのですか……?」 いや聞くまでもない。 アルジャンテはわかってしまった。 なぜなら彼もまた、あのトンチキグリモア猟兵の口車に乗ってしまったのだ。 ……ホニャララ書房作戦! あれっ実況とかする作戦でしたっけ!? 「まあそれはいいのですが、肝心の解説をする相手はどこに?」 「おまんじゅう、おだんご、おはぎ、さくらもち……」 「すいませんどうしてガイドブックをパラパラめくってるんですか」 「あーあー、いけません。 解説さん、あー困ります、あー」 やる気が全く感じられない眞白からガイドブック(?)を取り上げるアルジャンテ。 読んでみると意外にガチな装丁がされていた。 どこの誰が発行してるのか。 「私達だけで席を用意したところでなんの意味もないでしょうに」 「大丈夫。 ほら、あそこ」 眞白が指さした先。 木枯らしとともにやってきたのは一人の女……!! ギャァアアアア~~~~ン!! 「うおおっ!?」 「なんだぁ!?」 酒を呷っていた悪党どもは、突然の重低音に飛び上がった。 というかもうギタリストでいいのでは。 ギャァア~ン。 呆気にとられる悪党どもに女は旋律をかき鳴らす。 「才堂・紅葉と申します、一手ご指南いただきたく」 「「「えぇええ……」」」 悪漢達は戸惑った。 萎縮も出来ないし脅かすこともできない。 むしろ可能な限り目を合わせないようにこの場を辞去したい気持ちで一杯だ。 「ええええ……」 それは解説席のアルジャンテも同じだった。 眞白は無表情である。 「あの、そもそも戦いでもなんでもないような」 「まだ始まったばかり。 ちゃんと解説しないと」 「あ、はい……」 そんな解説&実況席の困惑をよそに、無駄に優雅な礼儀作法を披露した紅葉は、 おもむろにピックを掲げ……そして! 力強くギターをかき鳴らした! ギャァアア~~ン!! ガリガリガリギュキューン! 「あれは!」 「知っているのですか、実況さん?」 「……解説さん、どうですか」 「あの聞いたの私の方ですよね」 「こういうときは、解説が大事だから」 「実況席必要あるんでしょうかこれ……」 アルジャンテは呆れ顔で彼方を見た。 ぽかんとしている男達。 ノリノリでギターを弾く紅葉。 悪い夢かな? 「あー……今の一撃……一撃? 一打……一フレーズ、ですね。 あれは天地をも揺るがすという……曲、曲としか言いようがないですね」 無駄に上手いのがなおさら不安と混乱を煽っている。 しかし、真の一手は次にこそあるはずです」 そう信じたいというのがアルジャンテの本音である。 悪い夢だこれでは。 多分あの歌が、なんかこう死の刻印的ななんかを与えているのだろう。 ギャァアアーンッ!! クインッ。 演奏が終わった。 静けさが戻る。 紅葉は目を閉じたまま余韻に浸っている……! 「「「…………」」」 「ふう……あら。 かかってはこないのですか?」 「むしろなぜこの流れで襲われると思ったんでしょうか」 「挑発は大事」 きらびやかな汗を拭い、紅葉はあからさまな嘲笑を向けた。 嘲笑われる側の悪漢どももさすがに戸惑うばかりである。 「所詮(ピー)野郎は(見せられないよ!)で(自粛)ですね」 「音声は加工してお届けしています」 「誰に対する発言なんですかそれは。 「よくわからねえがこいつ殺すしかねえ!!」 「「「うおおおおーっ!!」」」 恐怖である。 この女をここで殺らねばヤバいことになると本能が叫んでいた! そして襲いかかる悪党ども! 紅葉は流水めいてこれを避ける! さらに……ギャァアア~ン!! 演奏を再開した!? 「再開した」 「何故……?」 実況席も困惑するばかりであった。 「し、しかし。 あの構えはいよいよ、終わりのはずです。 終わってください。 相手はおそらく、己の死にすら気づかぬほど鮮烈な最期を迎え……」 「ッダァーーーーーーーーイ!!(ゴガシャア)」 「「「アバーッ!?」」」 「迎えませんでしたね」 「普通にギターで殴った」 「完全に力任せでしたね……」 クオンクオンクオン……残響めいてギターの旋律が消えていく。 蒸気ギターでぶちのめされた悪党どもを背に、紅葉は満足げな顔で片手を掲げた。 「…………終わり?」 「アンコールはちょっと勘弁していただけると」 だが紅葉はやる気だった。 悪い夢はまだ暫く続くのだ……!! 名乗りですか。 一般的な剣術……それもどちらかといえば競技用ですからこれといった流派があるわけでもないのですが。 そうですね、こちらの流儀に則るならば…… マクリントック式細剣術・中伝、アリシア・マクリントック、参ります! わが剣は人を殺める剣にあらず、その力を奪うのみ。 人を斬るための剣には敵わないでしょう。 ですが、貴方たちのような心無き者の剣にならば私が負ける道理はありません。 打ち合うのに向いた剣ではないですから、そこは注意して立ち回る必要がありそうですね。 「秘剣・虹光裂破!」 腕を狙って必殺の突きを。 大見得を切ってしまいましたし、できるだけ傷つけずに戦闘力を奪いたいところですね。 相手は一人なんだ、構うこたねえ!」 ざざざざざ、とチンピラの群れが両翼に展開する。 対するのは金髪碧眼の、淑やかな少女たったひとり。 明らかな人数差、ましてや相手は女である。 悪漢どもの警戒は過剰ではなかろうか? ……いいや、過剰などとんでもない。 彼女の足元を見よ。 すでに五人以上の悪党が、腕を抑えてのたうち回っているではないか! 「い、痛ぇ、畜生!」 「この女、つ、強ぇ……」 金髪の令嬢は、油断なく両翼の敵を視界に捉えながら独特の構えを取る。 フェンシングである。 この世界では滅多に見られぬであろう西洋剣術。 「いきなり現れたと思ったら、まさかここまで手こずらせるとはな……」 「よくもまあ暴れたもんだ。 名前を聞いておこうじゃねえかお嬢さんよ」 じりじりと包囲網が狭まる。 少女は決然と目をそらさない。 たおやかな眼差しには、しかし鋼のような力強い信念が感じられた。 「いいでしょう。 なし崩しに始まった戦いゆえに、名乗りが遅れてしまいましたね」 本来であれば、彼女が修めたのはあくまで競技用の剣術である。 ゆえに大それた銘があるわけではない。

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【アイスボーン】導きの地採取マップ|導き素材の入手場所とおすすめルート【モンハンワールド(MHW)】

龍脈に浸されし狂骨

Happy days < 10:45 オフィス街 路地裏 > 雲の中にいるような浮遊感が不意に断たれる。 思い出すのは全身に鉛を埋め込まれたかのような疲労感だ。 水に溺れているみたく息が苦しい。 睦美は必死にもがき、散乱していた意識を掻き集めた。 「大丈夫ですか?」 ふっと苦しみが和らぐ。 聴こえた声には真摯に此方の身を案じる気持ちが込められていた。 氷結そのものであるこの身であるが、優しい温もりが貴く思えるのは普通の人間と変わりはしない。 「あま…さわ?」 「天沢さんもいらっしゃるのですか?」 若いが女性にしては低めの落ち着きある声。 どこか斜に構えた雰囲気の天沢郁未のそれとは違う。 開いた眼に睦美には強烈すぎる真夏の日差しが飛び込んでくる。 眩しさに眩む視界には自分を覗き込む二つの人影が映っていた。 「あたし……生きてるの?」 「ええ、妖気の巡りが極端に悪化しているようですが、安静にしていれば大丈夫です。 樋端さん、いったい何があったのですか?」 「は、ははは、生きてるのか。 そうか。 あははははは」 何か問いかけてきているようだったが、睦美は無視した。 何もかもが馬鹿らしくなり、嘔吐するように哄笑する。 哂って哂って哂って哂って、耐え切れなくなった。 両手で顔を覆う。 笑い声の代わりに嗚咽が込み上げてくる。 泣き崩れる睦美に、彼女の上半身を支えていた少女は救いを求めるように傍らの連れに顔を向けた。 周りの困惑を顧みることも無く、睦美は子供のように泣きじゃくった。 残りカスの妖気が手の甲や顎を伝って零れ落ちる雫を氷の粒へと凍りつかせていく。 生きている。 死ぬはずだった自分が生きている。 それは喜ばしいことのはずなのに、睦美の心は痛みによって千々に乱れた。 自分が生きているということは、すなわち郁未があの悪魔に代価を払ったということだ。 やめろと言ったのに。 聞くなと言ったのに。 「 ほでなすっこの ばかやろうが 」 何もしなければただ自分が消えるだけで終ったのに。 罵ろうにも、郁未はもうこの場にいない。 睦美に出来ることは指を顔に食い込ませることだけだ。 あれは、悪魔の選択だった。 一度、聞いてしまえば、それは呪いとなって郁未を縛る。 娘か、睦美か。 あのまま睦美が消えたとしても、一度睦美を助ける可能性を得てしまった郁未にとって娘の身を惜しんで睦美を見捨てたことになる。 どちらを選んだとしても、郁未の心には無残な傷が刻まれる。 後悔に身を焼かれ、呪いが心を犯していく。 彼女はもう、以前の天沢郁未のままではいられないだろう。 死せる命の運命を覆せるような、反則紛いの奇蹟に縋ることがどういう結末を招くのか、数え切れないほどの古今東西の逸話がそろって示している。 彼女もまた、同じ轍を踏んだ一人となってしまった。 天沢郁未は 愚か者 バカ だ。 人は先人の犯した過ちを教訓と出来ず、同じ過ちを繰り返す。 ゆえに、人という生き物は愚かなのだと蔑まれる。 だが睦美は愚かを罪とは思えなかった。 どうしてあの場面で、人は賢明になどなれるだろう。 もし、あの瞬間の郁未の愚かさを、罪だと糾弾するものがいるとしたら、樋端睦美は己が全存在と尊厳を賭けて、そいつに宣戦を布告するだろう。 人が愚かというのなら、その愚かさこそが彼らに課せられた呪いであると同時に祝福なのだ。 人ならざるものたちは、そうした人の愚かしさをこそ、愛しいと思う。 ニンゲンと言う儚い存在に惹かれていくのだ。 だが今だけは、その愚かさが憎らしい。 「しっかりしてくれ、睦美姉さん。 なんで大坂のあんたがここにおんねん。 何があったんや」 肩を激しく揺さぶられ、瞳に焦点が戻ってくる。 ようやく睦美に自分を囲む人間たちが誰なのかを認識しようと言う意識が生まれた。 「……和巳くん?」 「おお、御門和巳や。 いったいどないしてん姉さん、天沢さんも一緒やったんか?」 天沢は…もう、行ったのか。 睦美は自分の目でも周囲に彼女の姿が見当たらないのを確認して、納得する。 彼女がここにいる理由はもうないのだから。 自分の顔など、見ていることすら辛いだろう。 睦美は、またぞろ込み上げてくる嗚咽に歯を食いしばった。 不幸中の幸いというべきか。 あの邪神にも仏心があったのか。 引き換えにするのは、未悠の命ではなく身柄にしてやると、郁未に告げる珠呼の声を、薄れゆく意識の中で睦美は聞いていた。 幾ら郁未でも、娘の命を引き換えにしてまで睦美を助ける決断は出来なかったに違いない。 こうして睦美が生きているところを見ると、あれは幻聴ではなかったようだ。 思えば、珠呼の要求は最初から未悠の身柄が目的だったと考えた方が正しそうだった。 最初に無理難題を突きつけて、次に要求を渋々緩めて見せて、受け入れやすくするのは交渉や詐術の常套手段だ。 一体何故、あの悪魔が未悠を欲しがるのかは分からないが。 「ねえちゃん!」 耳元で怒鳴られ、睦美は自分の意識と肉体が乖離を起こしているのを自覚した。 頭の中ははっきりしているつもりなのに、それが肉体に反映されない。 いや、疲労感に引き摺られて、意識のほうも段々と綻んでいく。 睦美は耳をそばだてないと内容の判別できそうに無い呻き声をあげた。 「なに!? 真琴ちゃんがおったんか!?」 和巳の言葉に、傍らで美汐が目を見開いて口元に手を当てた。 睦美は辛うじて真琴が怪我をしているものの、命に別状はないことを告げた。 この場にいない事を思えば、恐らく珠呼が連れて行ったのだろう。 どうして自分と同じようにこの場で治療しなかったのか、ろくな想像は浮かばなかったが、少なくとも命だけは助かっているはずだ。 あの存在は、少なくとも交わした約定は絶対に違えない。 それら真琴の行方や珠呼の存在なども伝えたかったが、無理やり再生させられた負荷は想像以上に睦美に圧し掛かっていたようだった。 睦美は、最後に手にしていた書類を和巳に握らせると、意識を失った。 「樋端さん、樋端さん、しっかりしてください」 何度か呼びかけるものの、今度こそ完全に意識を手放したらしく反応は返ってこない。 美汐は和巳を振り返り、首を振った。 和巳は沈痛な面持ちで手を合わせる。 「そうか、惜しい人を亡くしたわ、成仏してください南無南無〜」 「死んでませんから。 脊髄反射でボケるのはやめてください」 「せ、脊髄反射は自分の意志では止められへんもん」 「…にいさん?」 「ごめんなさい」 キッチリと返ってくるツッコミに、内心密かに「みーちゃん調子戻ってきたなー」と喜びながら和巳は睦美から渡された冊子に目を通しはじめた。 「詳しく真琴のことを聞きたかったのですが」 思いもよらず行き当たった真琴の安否情報だったが、これでは何もわからないに等しかった。 それでも無事が確認されただけでも、美汐は座り込んでしまいそうなほどの安堵を感じていたのだが。 それにしても真琴の姿が見当たらないのはどうしてだろう。 天沢郁未が連れて行ったのか? そもそも、彼女たちはどこで真琴と遭遇したのだろうか。 明らかに戦闘を潜りぬけた痕跡が、睦美の様子から伺える。 真琴を連れ去った連中と一戦交えたのだろうか。 そもそも、彼女たちがこの街にいる状況から不明瞭で、美汐は付近を虱潰しにあたる今までの方法を続けるべきかも解からなくなり、さっきから黙りこくっている和巳に意見を求めようと、 「……兄さん?」 彼は、食い入るように冊子のページを捲っていた。 美汐の存在すら忘れ去っているのではないかと疑いたくなるほどの没頭ぶりだ。 声を掛けようとして、美汐は思い止まった。 和巳の顔つきが尋常でなかったのだ。 心臓を握りつぶされているかのように脂汗を垂れ流し、蒼白な顔色となっている。 ふと、美汐は八雲の状態を知ったときの和巳はこんな顔をしていたのではないか、と連想した。 「なんですか、これは」 愕然としながら美汐はページを捲る。 そこでまたも美汐は目を見張った。 びっしりと書き連ねられた情報もそうだが、美汐の眼を奪ったのは書式そのものだ。 特徴的な言い回しや整理法、これは一般的な興信所のものではなく、美汐の中にある知識に当てはめるなら多少アレンジしてあるものの、【帝諜】の俗称で知られる防衛調査局のものに近しい。 いわば公儀諜報機関のベーシックスタイルで、七本槍家や天野家といった退魔組織の機密書類にも広く使われている書式だ。 「まさか……これは本当なのですか?」 嫌な予感を覚えながら読み進めるうちに、美汐の表情に驚きが刻まれていく。 「澄が物部氏の直系?」 物部氏。 その名は一般人にとっては教科書の初期に習う古代の有力氏族の一つに過ぎないのだろう。 だが、この弧状列島に根を張る術者にとっては物部の名は特別な響きに彩られている。 古代日本において、氏族名に一族が司る職能を現すことは良く知られている話だ。 その氏族名にはっきりとその職能が示されているというのにだ。 彼らの実力が如何程だったのか。 それは中華大陸からこの世の果てと忌避された魑魅魍魎の巣窟だったこの国が、曲がりなりにも人の治める土地となっている、その事実からも明らかだろう。 「前ぞ闇、後ろぞ闇の秋津島。 その魔、数えて 八百万 やおよろず 」 美汐は無意識に、伝え聞く物部氏の逸話に付随するフレーズを口ずさんだ。 人間が威勢を誇る後代からは、想像も及ばぬ時代であったことを示す文言だ。 「いえ、ですが。 今の時代、物部の末裔だからといって何らの意味もないはずです」 困惑に美汐は首を傾げた。 血統こそが力の根源であるという考え方は決して蔑ろに出来るものではないが、物部氏直系といえどこの時代、外からの血が加わり純血からはほど遠いはず。 況してや澄の家は魔道とは何のかかわりも無い一般家庭。 血統として魔術的に劣化していると考えるのが常識だろう。 それに、どれほど潜在能力に優れていても、磨かなければただの石だ。 物部澄は、今日に至るまで魔術に関する事には一切関わってこなかった。 そんな澄にいまさら何の価値があろうというのか。 「 布都御魂剣 フツノミタマノツルギ というのを、みーちゃんは知っとるか?」 疑問を投げかけた美汐に、返って来たのはその言葉だった。 伝承に寄れば、東征にあった神武帝に 武甕槌命 タケミカヅチ より下賜され、並み居る神妖夷荻を討滅し尽くし、国土平定に大きく貢献したことから別名を『 平国ノ剣 クニムケシノツルギ 』呼ばれることになった伝説の神格兵装。 「一時は実在しないものとして扱われていたものの、明治七年に奈良の石上神宮の禁足地から無数の装飾品とともに布都御霊剣の実物が出土した、と聞いています。 現在は石上神宮に納められ、神祇省の管理下に置かれているはずでは?」 その神剣と澄に何の関係が、と不思議に思いかけ、美汐はハッと思い至った。 石上神宮は、そもそも物部氏の総氏神。 後に布都御霊剣は再び物部氏の手に戻され、やがて蘇我氏との政争に敗れて天武帝によって取り上げられるまで、その神威は振るわれる事となる。 関係というならばこれほど密接な関係も無い。 そもそも、八百万の魔を討滅した物部の力の根源こそがこの神剣とまことしやかに伝えられているのだ。 いや、やはりおかしい。 美汐は眉間に寄った皺を指で揉んだ。 繰り返すが、神剣の実物は石上神宮に納められ、神祇省の厳重な管理下に置かれている。 現代においては、物部氏は遥か古代にその持ち主であったという以上の意味を持たないはずなのだ。 「その神剣と物部になんの関わりがあるというのですか?」 「関わりは大有りなんや。 殆ど知られとらんけどな、布都御魂剣は武具としての剣やない。 あれは、血統を触媒とした、降神術式や」 「降神……神降ろしですか!?」 「それも、神の力のみを降ろすタイプや。 媒体となる 審神者 さにわ や巫女は、完全に自我を抹消されて使役者の意のままに神力を顕現させる発動器になってまう、文字通り単なる道具の剣としてな。 つまり 布都御魂剣 フツノミタマノツルギ とは正確には降神術式そのものの事を指し示し、同時に神力の発動器と化した媒体者の事を云うんや」 「で、ですが。 なら、石上神宮で発見された剣は偽物?」 「いや、あれも本物と言えば紛れも無い本物なんや。 尤も、あれの用途は封倶。 布都御魂剣の顕現を制御するために造られたアーティファクト、つまり制御端末であれ自体は武器でもなんでもない。 制御端末というても結局物部氏以外は扱えへんかったみたいやけどな。 天武帝の御世に何度も大規模な天災が起こった記録が残っとるが、その殆どが神剣の暴走や。 結局扱いきれんと判断され、 布都御魂剣 フツノミタマノツルギ は封印されたんや。 鹿島のとセットにしてな」 「鹿島? 鹿島神宮ですか」 美汐は鹿島神宮にも『布都御魂剣』と呼ばれる神宝が奉納されている事を思い出して「あっ」と声をあげた。 記録では鹿島に布都御魂剣がおさめられたのは704年。 天武帝が石上神宮、つまり物部氏から神宝を奪い去ったのは七世紀後半、674年と言われているから、時期的には合致する。 三十年、如何な強大とはいえ制御できない神の力に見切りをつける決意を得るには充分な時間だ。 「そうか。 鹿島の布都御魂剣は奈良時代に製作されたものと聞き及んでいます。 あれは単なる模造品ではなく、封印用の祭具だったのですね」 鹿島に祀られている大神は布都御魂剣を高倉下に渡し、神武帝に授けた武甕槌命だ。 武甕槌命のおわす鹿島の地に神剣を返却する一方、物部氏の総氏神である石上神宮では神剣を人の目の届かぬ地の底深く埋葬する事で、物部の手から神剣が離れた事を意味付ける。 「そうや。 やから禁足地から掘り出してもうた時点で、封印の効力はあらかた薄れてもうたんや。 あそこに剣を埋める事自体が封呪の基盤を為しとったんやから」 初耳です、と美汐はややも茫然としながら頭を振った。 「そのような話、私の知る限り、どんな資料にも載っていません」 「当たり前よ。 元々、僅かな秘伝書以外には殆ど口伝で伝えられてた内容やぞ。 封が解かれた現在でも神祇のよほど上の人間にしか知られてへん」 そうなのか、と美汐は納得しかけた。 ことは禁裏の最秘奥に繋がりかねない事柄だけに、厳重に秘匿されるのもわからないでもない、とそこで美汐は話の矛盾に気がついた。 「待ってください。 どうしてそんな秘匿伝承を、和巳兄さんがそこまで詳しくご存知なのですか?」 こう言ってはなんだが、御門和巳は実力こそ折り紙付きだが、その身は所詮天野家の食客に過ぎない。 属する組織もない流れ者だ。 顔はそこそこ広いものの、神祇の最秘を知る立場とは到底言えない。 そんな和巳が、これほど詳しく神剣の実体を知っているのは美汐には不自然に思えた。 和巳は肩を竦め、苦々しく口端をひん曲げた。 「ご存知も何も、禁足地から神剣を掘り出して封印壊したうちの家……御門家や」 一瞬耳を疑う。 「なん……ですって!?」 「正確には石上神宮の大宮司を、御門家が焚きつけて発掘させたんやけどな。 菅政友て言わはったか、ご当人は何も知らんと純粋に古代史研究のためやて思うてたそうやけどな。 和巳は再びあの苦々しげな顔になった。 「御門さん家は、明治の高倉下になりたかったみたいやわ」 これ、どういう意味か分かるか? と試すような和巳の仕草に、美汐は固い表情となって答えた。 「明治新政府の降魔政道に就く、古代大和朝廷でいうところの物部氏の位置に座ろうとした、そういうことですか」 ご名答、と思わず美汐の頭を撫でかけ、恥ずかしそうに引っ込める。 ともすれば、昔の癖で美汐の事を子ども扱いしてしまう和巳であった。 「みーちゃんも知っての通り、幕末期はうちら術師にとっても混迷の時代やった。 七本槍家みたく上手いこと時流に乗っかった奴らもおれば、変化を見極め損ねて潰れていった連中も山ほどおった」 「私は、御門家もその時流に乗り損ねた一門だと聞いていました」 「表向きにはな」 御門家も、美汐の天野家も、元は安倍や賀茂という陰陽道の本宗に遡れる名門の血筋だ。 南北朝時代の混乱により禁裏から下野したものの、衰退した陰陽寮に成り代わってその闇の術式を伝承し、江戸期の末まで東の天野、西の御門と呼ばれるほどの勢力を築いた退魔調伏陰陽道の大家であった。 それが、明治初期に至り、西の御門家が突然崩壊した。 それは見事なほど綺麗サッパリ滅亡して果てた。 当時、西は大宰府から東は彦根まで藩国の枠を超え、もはや西域帝国と言っても過言ではないほどの威勢を誇っていた御門家が、である。 今は、和巳の一家が細々とその名籍と術式を伝えているのみ、という有り様だ。 通説では、当時明治政府が発布した陰陽道の禁止令のあおりを食らったからだ、という事になっているが、美汐はこの場に及びそれが随分とおかしい話であることに気がついた。 なぜなら、御門と同じ陰陽道家である天野家には、不思議なほど弾圧の手は伸びていなかったのだ。 御門家が潰されるほどの弾圧が吹き荒れたのなら天野家にも何らかの影響があって然るべきはずなのに、多少の圧力はあったものの美汐の知る限り苛烈な弾圧というほどではない。 何かがあったのだ。 御門家ほどの大家が叩き潰されるほどの何かが。 「自滅したんや、御門は」 その答えは、和巳本人が教えてくれた。 「八百万の魔を討ち尽くした神代の剣、あれは人間が扱いきれるもんやなかったんや。 やからこそ、封じられたものやったのに、増長した我がご先祖さまはそれに手を出して、火傷どころか消し炭にされてもうた」 禁忌とされるモノには、相応の理由があるものなのだ。 顕現に伴い暴走してしまった神剣を鎮めるために、御門家は擁していた術者の八割を喪った。 当時、日本でも比類なき威勢を誇っていた退魔一門が文字通り壊滅してしまったのだ。 震撼したのは新政府と誕生したばかりの神祇省だった。 神剣はあまりの威力に再び禁忌と相成った。 制御できない力など、神の怒りと何も変わらない。 触れずに済むのなら触らずに済ませるべきだという理性的な判断だった。 また、神剣を復活させるために御門家が犯した犯罪は、利用価値さえあれば大抵の事には目を瞑る節操の無さを見せていた新政府ですら見過ごせないものであり、御門家は中央からの情け容赦の無い粛清に晒された。 神剣の暴走によって中枢を喪い、既に組織を維持できないほどの被害を受けていた御門家にまともな抵抗が出来るはずも無く、数年後には退魔組織としての御門家は地上から完全に消滅していた。 初めて聞く、和巳の家の過去の歴史に息を呑んで聞き入っていた美汐は、はたとどうして自分たちがこのような話をしているのかを思い出した。 慌てて、手にある冊子の続きを捲っていく。 「に、兄さん、つまりこれは!!」 「ああ」 和巳は親の仇でも見るような険しい顔で頷いた。 頷こうとして、和巳は「あっ」と声をあげた。 「そうやったんか!」 「な、なんですか?」 「春日や。 くそったれがぁっ!」 怒りも露わに和巳はブロック塀を殴りつけた。 「春日を先祖帰りで妖怪化させたんも、神剣に手を出そうとしとるのと同じ連中の仕業や」 断言する根拠がわからず疑問符を浮かべる美汐に、和巳は続けた。 「神剣の顕現には特別な作法が必要なんや。 一つは神が降りる場を清めるために、大量の魂魄を捧げる事。 和巳の話の中にあった御門家の犯した大罪とはこの事か。 押さえきれない嫌悪に、全身が震えだす。 それは、虐殺ではないか。 村一つとなれば、老若男女を問わないホロコーストそのものだ。 しかも、単に一族の繁栄をもたらすためという私利私欲の為に、何の関係もない千人もの人間を殺した? 酷すぎる。 滅ぼされて当然だ。 根絶やしにされて当たり前だ。 そんな蛮行が許されては、社会が成り立たない。 そうする事で、和巳自身には何の罪もないのだと伝わればと願いを込める。 和巳が必要以上に苦しむ必要は、どこにもないのだから。 思いが伝わったのか、和巳は照れ臭そうに笑うと、俯く美汐の頭を撫でた。 そうして続きを口にする。 「そしてもう一つの作法は媒体となる人間の魂を神の力を受け入れられる器にするために、最も親しい者を自らの手で殺させる事や。 そうして媒体者の精神を潔斎する。 此花さんを蜘蛛神化させ、それを澄に殺させる。 一挙に事を成せると、そういうことなのですか?」 なんということを。 美汐は自分の膝が震えているのに気付いた。 恐れか、怒りか、自分でも解からぬほど頭の中がグチャグチャになっている。 「みーちゃん、悪いがマコっちゃんを探すんは後回しや」 苦渋を滲ませながらも決然と言われた内容に、美汐はハッと息を呑む。 「下手したら……いや、まず間違いなく、この街で儀式は執り行われつつある」 それが意味するところを、美汐は否応なく理解した。 「この街の住人が、神降ろしの生贄にされる!?」 「多分、あんまり時間はない」 既に春日が絡め取られ、澄と連絡が取れない状態に陥っている以上、儀式の開始は時間の問題と考えるべきだった。 「急いでそいつら見つけて儀式を止めんと、えらいことになってまう」 「は……い」 喉がカラカラに渇ききり、美汐は喘いだ。 ほんとうにたいへんなことだった。 真琴が行方不明になってしまったと思ったら、今度は学校の友達や街の見知った人たち、みんなの命が危険にさらされているだなんて、そんな話は映画のスクリーンで観るだけで充分だ。 しかも、その一方で親友たちが互いに殺し合いをさせられそうになっているなんて。 美汐は眩暈を感じて額を押さえた。 「笑えませんよ、こんなこと」 「不幸中の幸いは、マコっちゃんが無事やてわかったことか」 ここで睦美に出会えたのは、まさに幸運の一言だった。 計画書らしい冊子を持っていたことからも、恐らく睦美は神剣を復活させようという勢力の拠点に潜入したのだろう。 そこで睦美たちが真琴を見つけて助けてくれたに違いない。 春日を妖怪化させた連中が、神剣を復活させようという者たちと同一なら、その拠点に春日とともに失踪した真琴が囚われていたというのは決しておかしい話ではない。 真琴の姿はこの場にないのが気になるが、恐らく睦美の仲間が保護していてくれるのだろう。 睦美の様子だと、消耗した彼女だけここに置いて他の面子は別行動に出たようでもあるし。 和巳は人形を取り出し、大柄な女性の姿をした式神を作り出した。 このまま睦美を路上に寝かせておくわけにもいかないので、式神に運ばせる。 幸い、睦美は極度に消耗しているだけのようで、安静にさえしておけば回復すると思われた。 それを見送り、疲労した肉体に再び気合を入れるかのように、背筋を伸ばしながら和巳が呟く。 「出来れば、八課の人らと連絡取れたらええんやけど」 「ええ、そうですね」 目的を同じくする頼りになる味方がいるのは心強い。 今回の件は個人で対処するには山が大きすぎる。 「協力して事に当たれれば、此花さんと澄を助けるのも楽になるのです…が」 ふと美汐は口を噤んだ。 今、妙な違和を感じなかったか? 唇に指を添える。 自分が物凄く的外れなことを口走ったような気になってくる。 「……あ」 「……?」 突然電源をオフにされたロボットのようにあらぬ虚空を見つめて固まっていた美汐が、声をあげた。 「そんな、でも……」 「ど、どうした、みーちゃん」 見る見る顔色を蒼白にしていく美汐を見て、和巳は慌てた。 狼狽も露わに美汐は青年の胸元に縋りつき、震える声で問いかけてくる。 美汐は泣き笑いの表情になった。 ゾッとするほど頭が回るくせに、根本的なところで善良なのだ。 だから、こんな簡単なことに思い至らない。 美汐は言った。 「私なら、まず禍根を断ちます。 それだけで今回の危機の大半は回避できる」 さすがにバカではない和巳は、その一言で美汐の言いたいことを察知した。 「おいまさか…物部澄を、殺すってか!?」 まるで雷鳴に怯える子供のように、美汐はギュッと目を瞑って彼の上着の裾を握り締めた。 その白んだ手に軽く手を添えながら、和巳は呼吸も忘れて頭をフル回転させた。 やるか、やるのか、そこまで。 物部澄は基本的には被害者。 本来罪の無い民間人、それも未成年の少女だというのに。 無論、美汐がではない。 彼女が言外に問い掛けてきたのは、事態を鎮圧する立場にある公儀の判断だ。 和巳は議論の余地がないことを認めざるを得なかった。 やる、間違いなく公儀はその選択肢を選ぶ。 美汐の言う通りそれが一番手っ取り早く、リスクが少ない選択肢だからだ。 必死に逃げ隠れし抵抗するだろう集団を討つよりも、詳細もわからない儀式をチマチマと邪魔するよりも、何も知らない少女でしかない物部澄を殺害する方が遥かに迅速に危機を回避できる。 賭けるチップは街一つ。 いや、神剣が顕現したなら国そのものが危ういとなれば、少女一人の命を惜しんでなどいられない。 社会全体の安全を預かる者なら、そう考えるのが正しい在り方だ。 大坂の八課を預かる北川哲平は性格上、そうした判断を許容出来るとは思えないが、公安八課の元締めである九十九埼士郎は、和巳が伝え聞く限り決断に情を挟むような人間ではない。 この街に投入されている八課の人員が大坂の面子であるかは怪しいところだった。 地域的に見て、宮城か警視庁の本隊を持ってきているだろう。 ……待てや? はたして、投入されるのは公安だけか? 和巳は逸る思考を掣肘し、情報を整理する。 元々のこれの持ち主はいったい誰だ? 現在、神剣の封倶を管理しているのはいったい何処だ? そして、国家鎮護を揺るがす事態において、危機管理を担うのはどこのどいつだった? 神祇だ。 大日本帝国神祇省。 こないな喧嘩を吹っかけられて、やつらがだまっとるはずがないやないか。 そして、モノが神剣ともなれば、出てくるのは並みの連中ではないだろう。 奥羽探題や甲州探題などの地方管区の甲種検非違使や、本省の衛士衆では済まないはず。 「【征夷八色】…出てくるなら連中か」 征夷の旗を前にして伏さぬ者無しと謳われる、自他共に認める帝国最強の異能者集団。 人のまま人間の枠を逸脱した者ども。 そんな化け物たちが敵に回ると言うのか。 自惚れるわけではないが、腕には自信がある。 はっきり言ってオレって天才ちゃうん!?と思うこともしばしばだ。 だが、敵うのか? 御門和巳が。 あの八旗衆に。 戦うとして、敵うのか? 和巳は表情が引き攣るのを必死に堪え、ジャケットの襟を正した。 小鳥のように小さく震えている美汐をそっと見据える。 今、覚悟が問われている。 「みーちゃん」 動揺に思考が空転していた美汐は、食事中にそこの醤油を取ってくれと言うのと変わらない、リラックスしきった口振りで名前を呼ばれ、しがみついている男の顔を見上げた。 「合理的は判断とやらは脇に置いといて、や。 みーちゃんは、どうしたいんや? 友達のこと、どうしたいん? それ、聞いときたいわ」 彼は前方に視線を据えたまま、首筋に手を当てて、コキコキと骨を鳴らして首を回していた。 そうして、美汐を見下ろして、ニヤリと笑う。 ……いや、違う。 そうじゃない。 兄さんの様子を良く見てみろ。 唇が蒼褪めている。 笑みが引き攣っている。 目蓋が小刻みに震えている。 首筋に当てられた指が肌に食い込んでいる。 どこに余裕なんかあるというんだ。 全部、見せ掛けじゃないか。 「にい…さん」 それを見た瞬間、狼狽も動揺も、右往左往していた混乱のすべてが、瞬砕された。 それを見た瞬間、灼熱の炎に胸を焼かれた。 細胞という細胞が熱を帯びて打ち震えた。 それを見た瞬間、肝が据わった。 いや、覚悟が決まった。 天野美汐は己の我が侭を、どんな正義や理不尽に立ち塞がれたとしても、貫き通すだけの覚悟を決めた。 美汐は瞳を閉じた。 状況は最悪だ。 敵の正体は不明。 街全体が危機にあり、親友同士が殺し合いをさせられようとしている。 その上、味方は誰もいない。 いや、それどころか味方と頼みたい人々まで恐らく敵に回るだろう。 それでも揺るがない。 自身の内に産まれ生じた決意の強さを確認する。 「私は、澄を助けたい。 彼女には、まだ返し切れていない借りがたくさん残っているのです。 「彼女は、私の友人なのです」 凛と身を正し、美汐は寄り添う男の顔を見上げた。 「お願いします、兄さん。 私を、助けてください」 彼は吹っ切れたように、嬉しそうに、ケラケラと笑った。 「任せろ。 みーちゃんは前だけ見てな。 このオレが誰にも邪魔はさせへん」 「はいっ」 広大無辺の信頼が、美汐の隅々まで満ち満ちていく。 それは盲信とは全く異なる、血の通った行き交う想い。 仮にも女であるならば、和巳のあの笑みの意味するところを感じ取れないはずがない。 そんなものを向けられて、臆するわけにはいかなかった。 賢しらに振舞うような真似をして、惨めになるわけにはいかなかった。 天野美汐にも、女としての矜持がある。 あれほどの想いを傾けられて、奮い立たねば女が廃る。 …やってやりましょう。 天野美汐は裾を翼の如く羽ばたかせ、凛然と身を翻した。 思うが侭に振舞おう。 願うが侭にやり遂げて見せよう。 なに、難しくはない、簡単だ。 今の自分に出来ない事はなにもない。 味方が誰もいなくても、周りの全てが敵だとしても、彼がここにいてくれるなら。 天野美汐に出来ない事など一つも無い。 友人の一人や二人を助けるぐらい、欠伸混じりに成し遂げられずにどうしてこの人と歩むことが出来ようか。 私はもう、誰も八雲のように喪わない。 「そうでしょう、天野美汐」 美汐は女王のように彼の手を取った。 「行きましょう、兄さん」 和巳は騎士のように気障ったらしく彼女の手を握り返した。 「はいよ、何処まででもお供しますぜ、マイレディ」 < 10:41 ??? > あたしは、死んだのだろうか。 漠然と、真琴は思った。 気がつけば、何も見えない闇の中。 ポッカリと自分の身体だけが浮かんでいる。 真っ暗な中で、自分の姿だけはくっきり見えるのだから、ここは光がない場所なのではなく、何もない場所なのだろう。 虚無、という言葉が浮かぶ。 ああここはまるで、死の世界そのままだ。 水の中にいるかのような浮遊感。 息をするだけでも気が狂いそうな痛みが走っていたのに、今はその苦しみも遠ざかっていくばかり。 身体が芯から冷え切って、心は凍え縮こまる。 寒さに、涙が出そうになった。 誰もいない、何もない、そんな闇にただ独り。 「い、やだ」 これが、死ぬということなんだろうか。 「し……にたく、ない」 「なれば、生きたいと申すのかえ?」 どこからともなく声がした。 気がつけば、真琴を見下ろすようにして一人の幼い少女が佇んでいる。 鍔の広い真っ白な帽子を被り、純白の涼しげなノースリーブのワンピースを可憐に着こなす十歳前後の幼い少女。 それが、じっと逆さまに真琴の顔を覗き込んでいた。 白い白い面差しが、愉快そうに嗤ってる。 真琴は少女を、死神だと思った。 「良いではないか。 死んでしまえ。 ここで終っておけばよい。 汝の記憶、観せてもらった。 汝は今、幸せなのじゃろう? 汝は今、幸せの只中におるのじゃろう? なれば、そこで終っておけ」 「どうしてよ。 しあわせなのに、どうして死ななくちゃならないの?」 「死ねば、幸せのままで終われるからじゃよ。 ここで生きても、汝はいつか後悔する。 人という種の裏切りを思い知る」 反発心に、闇の底に溶け始めていた意識が戻ってくる。 「美汐は、小太郎はっ、みんなはあたしを裏切らない。 みんなあたしを大切にしてくれた!!」 「裏切るさ。 人は我らを裏切るのじゃ。 真琴は、足の下に奈落が広がっていく感覚に打ち震える。 少女は蕩かすように狂々と嗤う。 「だから、今のうちに死んでおけ。 独りぼっちは嫌なのじゃろう? 置き去りにされるのは怖いのじゃろう? 孤独を怖れる子狐よ。 されば今ここで死んでしまえ。 さすれば誰も汝を忘れぬぞ。 皆が汝を懐かしみ、汝を心に住まわせ、汝を愛してくれるじゃろうて」 「あ…う…」 「それとも生きて、独りになるか? 誰もが汝を置いて逝く。 誰も汝を知らなくなる。 汝を残して去っていく。 孤独とは、生きてこそ味わう煉獄ぞ」 漣のように少女の言葉が真琴の心に響き渡る。 忘れていたわけじゃない。 見ない振りをしていたわけでもない。 ただ、実感が湧かなかっただけなのだ。 水瀬真琴が、人間ではないだなんて。 人間の中で生き、人間と共に暮らし、人間のように未来に夢を見る。 人間を友とし、人間を愛し、人間と絆を結ぶ。 そんな風に過ごしてきた自分が実感なんて出来るはずないじゃないか。 美汐、祐一、名雪、秋子さん、あゆあゆ、栞に香里、潤、一子、木乃歌、舞に佐祐理、そして俊兄、小太郎。 他にも沢山、マスターや和巳や美汐パパ、まだまだたくたんたくさん自分の周りには人がいる。 そんなみんなが、いずれ自分よりも先に死んでしまうなんて。 知識としては知っていた。 妖怪が、生物というよりも現象に近い存在なのだという事を。 人よりも遥かに長く現世に存在し続けるモノなのだと。 少女の姿をした死神は揺り篭を揺らすように問い掛けてくる。 「それでも、汝は生きたいと願うのかえ?」 「あたし……は」 かつて、水瀬真琴は運命を拒絶した。 一時の幸福を得る代償に、消え去るはずの運命を。 ぬくもりをくれた人たちと、もっと一緒にいたいという想いに必死にしがみついて、真琴は運命に打ち勝った。 だが、それは錯覚だったのだろうか。 運命を乗り越えたなど、思い違いをしていたのではなかろうか。 どちらにしても変わらないじゃないか。 一緒ではないか。 あの人たちと、同じ時間を生きられないという現実は、何も変わらなかったのだから。 選択など虚構に過ぎぬ。 真琴は独り、いずれ孤独の闇に咽び泣く運命なのだ。 茫然と見開いた真琴の目から、滂沱の涙が溢れ出す。 それを見て、狂々と嗤う少女の口元に寂しさと侮蔑が混じ入った。 「あたしは」 興味を無くした風に、背を向けようとした少女の動きがピタリと止まる。 「あたしは、それでも生きたいよぅ」 「……はは」 再度真琴を振り返る少女の目に輝きが宿る。 「あたしは、まだ後悔してないもん。 まだ独りじゃないもん。 まだ、足りない。 まだまだ幸せを味わい尽くしてない」 「ハハッ、ハハハハハッ」 「あたしは満足してないの。 あたしはまだ何もしてない、何も叶えてない、何も手に入れてない。 「幸せになりたいの!!」 「くはっ、はは、あはははははははははははははははははははは!!」 哄笑が死の如き暗闇に戦慄き響く。 弾ける喜悦を隠そうともせず、白い少女は身を捩り全身を震わせて狂笑した。 「素晴らしい、素晴らしいぞ小娘。 なんという欲深さ、なんという浅ましさ、なんという妄執、なんという傲慢さ。 それでこそ、手を差し伸べる価値がある。 「よかろう、子狐よ。 汝に資格ありと認めてやる。 汝の死、妾がここに否定する」 闇に仄かな光が生まれた。 光は生き物のように差し出された少女の腕に集っていく。 真琴は魅入られたように光を見上げた。 綺麗だと思う。 光の珠も、その光に照らし出された少女の貌も。 綺麗すぎて、禍々しい。 「然して、その浅ましい想いの強さ、欲深き願いの激しさ、蒙昧なる意志の確かさ、妾の前に示すがいい」 じゃが、と少女は微笑んだ。 まるで神さまみたいな邪悪な微笑。 「汝は後悔するかもしれぬぞ。 今ここで、死んでおけばよかったと。 胸に刻め、幼子よ。 これは正当な代価である。 而かして並びに試練でもある。 妾に証明してみせよ」 なにを、とは一切少女は口にしなかった。 光の珠が真琴の胸に沈んでいく。 ドクンと心臓が戦慄いた。 鼓動が、大砲の着弾のような激しさを帯びていく。 ブン、と音を立て肢体の輪郭がブレた。 ザワザワと肌が泡立ち、溶岩に浸されたように身体が燃え上がった。 青白い炎が傷だらけの真琴の身体を嘗め尽くしていく。 「あ…あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 目玉が飛び出しそうなほど眼を見開き、真琴は絶叫した。 何かが入ってくる。 身体が飴のように融けていく。 命が加速していく。 これはなんだ、なんだ、なんだ? 炎が、魂にまで燃え移ったかのようだった。 水瀬真琴という存在を駆動させる炎にガソリンがぶちまけられたみたく、力が燃え上がる、生命が燃焼する。 気持ちが滾って止まらない。 理性と本能が乖離していく。 身体が窮屈でたまらない。 窮屈すぎて、真琴は融け落ちていく肉を掻き毟った。 裂けていく皮膚を剥ぎ取り、こびりつく肉をこそぎ取り、本当の自分を解放していく。 傷の痛みなど消えていた。 鉛のような体の重さなど吹き飛んでいる。 熱くてたまらない。 「妾が与えるは救いではない、恵みでもない。 一抹の可能性に過ぎぬのじゃ。 その先にあるものがはたして希望か、はたまた座して死するより一層の絶望であるかは汝次第。 ただ、妾はちと厳しいぞよ。 死を覆すほどの奇跡の代価、汝に払えるかや?」 だが酷薄な笑みとは裏腹に、その広い唾から垣間見える瞳の色は、不可思議なほど優しかった。 「さて汝は妾に見せてくれるのじゃろうか。 美しき想いの力。 岩をも貫く刃金の如き熱き願い。 強き心の輝きを」 苦しみもがく絶叫が、猛り狂う遠吠えと化していく。 珠呼は楽しげに帽子を目深に被り直した。 <10:50 公園 噴水広場 > 「お茶、呑む?」 差し出された水筒のカップを受け取り、薫は一気に飲み干した。 木陰に隠れているからといって、この暑さの中ジッとしているのはかなり耐えがたい苦行である。 それにしても色々用意してるなあと、自分もお茶を注いで煽っている香里を横目で眺めた。 持久戦になるのを想定してか、パンパンに膨らんだデイバックの中には様々なものが詰め込まれているようだ。 妙にこういう状況に手馴れているように感じるのは気のせいだろうか。 いずれにしても、この人、ほんとはやる気満々だったようにしか見えない。 薫はといえば、元々あんまりなかったやる気がとうに底を打っていた。 他人がイチャイチャしてる場面を見てるほど、気力を削がれるものはない。 少なくとも、祝福する気になれないカップルを見ているのは苦痛でしかなかった。 栞と氷上シュンは誰の目から見ても仲が良さそうにベンチに腰掛けて談笑している。 主に喋っているのは栞の方で、手に絵画の絵筆を持って大きな手振り身振りをまじえながら自分の失敗談を語っているようだった。 氷上はそれを、相槌をまじえて聞き入っている。 時々、おかしそうに笑い声を立てながら。 あまり大口を開けて笑うタイプには見えないだけに、彼がリラックスし切っているのが何となく伝わってくる。 恋人同士の甘い雰囲気というには語弊があるが、二人が親密である事には疑う余地はなさそうだった。 「なあ香里姉ちゃん、もう帰ろうや」 「あら、どうして」 プリッツをポリポリと齧りながら完全に観賞モードに入っている香里が、振り向きもせず問い返してくる。 薫はうんざりと息を吐いた。 「これ以上見ててもしゃあないよ。 邪魔したら悪いし、もう撤収しようや」 「いいの?」 「いいの……って。 別に、おばさんに言われて様子見に来ただけやし、心配せんでもあの人、悪い人やなさそうやし…栞ともええ感じやし。 ……いいよ、もう」 言ってる間にどんどん気分が滅入ってきて、薫は投げ捨てるように言葉を切った。 香里は嘆息した。 「ひとから見たら、あたしもこんなむかつくのかしら」 「はい?」 「あのさあ」 香里はその場に胡座を組むと、ぞんざいに前髪を掻き揚げながら蓮っ葉に言った。 「薫くん、栞のこと好きなのよね?」 「なんっ!?」 一瞬、地面が針山になったみたく飛び上がる。 「なんよ、それ! や、やめてや、そんな人をゲテモノ好きみたいに」 「うちの妹はゲテモノかい」 あながち間違っちゃいないのが、姉として心苦しいところだ。 「まあ否定するならするで勝手だけど、逃げちゃっていいわけ?」 「逃げる、とか言われても」 「一度逃げ出すと、二進も三進もいかなくなるわよ。 もう泥縄って感じで、自分でも判ってるのに」 一瞬幽鬼めいた表情になり、香里は顔を横に傾けて澱んだ目を眩しそうに眇めて栞たちを見やった。 ゴシゴシと目元を擦り、半面を手で抑えて深々と息を吐く香里は、薫にはまるで精根尽き果てたかのようにボロボロに見えた。 「あたしが言えた義理じゃないんだけど」 「香里…姉ちゃん?」 「ん……ごめんなさい。 なんか愚痴入っちゃったわね。 あたしがいいたいのはね」 言葉を選んでいるのか、香里は人差し指を顎に当てて目蓋を閉じる。 「自分にだけは嘘をつかない方がいいって事かしら。 それは多分、勇気がいるんだと思うけど。 ほんとにね、自分にぐらいは正直でないと、なにをどうしたらいいかさっぱり訳がわからなくなっちゃうときがあるから。 もうグチャグチャにね。 だから傲慢でも我が侭でも自己中心的でもなんでもいいから、自分の気持ちとかしたいこととか、それが在ることくらいは認めておくべきなのよ。 実行するかどうかはまた別としてだけど」 一息に言い切り、香里はげんなりと肩を落として痙攣したみたくヒクヒクと笑った。 「あー、これってもしかして自傷行為ってやつかしら。 イタタタタ」 香里に何が在ったのかは知らないけれど、今の言葉からは痛いほどの彼女の実感が伝わってきた。 自分の気持ちを認めろ、か。 ないものとして扱えば、きっととても楽なのだ。 在る事を一旦認めてしまったならば、人はその存在を無視できなくなってしまう。 観測する行為そのものが、対象に影響を及ぼすというやつだ。 その気持ちに従うにしても、否定するにしても、保留し続けるにしても、とても大きな力が必要となる。 二度と身動きすらもしたくなくなるような疲労や苦しみを伴う労力が必要なのだと、人はどこかで知っているのだ。 だから、無かった事にしてしまいたい。 だから、在るのだと認めることに、勇気を必要とする。 でも、まず在ることを認めなければ、何も始める事が出来ないのだ。 いや、始まりどころか終わることすら出来ない。 北川薫は、美坂栞が好きなのか否か。 それについて、考えること自体が息苦しい。 背を向けて一目散に逃げ出したくなる。 誰でもない、自分に向き合うただそれだけの、ひとひらの勇気すら今の自分にはないようだった。 シュンとなって落ち込んでしまった薫に、あららと香里は苦笑いを浮かべた。 思ってた以上にこの子は根っから真面目よね。 聞き流してしまえばいいだろうに、自分なんかの言葉を真剣に受け止めてしまっている。 あんなの、泥沼にはまってもがいているだけのしがない女の繰り言なのに。 ったく、可愛いじゃない。 香里は胸の奥を擽るような淡い感触に頬を緩ませた。 妙なところで生真面目なところなど北川くんに似ているかも。 近頃ではもう黒々と焦げ付いて抑揚を失ってしまったと思っていた心臓の裏側辺りの感覚が、キュと身悶えしたみたいに弾んでいる。 香里はペロリと舌なめずりした。 「ねえ、薫くん」 突然先ほどまでと香里の声質が一変する。 薫は蛇に顔を舐められたような悪寒にギョッと顔をあげた。 「なんだったらあたしで練習してみる?」 「なっ……なっ、なっなななななんの!?」 香里はするりと両手を薫の首に回して猫のように寄りかかった。 そうして顔を耳元に寄せ、擽るように囁いた。 「決まってるでしょ。 「わっ、わあああ、かっ香里姉ちゃん、ちょ、や、ままま待って待って待って待って!!」 「んふふふ、なにを待つのかしらぁ?」 ちゃんと言わないと判らないわねえ、と滅茶苦茶楽しそうにほくそ笑みながらなおも寄りかかってくる香里。 もはや組み伏せられているとしかいえない体勢に成り果て、薫は悲鳴をあげた。 「あら、そんなに嬉しいの?」 「嫌がってるようにみえるんだけど」 「失礼ね。 どう見ても喜んでる……」 いやぁな予感に香里は舌なめずりを途中で止め、ペコちゃん人形みたいな顔で視線を上方にずらした。 案の定、般若の面相になった妹が仁王立ちにそこにいた。 「あら」 「あら、じゃなぁぁぁぁい!! お姉ちゃんっっ、真っ昼間から天下の憩いの場でチビっこ押し倒してなにをやっとるんですかぁぁっ!!」 「なにって……プロレスごっこ、もしくは相撲?」 「黙れ変態姉」 「し、しおりぃぃ、うわぁぁぁぁん!」 香里の下から這い出た薫は、もうなんか恥も外聞もない感じで救いの神に縋り寄った。 「げげげ、薫くんマジ泣きじゃん!?」 マジ泣きであった。 「おーよしよしもう大丈夫だよ、怖くないからねー。 栞お姉さんがついてますよー。 って、こらお姉ちゃん!!」 残念そうに指を咥えてる香里から庇うように、栞は薫を抱き寄せてギタリと姉を睨みつけた。 姉、首を竦める。 「むー、なによー。 ちょっとしたスキンシップじゃない。 あんたもやってるでしょうが」 「お姉ちゃんがやると犯罪になるんです!」 「なんでよ! というかあんたデート中でしょうが。 なんでこっち来るのよ」 「あれだけ騒いでたら嫌でも気付くわっ! そもそもどうしてお姉ちゃんたちがここにいるの!?」 「見たらわかるでしょ、デートよ!」 「黙れ覗き魔!!」 井戸端会議を繰り広げていたお母さん方が、子供を連れて逃げていく。 もう一組いたカップルもそそくさを広場を離れていった。 いつの間にか噴水広場から人影が消え失せてしまっている。 それに気付いた様子もなく栞たちは罵りあいなのかなんなのか良くわからない怒鳴りあいを止めるどころかエスカレートさせている。 僕、絶対忘れられてるね。 ポリポリと頭をかく氷上。 ただ不思議と今だけは、忘却に晒されていることが辛くも寂しくもなんともなかった。 「本当に栞さんは面白いな」 なんだかもう栞たちの会話やら仕草やらの一つ一つがツボに嵌って、氷上シュンは笑いをこらえるのに必死だった。 ふと栞が抱き寄せている中学生ぐらいの少年と目が合う。 涙目になっていた彼は、氷上が自分を見ているのに気付くと顔を真っ赤にして栞から離れようと暴れ始めた。 「おや、見ちゃ悪かったかな?」 親の仇でも見るような目で睨み返され氷上は苦笑した。 まあ男としたらあんまり格好良い姿じゃないか。 栞はというと、姉との言い合いに夢中になって暴れる薫を逆に締め上げ始めている。 もうしばらく氷上は放置プレイを楽しむ事にした。 < 同刻 向島スパ・ワールド > 「ぷはっ!」 キラキラと水しぶきを弾いて、月宮あゆは水面に飛び出した。 50mプールを一気に泳ぎきった心地よい疲労感に浸りながら、頭を振って毛先から水を飛ばした。 「よっと」 水からあがり、プールサイドに腰掛けて顔に掛かる髪を両手でかきあげる。 本人は気付いていないが、そういった仕草の一つ一つに女性らしい柔らかなものが備わり始めている。 そんな彼女をお子様と笑う者はもういないだろう。 莟は花へと開くのだ。 まあ中には莟だろうと花だろうと気にもとめない馬鹿者もいるのだが。 大きく息をついて呼吸を整えたあゆは隣にあがってきた雪村要に感心をこめて話し掛ける。 「要さん、泳ぐのうまいね。 ボク、驚いちゃったよ」 要は簾のように前髪で目を隠した格好のまま、淡々と言った。 「なに、それほどでもない。 学生時代、映研の手伝いでよく水死体の役をやっていたからな。 水に浮くのは慣れている」 「そうなんだ」 なんだか見た目もアレなので水死体と話してる気分である。 話の内容も見た目もにこやかに「そうなんだ」で済ます時点であゆも色々な意味で何処か前人未到の領域に到達してしまっている。 「さて、ではそろそろ次のプールに行ってみようか」 「あ、ボク流れるプール、行ってみたいな」 「ふむ、流水プールか」 立ち上がった雪村はその高い身長を駆使してひょうたんの形をしたプールのある方角を確かめた。 「ボク、今まで二回しか流れるプールって入ったことないんだけど、あれ面白いよね」 長年植物状態になってたお陰でプール自体あまり遊んだ経験のないあゆなので、どんな形状のプールでも楽しくて仕方がないようだった。 今度、ここにはない波の出るプールがある遊泳場に連れて行ってやろうと考えながら、雪村は相槌を打った。 まったく動じていないあたりはさすがである。 まあ普段より浮かれているというのもあるのだろうが。 「どうしてだ? 水死体は息をしてはいけないのだが」 「うぐぅ、勝手に水死体にならないでよ」 少女は雪村の前でピョンピョンと跳ねると、ビシっと指を突きつけた。 「流れるプールはね、流れに逆らってひたすら上流に向かって泳ぎつづけるのが作法なの。 ゆーあんだすたん?」 「なるほど。 それはいっそ爽快なほど他の客の迷惑を顧みない野性的な作法だな、あゆくん」 感嘆をまじえて雪村は恋人のワイルドさを褒め称えた。 「他の客を押し退けて遡っていくのが楽しいんじゃないか。 そうして他人を蹴落として上流に辿り着いたものだけが次代に血を残せるんだよ」 「鮭の産卵といろいろ混同しているぞ、あゆくん」 恋人らしいとは到底言えないが実に彼ららしい会話を繰り広げながら、二人は流れるプールのプールサイドへと移動したが、丁度混雑の波が流れるプールへと集まっているらしく飛び込む隙間がないほど水面は人の頭で埋まっていた。 「お玉ですくいたくなる情景だな」 「灰汁じゃないんだから、要さん」 「しかしこれは入るのは少し遠慮したい状態だ」 「そうだねえ」 うつ伏せに流されるのも上流へと這い上がるのもこの状態では無理そうだ。 仕方なく別のプールに移動する事にした二人はウォータースライダーで遊ぶ事にした。 ここも決して空いているとは言えないものの、丁度人の移動の隙間にあったのか他と比べれば並んでいる人数もそれほどではない。 「うぐっ、ボクこういうの乗るのはじめて」 「そういえばあゆくんは高いところは大丈夫だったか?」 「遊園地の時にも言ったけど、ボクはわりと平気なんだよ」 高いところがトラウマになってしまったのは、あゆが落ちるのを見ていた祐一の方だ。 彼の耳元で「アイキャンフラーイ!」と叫ぶのは水瀬家のご法度となっている。 ようやく一番上まで階段をあがり、スライダーの乗り口が見えてきたところで雪村がふと思い出したように言った。 「知っているか、あゆくん。 このプールのウォータースライダーには一本だけ外れのルートがあるらしい」 「ええ!? は、外れってなにさ!?」 「ふむ、なんでも外れのルートは隣の水族園に通じていて、外れを引いてしまった人は鮫がいる水槽に放り出されてしまうそうだ」 「うぐぅっ!?」 「毎年何人もの犠牲者が出ているそうだ。 ほら、あそこに石碑があるだろう。 あれは犠牲者を追悼する慰霊碑だ」 「う、うぐぅぅ!?」 「お客さん、うちのプールの隣に水族園なんてありませんよ」 列の整理に当たっていた職員がガタガタ震えているあゆに呆れ顔で告げた。 「ええっ、嘘なの!? ひどいよ要さん!」 顎に手を当て雪村は何度も深く首肯した。 「なるほど、これは楽しいな。 相沢くんや明日奈姉さんが君をからかいたがるのも良くわかる」 「そんなの一生わからないでくれていいよ」 自分でも何でこんなの信じるんだろうという話に引っ掛かるのが恥ずかしく、まだ笑いが残っている雪村と顔を合わせていられなくなり、あゆは拗ねて顔を背けた。 ついでに、一応…一応念のためにスライダーのチューブが変なところに通じてないか確かめようと、あゆは手摺に寄りかかってチューブのラインを目で追い、 「ああっ!!」 大声に誰もが驚き声の主を振り返った時にはもう、あゆは飛び出していた。 人ごみを整理するのに掛かりきりになっている職員の脇をすり抜け、スライダーに滑り込む。 「あっ、お客さん!!」 「あゆくん!?」 ただの順番抜かしとは思えない、血相を変えてスライダーに飛び込んでいったあゆを呆気に取られて見送ってしまった人々は、彼女が滑っていく先に視線を向けてようやく事態に気がついた。 あちらこちらから悲鳴があがる。 なんと一人の5歳くらいの男の子がチューブの外側にしがみついていた。 チューブを流れる水の水量が少なかったのか他になんらかの理由があったのか、いずれにしても途中で止まってしまった男の子が外に身を乗り出してしまったようだった。 普通ならあのぐらいの年齢の子供を一人でスライダーに滑らしたりはしないのだが、職員が整理にかまけている間に勝手に滑ってしまったらしい。 男の子のもとまで滑り降りる間に、あゆはもう三回は職員に訴えて助けに行ってもらえばよかったと後悔していた。 チューブの縁に掴まって足をばたつかせている男の子の姿を見た瞬間、反射的に飛び出してしまったのだが、こんなだから考えなしといわれるのだ。 いや、今回は仕方がない。 子供の体力であんな斜めになった縁に何秒も掴まってなんていられない。 職員に訴えている間に子供が落ちてしまう。 場所の見当をつけてあゆは四肢を踏ん張った。 キュルキュルと気持ちの悪い音を発してスピードがゼロになる。 「いたっ!」 チューブの外に身を乗り出して子供の姿を捜したあゆは、自分が正確に子供の間近に止まれた事を知った。 と同時に時間もギリギリだったことも。 その途端、必死にしがみついていた子供の手がチューブの縁から外れた。 もう無我夢中だった。 あゆはチューブを乗り越えると、縁を掴んだ片手だけを命綱に空中に飛び出す。 「くぅ」 間一髪、落ちていく子供の腕を掴み取る。 自分の体重プラス子供の重さ、さらに落下の勢いが一気に片腕に襲い掛かり、あゆは喉の奥で悲鳴をあげた。 腕の筋が引き攣れ握力が一瞬にして消え失せる。 だ、だめっ、こんなのもたない。 「ぎゃあぁっ、やだぁぁこわいよおお!」 「あ、暴れないで」 宙吊りにされた恐怖にパニックになった子供が暴れ出す。 「あゆくん、今行くっ、待ってろ!!」 「要さん?」 はじめてみる必死な顔をした雪村が、チューブの縁に掴まりながら滑り降りてくる。 「か、かなめさん、ダメ、ボクもう」 下は水深がふくらはぎまでしかない幼児用プールだ。 コンクリートの上に落ちるのとさして変わらないだろう。 ま、また落ちちゃうのか、まいったなあ。 どうしてだか恐怖もなにも感情が湧き立たず、あゆはひどく困惑した気分で自分の行く先を認めた。 奇跡とは、もしかしたら単に借金の棒引きにすぎないのかもしれない。 じゃあ運命とは絶対諦めずに負債を取り立てにくる借金取りみたいなものか。 そんな風に考えるとなんだか身も蓋もないけれど。 うんそうか。 つまり、自分は高いところから落ちて死ぬのが運命だったというわけか。 咄嗟に子供の手首を掴む手に力を込めたその瞬間、 ズルリと。 チューブの縁を掴んでいた指が外れた。 一瞬絡め取られた浮遊感に、全身が総毛立つ。 いまさらのように恐怖が魂を殴打した。 身が竦む。 心が縮む。 あゆは目を見開いて遠ざかる人の名を泣き叫んだ。 そのとき、雪村要に一瞬の躊躇もなかったと。 「うそっ!?」 永遠に遠ざかってしまった人の顔が、目の前にあった。 彼は空中であゆを捕まえ、彼女が落下の衝撃から庇おうと抱き寄せた子供ごと、その長身に抱え込んだ。 そうして視界が水に覆われるその瞬間まで、あゆは自分が落ちていることも忘れて茫然と目を見開き続けた。 「………………あれ?」 滝のように水が頭上から降り注ぐ。 一際大きい水玉に顔を打たれ、あゆは我に返った。 落ちた、んだよねボクたち。 放心しながらあゆは自分が幼児用プールの底にへたり込んでいるのを確かめる。 なぜだか水深が爪先ほどに減ってはいるが、確かに上から見た幼児用プールだ。 痛みは……多少身体のあちこちがどこかにぶつかったみたいに痛いが、それだけだ。 怪我らしい怪我もしていない。 恐る恐るあゆは周りを見渡した。 腕の中には恐怖に硬直している子供。 後頭部と背中にはあゆたちを庇った雪村の胸板の感触がする。 一瞬、死んでしまったのかと思ったが、背中からは雪村の確かな鼓動が伝わってきていた。 落下の衝撃でなのか見上げるような水壁となって立ち昇っていた水しぶきが、勢いの衰えた噴水のように消え失せていく。 まるで幼児用プールの水全部が空中に噴きあがっていたかのように、もとの水深が戻ってくる。 「大丈夫、怪我は無い?」 水のスクリーンが消え去ったとき、あゆは目の前に一人の麗人が立っている事に気がついた。 景観的に凶悪すぎるビキニ姿でなければ女性と間違えたかもしれない。 毛先に目に優しくない色のメッシュを入れ、ドギツイ色のアイラインやルージュで顔に化粧を施したその男性は、呆れかえった顔であゆと彼女たちが落ちてきた場所を交互に見上げ、ヒラヒラと手を振った。 「ったく、無謀なことするわね。 普通なら死んでたわよ、あなたたち」 「あ、あの」 「だから褒めてなんかあげないわ」 そう言いながらも見ているものがハッとするような微笑を残し、オンナ言葉の彼はスタスタと踵を返して立ち去っていってしまった。 「生きて、いるのか。 あゆくん、怪我は」 魂が抜けてしまったような声音で雪村が安否を尋ねてくる。 「うん、大丈夫。 この子も怪我もないみたい」 同じく放心した声で答えたあゆは、ジワジワと足の下から湧き上がってくる恐怖に子供ごと自分の身体を抱き締めた。 そう、死んでいたのだ。 本当なら今の人が言ってたみたいに死んでいた。 その事実が実感されてくるにつれ、震え上がっていたあゆの心に猛烈な怒りが湧きあがってくる。 「どうして」 周囲はえらい騒ぎになっていた。 泣き叫ぶ子供の母親。 職員に食って掛かる父親らしき男性。 今見たものを口々に喚きあう野次馬達。 あゆたちを心配してプールの職員や客たちが話し掛けてくるが、あゆの耳には入ってこない。 「どうして」 パァンと、プールの隅まで届くほどの激しい平手打ちが、雪村の頬を打ち抜いた。 一瞬、あたりが静まり返るほどの音だった。 「冗談じゃ、ないよ。 こんなの、冗談じゃない。 なんてこと、するの。 信じられないよ、ボクもう信じられない」 死んでしまうところだったのだ。 あゆはこらえきれずにガタガタ身体を震わせ、溢れ出そうとする言葉と感情に溺死しそうになりながら雪村を睨みつけた。 むちゃくちゃだ。 イカレてる。 なんであそこで飛び降りる。 なんであそこで追ってくる。 意味、ないじゃないか。 一緒に死んじゃうだけじゃないか。 この人は頭がおかしい。 イカレてる。 「死んじゃうところだったんだよ!!」 「それは、こっちのセリフだ」 雪村の口から聞いたことも無いようなガラスを引っかくような引き攣った声が発せられた。 それが怒りに震えているのだと、気付くまでに時間が掛かった。 「こちらがどんな思いをさせられたのか、君にはわかっているのか。 自分がいったい何をしたのか、胸に手を置いて思い出してみるといい。 あんなバカな真似をして、君はどうかしているぞ!」 「ボクが、悪いって言うの!?」 パァン、と。 つい今しがた鳴ったのと同じ音が、今度はあゆの頬で弾けた。 足を縺れさせ、水の中に尻餅をついたのは、頬を叩かれた衝撃よりも驚きが原因だった。 「……うそ」 雪村要に殴られた。 それが嘘でない事は、チリチリと火照る頬が物語る。 不思議だった。 涙はどうしていつだって、泣きたくないときに勝手に流れ出てしまう。 「あたりまえだ、馬鹿者!!」 「たたいた、要さんがたたいた」 「叩かれるだけのことをしたんだ、君はっ!!」 カッと頭の中が爆ぜる。 気がつけば、もう一度雪村の頬を平手で打ち抜いていた。 「要さんもしたじゃないかぁっ、このバカぁぁぁ! あんなことしないでよぉ!」 もう一発殴ろうとして、腕を掴まれる。 「それはこっちの台詞だ。 悲痛な声が胸を刺す。 「頼むからもうあんなことはしないでくれ」 息をすることも許されないくらい抱き締められる。 あまりにも深い深い怒りがガタガタと震える彼の言葉や身体から伝わってくる。 いや、これは怒りではない。 純粋な恐怖だ。 それに思い至った瞬間、あゆもまた自分の中で煮え滾っているこの激情が怒りでないことを自覚した。 プツンと胸の奥で今までずっと引き絞られた糸が千切れとぶ。 「う、ふぅ、ああ、うわあああああああああああ」 掻き抱くように首にしがみついて泣きじゃくる少女を、雪村はもうそれ以上何も言わずに抱き締めた。 「漣、人前であんな派手な術は使ってはダメなの」 「そんなに派手じゃないわよぅ、いたっ、イタタ、ちょっと鼻叩かないで、鼻」 ペシペシと顔面を叩かれながら、月城漣は自分でも欠片も信じていないくせに臆面も無く抗弁する。 幼児用プールに張ってあった水が間欠泉のように吹き上がり落ちてくるあゆたちを受け止めたのだ。 どう言い繕っても派手である。 「だ、大丈夫よ。 あれぐらいならあの子たちが落ちた衝撃で吹き上がった水だって言い張れるわ」 話に無理があるの、と呟きながらも綺咲にもそれ以上追求するつもりはなさそうだった。 昔は四角四面な考え方しか出来なかったのを思えば、この娘も柔軟になってくれたものだ。 人によってはそれは柔軟ではなくいい加減になっただけだと言われそうだが。 それにしても、と漣は怒鳴りあい殴りあいの挙句に抱き合って泣いている勇気の塊のようなカップルを姿を、一生に一度巡りあうかどうかの自然現象に遭遇した冒険家のような目で眺めやった。 「あの子たち、どう思う?」 綺咲は詰まらなそうに言った。 「愚か者なの」 「あらま容赦の無い。 でもそうね」 綺咲の言う通りだった。 彼らは度し難い愚か者だ。 助かったのは運が良かっただけ。 漣が偶々この場にいなければ、良くても後遺症の残る重傷。 悪くなくても死んでいただろう。 いや、子供だけは助かっていたかもしれないが。 カップルの二人ともが庇うような体勢を取ろうとしていたし。 いずれにしても、彼らはともに愚かな真似を仕出かしたのだ。 たとえ何度同じ事が目の前で起こっても、漣は絶対に彼らを褒めないし、お前たちは間違っていると断じるだろう。 「でも、あの娘がバカをやらなければ、あの子供は死んでいたわね」 あの少女が何秒か時間の猶予を作らなければ、漣の術式は間に合わなかっただろう。 少女が無謀なまねをしたからこそ誰も傷つかずに済んだ、それもまた事実である。 「漣は何が言いたいの?」 「この世には否定して戒めて叱らなきゃいけないんだけど、でもそれでいながら決して無くしたり喪ったりしちゃいけないものがあるってことよ」 「……矛盾してるの」 「この世界は複雑怪奇、ってやつかしらね。 ま、その矛盾在る限りこの世も、人間も捨てたもんじゃないのよ、きっと」 「よくわからないの」 うんうんと唸りながら小首を傾げる綺咲の頭を漣はガシガシと撫で回した。 「大丈夫、今のあんたはよくわかってるわ」 そしてあのカップルも。 あの怒鳴り合いを聞いてる限り、彼らは良くわかっている。 「ほんとに、ああいう子たちが普通にいるんだから、捨てたもんじゃないわよね、この世の中も」 久しぶりに心の底から愉快な気分になって、漣はニヤニヤと相好を崩した。 その時だった。 フワリと漣の髪が逆巻く。 にやけた顔から表情が消え失せ、半眼になった月城漣は、ゆっくりと首を上へと傾けた。 < 11:00 物見の丘 森林部最奥 > 大地が霊的な鳴動をはじめていた。 龍脈に直結させた真円の魔法陣が回転をはじめる。 陣はある種の井戸であり、同時に汲み上げられた霊力の変換機構だ。 天頂へと立ち昇る魔力の柱を、魔術師たちはそれぞれ歓喜の面持ちで仰ぎ見ていた。 四日四晩かけて築かれた儀式結界がついに稼動をはじめたのだ。 歓声に沸く魔術師たちの中で、独り淡いクリーム色のスーツ姿の男だけが口ひげをこしながら微苦笑した。 追い詰められている中でついに儀式に漕ぎつけたのだから喜ぶ気持ちは分かるが、本番はこれからなのだ。 今から此れでは先が知れる。 「気を抜いちゃいけませんよ、 同胞 はらから たち。 まだ何も始まってはいないのですから」 穏やかに説かれ、魔術師たちは表情を引き締める。 浮かれていた自分たちを責めるように、彼らは互いを見ないように作業へと戻った。 思い出したのだ、彼らは。 いかな高邁な目的のためとはいえ、これから自分たちが為そうとしているのは保有魔力が高いというだけで何の罪もない人々を犠牲にすることなのだと。 悪逆の名を被ることを辞さずとも、心まで邪悪に染まるわけではない。 我らもまた人の子なのだ、と吾妻は粛々と術式の維持に努める仲間たちの姿に思いを新たにした。 たとえ神の力に手を伸ばそうと、それを忘れて自惚れてはならない。 「明治の記録によれば、御門家は儀式のこの段階で1500人もの人間を殺していたのですね」 ふと、吾妻は過去同じ力を求めたものたちの事を思い、口にした。 想像を絶する虐殺だ。 彼らは何を思い、それを為したのだろう。 己が家の栄達のためだけに罪なき人々を家畜のように屠殺することが出来るのだろうか。 出来るのだろう。 ヒトとは虚しい哉そうした生き物だ。 「血生臭い話だ、うん」 吾妻の呟きを受けて、高梨は困った隣人を評するように語った。 「必要なものは良質な魔力を有する魂魄です。 質より量などと、非効率極まりない。 選別もせず根こそぎ集めた魂を釜にくべるなんて、乱暴にもほどがありますよ」 言いたい事はそういう事ではなかったのだが。 とはいえ、自分が結局何を思ってこんな話題を口端にのぼらせたのかもはっきり分からず、吾妻は高梨を振り返る。 彼は、微笑んでいた。 「そう考えると我々はとても人道的じゃあないですか、うん。 なんせ死んでいただくのはほんの20人ほどだ」 「…………」 相槌を打とうとしたものの、喉が鳴るだけで咄嗟に声が出てこない。 うなじの毛がそそけ立つ。 なぜか一瞬、目の前にいる尊敬する師がまったく理解の出来ない別次元の生き物のように思えたのだ。 「犠牲なんてものはどんな大義名分があろうと極力少ないほうがいいものねえ。 ね、吾妻くん?」 「え、ええ」 辛うじて頷きながらも、吾妻は別のことを考えていた。 自分は仲間が主張するほどには妖怪を下等な生き物とは蔑んではいない。 ヒトも化け物もさして変わる物ではない。 下劣なやつはヒトだろうが化け物だろうが下劣だし、人格者たるに種の差はない。 いや、本音を言うなら人間のほうが種としての品に欠けていると、妖怪たちと相対してきた吾妻は感じていた。 彼が今回の決起に参加したのは、まさにヒトの方こそが妖怪たちよりも愚かしい生き物であると考えていたからだった。 近年、ヒトと魔の領域は境界を曖昧にしつつある。 やがては幾千年にも渡って相容れぬとされてきた二つの社会が一つにまじわるのではないかという勢いだ。 はたして、ヒトと妖の存在する領域が重なったとき、今度暗く光の届かない闇の底へと追われるはめになるのは愚昧なる人間の方ではないか? 武力でもなく呪力でもなく、ただ新たに得つつある人間の如き社会性とヒトより高みにある精神性によって、ヒトは妖怪に淘汰されてしまうのではないか。 そんな根拠の無い怖れに引かれ、こんな妖を駆逐するテロリズムに参加する時点でヒトの愚かさを体現しているようなものだということは自覚していた。 そしてその愚かを肯定する救いがたさも自覚していた。 そして、恐らくはこの愚挙が成功しない事も。 自分たちが辿る末路は、御門家とさして変わらぬものになるのだと。 だが、高梨の微笑を目の当たりにしたとき吾妻はゾッとするとともに予感を過ぎらせたのだ。 もしかしたら、この企みは成功するかもしれない。 だがその予感に、何故か興奮も高揚も抱けなかった。 高梨はニコニコと微笑んだまま、黙り込んだ吾妻の耳に囁きかけるように云った。 「さあ、はじまりますよ。 吸精結界第四大系『 贄の園 サクリファイス・スフィアグリッド 』の十七番」 「……【黒の収穫祭】」 天上では黒々とした雲が渦巻いている。 魔力の柱はバベルのように天を閉ざす黒き扉を穿っていた。 魔力の柱が 巻物 スクロール の紐が解かれたかのように分解した。 オーロラが生まれる。 幾重もの光のカーテンが魔力の柱がそそりたっていた場所から全方位めがけて走り出す。 「祭壇よ、在れ!」 結界の中心を担う魔術師が高らかに叫んだ。 上空を閉ざしていた黒雲が、千々に消し飛ぶ。 光のカーテンが舐めていった空間を、乳白色の 穹窿 ドーム が閉ざしていく。 そして世界は夢と現に区切られた。 < 同刻 噴水広場 > 栞の説教の矛先は、ついに姉から薫にまで及んでいた。 しょげている薫にプリプリと怒ってデバガメがいかに下品ではしたないものなのかを実体験を交えて言い聞かせていた栞は、目聡く少年が背中に隠しているものを発見した。 「ああっ! 薫くん、ちょっともう。 なに考えてるの、こんなものまで持ち出して」 「あっ」 薫から胴太貫が入った包みを取り上げ、中身を取り出し栞は眦をつりあげた。 「斬られるのは困るな」 「そ、そうやなくて」 責められるわ笑われるわで薫はタジタジになって縮こまった。 鞘に納まっているとはいえ、取り上げた日本刀でポカポカと薫を小突きまわそうとする妹をさすがに見かねて香里が間に入る。 「もう。 栞も怒るのは判るけどそろそろ矛を収めなさいよ。 「なっ!?」 「……これは」 薫もにこやかに姉妹のやり取りを見物していた氷上も顔色を変えた。 「う、うえええ!? 人体消失マジック!? お姉ちゃんてばいつの間にそんな特技を!!」 今の今までそこにいた香里が、いきなり黒板消しで拭き取られたみたいに消えてしまったのだ。 仰天してその場を右往左往しながら消えた姉の姿を見つけようとしている栞とは裏腹に、薫と氷上の二人は即座に異変を察知した。 「な、なんや今のは。 なんか光の壁みたいなんが通り抜けてったよ!?」 「栞さんのお姉さんだけじゃない。 左のベンチに座っていた老人、それに噴水の向こうをランニングしていた男性も消えている。 いやそれだけじゃないね……」 氷上は真剣な顔で周囲を見渡した。 「街から一切の音が消えた」 < 同刻 オフィス街 > 「みーちゃん!」 「はい、これは」 二人が見ている前で、街から人が消えていく。 突然東の方角から魔力を帯びた波が押し寄せてきたのだ。 光の壁ともオーロラとも見える魔力の波は、美汐と和巳の二人だけを残し人間を世界から消し去っていく。 車道を行き交っていた乗用車は波を受けると同時に内部から人間が消失し時間が固定されたように動きを止めた。 自動車だけではない。 あらゆる動体が動きを止め、芝居の書き割りのように静止していく。 街から喧騒という喧騒が消え失せ、静寂の中に沈んでいく。 「隔離結界です。 位相差空間に取り込まれました」 おそらく元の街では美汐と和巳の姿が突然掻き消えたように見えただろう。 ここは位相差内に構築された擬似空間だ。 「ですが、これは選別が為されています。 どういうこと?」 「多分、御門家みたいに無差別に生贄を捧げる方法は止めたんやろう。 「本格的に始まりよったぞ」 < 同刻 国道四号線上 > 間一髪だった。 押し寄せてくる空間隔離の波を目の当たりにした望月静芽は、拠点で尾行を巻くために乗り換えた乗用車を咄嗟に歩道に寄せてブレーキを踏み込んだ。 直後、時速50キロ前後で行き交っていた車の群れが、慣性も無くビデオの一時停止ボタンが押されたかのように静止する。 あのまま走行していたら前方を走っていたタクシーと追突していたところだった。 危なかったと静芽は密かに額に浮かんだ汗を拭った。 高梨たちが準備していた結界の種類は把握していたものの、それが発動される時刻までは掴んでいなかったのだ。 この種の隔離結界により形成される擬似空間は、主に現実世界の投影により構成されている。 いわば偽物だ。 見てくれだけは同じだが書き割りと同じで機能までは再現していない。 自動車やバイクなどは動かないし、パソコンなどの電化製品も同様だ。 食品や飲料も口に入れられるものではない。 例外として挿入された際に使用していた道具は所持品扱いで擬似空間内にも持っていけるのが通例だが、さすがに普通乗用車クラスの質量と複雑な機構を有した機械は対象外である。 念のためにキィを回して確かめてみたが、やはりエンジンが再起動する様子が無い。 「どういうことだ、これは」 乗用車の助手席から降りた井上義行は、愕然と無人となった県道を見つめている。 「神降ろしの潔斎のための神域を形成するための結界ではなかったのか。 これは違うじゃないか……」 義行は車から降りてきた静芽を噛み付きそうな勢いで振り返った。 「これは吸精結界、それも第四大系じゃないか!!」 「そのようですね」 結界内に取り込んだ生物から精気を奪い取る吸精結界の中でも、第四は神に生贄を捧げる儀式の意味合いがある結界大系だ。 贄の園 サクリファイス・スフィアグリッド と呼ばれるそれは、元来はその性質上聖性の高い術式が多かったものの現代に至るまでに俗世の欲望に晒された結果悪質な改良がなされ、今ではその大半が邪法に類別される代物だ。 内心、静芽は一発で結界の性質や大系まで見極めた義行に感心していた。 「知っていたのか、望月」 「まさか」 いけしゃあしゃあと静芽は首を振った。 「私は儀式にはまったく関与していません」 嘘は無いがだからといって知らなかった理由にはならない。 だが疑う素振りもみせず義行は追及の矛を収めた。 チラリ、と信頼してくれているのかという思いが脳裏を過ぎるが、単に単細胞だからだろうという結論に落ち着く。 義行は苛立たしげに車の屋根を叩くと、押し殺した声で宣言した。 「高梨師の所に行くぞ。 どういうつもりか直接問い質さなければ」 < 同刻 市街西地区住宅街 > 世界が一変した瞬間、小太郎は敢えてそれを無視した。 位相差空間に取り込まれたのは認識していた。 尋常ではない規模の儀式結界であることも承知している。 だが彼の置かれた状況が、そちらに意識を傾ける余裕を与えてくれなかったのだ。 「なんてことだ」 ギチギチと刃こぼれした刀同士を擦り合わせているような不快な音色。 目の前で見ていなければそれが人の発する声とは判じられなかっただろう。 いや、ヒトではもうないのだ。 彼の姿かたちが否応無く理解を強制する。 カシャカシャと忙しなく瓦を鳴らしている八本の括れた脚。 びっしりと黄色と黒の斑の毛に覆われた腹と胸部。 おそらくは頭部に当たる部分からヒトの上半身が生えている。 此花春日は黄色い瓦の一軒家の屋根の上で、不思議そうに辺りを見回している。 つい今しがたまで首筋に齧りついて精気を啜っていた小学生の女の子が突然掻き消えてしまったので戸惑っているのだ。 「春日」 か細く名前が囁かれた。 泣き出す寸前なのかと思ったのは小太郎の錯覚だった。 ハッとなって振り返った澄の顔には涙の一つも浮かんでいない。 「……すぅみぃ?」 驚いた事に春日は澄の声に反応を示した。 小太郎たちは知らなかったが、十分ほど前に郁未たちが山浦の術者雨宮を昏倒させたため、春日は完全に支配から解かれていた。 「ひっひっひっひっひっ、ゲッタタタタタタタタタタタタ」 足踏みしているかのように八本の脚が瓦を叩き踏み割っていく。 高ぶりを示すかのように巨体を揺らし、一片足りとも正気が残っていないと分かる常軌を逸した哄笑が世界にヒビを入れていく。 物部澄と此花春日。 二人はこうして再会を果たした。 < 同刻 市街西南地区 住宅街 > 世界が変わる。 一呼吸、その場に立ち止まった事だけを唯一の反応とし、天沢郁未は歩きつづけた。 昏い眼差しは一切が制止した世界を揺るがず見据えている。 親友に裏切られ、相棒に背を向けて、母である資格を失った天沢郁未に残されたものは僅かでしかない。 他は全部捨ててしまった。 捨てざるを得なかった。 持ち続けることは許されなかった。 だから、今の彼女に残されたものはただ一つ。 < 同刻 向島スパ・ワールド > 一変した漣の気配に綺咲は眠たそうな相好を微かに引き締めた。 「反応、きたわ。 「方位は西北西。 距離は22……いえ、45キロ? なるほど、ほぼ円形に半径10キロが圏内ってところだわね。 拙いわ」 漣は綺咲を見下ろして告げた。 「もう結界が発動してる。 今感知したのは起動術式の余波魔力よ」 「遅れをとったの」 水を蹴飛ばすようにプールサイドにあがり、人ごみを縫うように脱衣所に疾駆する。 漣はパーカーのポケットに入れた無線機を取り出した。 内心は腸が煮え繰り返る思いだ。 とうとう此処に至るまで出し抜かれてしまった。 いやまだ間に合う、手遅れではない。 上等だ、舐めるな賊徒ども。 此方を誰だと思ってる。 漣は周囲の耳も気にせずに無線機に向かって大声を発した。 「緊急事態! 結界が発動したわ。 式種 タイプ は吸精、第四大系、 贄の園 サクリファイス・スフィアグリッド。 術式詳細は不明。 総員ただちに現在地を放棄して今から言う地点に集合。 繰り返すわ、すでに儀式は始まってる。 奸賊どもが待ちきれずにパーティーをおっぱじめたわ!」 一拍置いて息を吸い、漣はてぐすねを引くように無線機に向かって訴えた。 「レディースレディース、戦の支度を整えなさい。 纏うドレスは絢爛豪華に、着飾る宝石に糸目をつけず、許す限りの目一杯のおめかしをしていらっしゃい。 これより我ら 紫旗 ムラサキ は世に仇為す朝敵どもに、宴の主賓がいったい誰かを思い出させに罷りこす。 遅れたお詫びの贈り物には飛びっきりの 悪夢 ナイトメア を進呈するわよ。 さあ、わかってるわねあたしの可愛いウォーモンガーども」 その艶笑はさながら血の浴槽に浸るエリザベート・バートリーの如く。 月城漣は宣言する。 「お待ちかね、楽しい戦争のお時間よ!!」 < 11:04 物見の丘 森林部最奥 > 儀式の展開維持に集中している山浦衆から少し距離を置いた高梨は、最近伐採されたらしい大木の切り株に腰を降ろすと通信術式を接続した。 隔離結界内では電話会社の中継施設と電波が断絶しているため携帯電話が使用できないので、必然的に連絡手段は無線機か術式に頼ることとなる。 「アーティファクトの設置は完了したかね、巳間くん、高槻くん」 『巳間だ、既に完了している。 確認作業も終了した。 問題はない』 『おう、高槻だ。 こっちも終ったぜ、校倉の旦那』 穏和な高梨の笑みが掻き消える。 「困るな、高槻くん。 軽はずみにその名前を口に出してもらっては」 『おっと、こいつはすみませんね』 悪びれた様子も無くせせら笑う声が聞こえ、通話が断ち切られる。 「……やれやれ、困った男だな彼は」 『すまない。 私から言って聞かせておく』 「お願いしますよ、巳間くん。 あんまり度が過ぎるようだと殺しちゃうよ、アレ、うん」 『……ああ、申し訳なかった』 やや絶句したような沈黙の後、了解の旨を言い残し良祐からの通話も切れる。 「さて……ここまで来たか。 二十年、長かったのか短かったのか」 感慨深げに目を細め、高梨は膝に頬杖をついて身動ぎするのも忘れたように静寂に意識を浸した。 「ふむ、私も人の事は言えないな。 感慨に浸るにはまだ早い」 自嘲気味にズボンの皺を払って立ち上がると、高梨は朗々と呪を紡ぎはじめた。 ビードロの鈴に似た音色が響き、無数の魔法円が生まれては消えていく。 「我がもとに来たれ、導く者たちよ。 【 赤の書 リブリス・ルビルム 】【 屍栄華 グロリア・モルトゥム 】【 モノクロームの託宣 シュビラ・メラノレウカ 】【 黙する千夜 ミーレノックス・コンポステーラ 】」 虚空より光の粒を撒き散らかし、四冊の 魔導書 グリモワール が現出する。 翼はためくが如くページが捲られていく魔本に囲まれながら、高梨は懐より錆の浮いた鉄片を取り出した。 鉄片を指で弾き、宙に描いた祭文に貼り付ける。 ズルリ、と。 鉄片が面積を広げる。 空間そのものがその姿を覆い隠していたというのか。 皮膜を剥がすように空間が削れていき、鉄片がその本当の姿を現しはじめた。 「なるほど、これが本物の 布都御魂剣 フツノミタマノツルギ の制御端末か、彼の言うとおり欠損はないようだね、うん」 古代の鉄剣と思しき鈍い光を放つ逆反りの古剣を握り、興味津々といった様子で状態を確かめる。 ここまでイレギュラーはあれど、大枠は順調に進んでいる。 だが、玩具を得た子供のように剣を弄っていた高梨の表情には、いつしか濃い翳りが浮かんでいた。 「罪悪感か、まあ気持ちのよいものではないか」 葉子と交わした会話を思い出し、高梨は自嘲気味に頬を掻いた。 脳裏に浮かぶのは、この祭具、そして魔導書の一冊を入手し、自分に渡した男の憤る姿だ。 「すまんね、祐馬くん。 君の信頼を裏切るのは心苦しいが、私は私の欲を優先させて貰うよ。 人を見る眼がなかった自分を悔いてくれ」 彼が自分のやり方を認めることは許されないだろう。 が、大筋ではまだ彼と自分の望みは道を同じくしている。 機会はただ一度、故に、自分の裏切りを知ったとしても彼らはいずれ起こるだろう状況に乗らざるを得ない。 尤も、もう二度と協力関係は結べはしないだろうが。 「かつて生死を共にした仲間が四分五裂に敵対する、か。 因果な話だね。 まあ私の言えるセリフじゃないが、うん」 魔術師は可笑しそうに喉を鳴らして笑った。 「我が好奇心は世界を殺す……クククッ、まったく我ながら度し難いとも思うんですが、これも探求者の逃れられぬサガというもの、と言うのは言い訳かな?」 魔導書 グリモワール の脈動が止まる。 一際巨大な魔法円が、魔術師を中心に地面に浮かび上がる。 「我、校倉藤次の名において卿らに命ずる。 扉を開け、ソロモンの子らよ。 誘うは闇の星。 第七天獄 セブンス・ヘブン の御影を此処に」 足元に広がる無明の異界に全身が粟立つ。 だが、偽りの名ではなく真の名を冠して大魔術に挑んだ魔術師は、存在そのものを戦慄させる未知の波動に晒されながらも、微塵も平静を乱すことなく手にした剣を魔法円に突き立てた。 結界の六方に設置した特異点と端末が接続したのを感じ取る。 異界より溢れ出てくる漆黒の座標を固定。 僅かに息を吐いて緊張を解き、高梨は満足そうに呟いた。 「セブンスヘブンの直列接続を確認。 うん、未完とはいえ 布都御魂剣 フツノミタマノツルギ 、予定通りの能力を発揮している。 現時刻は11:08か。 残りはあと千九百十五秒、実験はもう止まらん。 ならばあとは……」 布都御魂剣 フツノミタマノツルギ の本体の顕現か。 「やれやれ、やはり感慨に浸るにはまだ早い。 本番はこれからか」 来た道を戻り出す高梨の耳には、聴こえるはずのない世界の壁が崩れていく旋律が流れている。 空軍から出向してきた中佐が使い始めたという愛称だが今では中央指揮所という本来の退屈な名称よりも通りが良くなってしまっている。 指揮官用ブースからは多数の電脳機器の光芒とスクリーン、そして淡い光に浮かび上がった数十人を越える管制員の群れが見渡せた。 まるで軍の作戦本部だ、と緊張感を漲らせて忙しなく端末に向かっている管制員たちを見下ろしているうちにそんな連想が浮かぶ。 「何を今更」 朽木静那は自分が疲れていることを自覚せざるを得なかった。 思考が鈍っているとは言わないが、ふとした拍子に機能不全でも起きてるようだ。 ここが軍施設と似通っているのは当然だった。 その上この場所で働いている人間の半数近くが軍務経験者なのだから、軍の作戦本部と見紛うのも無理からぬ事なのだ。 今更この情景に初めてこの場を訪れた者のような感想を抱くなど、疲労に感性が鈍ってきているとしか思えない。 それとも、まだ自分はこの施設に違和感を感じているのだろうか。 この施設が出来て四年。 このシートに座る立場になって二年が経っているのに、時々自分が何者なのかわからなくなる。 やはり自分は古いタイプの術者ということなのか。 未だに陰陽頭という役職への固定観念が剥がれていない。 ああ、懐かしきは板張りの祭殿であり、清廉な白衣に身を包み祝詞を読み上げる神官たちだ。 現実にあるのは最新鋭の電脳機械と情報システムに支配されたトイボックスだ。 はたして、何も知らずにここを訪れた者が、ここが日本の祭事を司る機関の地下施設だと告げて信じるだろうか。 私なら信じない。 いや信じたくない、か。 「世も末だな」 白髪を櫛撫でて、朽木は鼻を鳴らした。 仕方がない。 これも時代の流れというものだろう。 現実は国家魔道の中枢たる神祇省に今までの姿とは別に、ここにあるような情景もまた必要と求めたのだ。 感傷を抜きにして言えば、この『オペラハウス』は実に便利なものだった。 というよりももうなくてはならないものになっている。 つまるところ、こういうシステムを必要にするほど神祇省という組織が複雑発展しているということだ。 現に今回の『神剣』に纏わる一連の事件でも、この『オペラハウス』は全国の神祇省隷下のグループへの統一指揮管制にフル稼働している。 「甲州探題先遣隊よりルート設定来ました。 確認作業入ります」 「45号線の交通情報寄越せ!」 「各県警本部へ交通規制を要請」 「白蓮旗とシーゲル1の邂逅地点付近の気候が悪化、断続的に乱気流が発生しつつあります。 気象情報では今後1時間は天候改善は見込まれず。 第1011輸送中隊本部より邂逅地点の変更要請」 「変更要請了解。 気象情報送れ。 リンクスが着陸可能なポイントを洗い出す。 急げ、時間がないぞ!」 俄かに眼下の喧騒が増す。 天候が思ったよりも不安定だな。 前日の気象予報ではもっと安定した状態を保つと出ていたのに。 舌打ちしながら静那はメインスクリーンに表示されたレッドマークに焦点を合わせた。 月城漣が報告してきた神剣顕現の儀式結界発動地点だ。 他方面からも同様の大規模結界発動の感知報告が舞い込み、確定情報と認定。

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「骨塚」に関するQ&A

龍脈に浸されし狂骨

サムライエンパイア南西部に、紅湖(こうこ)という国がある。 古くから武術の盛んな国で、戦国時代には猛威を振るったという。 そこに、高内(たかうち)という大名家がある。 代々武芸百般に秀で、鷹狩りを能くし数多の武功で名を馳せた。 高内とは"鷹射ち"と"多功地"に通ずる。 そのぐらいの家なのだ。 領内に多くの道場が存在するのも、納得と言えよう。 「そのお侍様の領地で、オブリビオンが暗躍してるのよ」 グリモア猟兵の白鐘・耀の予知によると、『嗤う厭魅師』なる呪術師が首魁らしい。 「こいつは口八丁手八丁や呪術を使って、当主を籠絡しているわ。 おかげで領内じゃ"武侠御免状"なんてものまで出回ってるんですって」 免状なくして武を修めること罷りならず。 しかしこれを賜るのは無法者ばかり。 おまけに免状は呪力を持ち、所持者を強く闘う相手は弱くしてしまうという。 「私達ならそこまで致命的な影響は受けないでしょうけど、まだ敵が居るのよ。 "紫陽衆"とかいうはぐれ忍者の集団が、親玉の周囲を常に守ってるってわけ」 厭魅師の呪法により、武家屋敷は奇怪な"オブリビオン城"と化している。 領内の悪漢どもを糺さねば、城に攻め込むことすら叶わないのだ。 無策で飛び込めば苦戦は必至である。 しかし、手がないわけではない。 「"流派を名乗って闘った時"だけは、御免状の呪いが弱まるのよ。 多分、武芸者同士を争わせて自然淘汰したかったんでしょうね」 名乗りは即興でも構わない。 武術流派とはだいたいそういうものだ。 だが実際に修めた流派ならば、呪いはさらに弱まり敵を精神的に圧倒できる。 そうでなくとも、武術らしく見えれば同じ効果を得られるかもしれない。 「でも皆が皆、殴ったり斬ったり得意なわけじゃない。 そういう人いるでしょ?」 何名かが手を挙げたのを見て、耀はなぜかドヤ顔で頷く。 「そこで可憐な私が考案したのが、ズバリ『ホニャララ書房作戦』よ!!」 名前からして不安しかないが、ようは漫画などでよくあるアレだ。 戦わずとも横からそれっぽく解説すれば、説得力が増して呪いを弱められるんじゃね? ……という、大変杜撰でルーズな作戦である。 効果の程は実際に試さねばわからない。 一通り説明が終わったところで、耀の背後に紅湖国の風景が映し出された。 免状を持つ悪党どもが、あちこちの道場に押しかけ狼藉を働いているではないか! 「ご覧の通りよ。 遠慮はいらないから即! ぶっちめてやりなさい!」 無辜の人々を救い、奇妙奇天烈なオブリビオン城を打ち砕く。 やることは単純明快だ。 耀は火打ち石を取り出し、自らも蹴りまくりたくてしょうがないという顔で笑う。 「私のぶんまで大暴れしてくるのよー!!」 カッカッという勇ましい音が、転移の合図となった。 武侠小説とか好きだから!! 焼餅(シャオピン)です。 色んな意味で説得力が高いほど、呪いは大きく弱まる。 『ホニャララ書房作戦(合同プレイング推奨)』 誰かの技を『あの技はもしや!』みたいに解説するとプレイングボーナス。 (その方自身は非戦闘もしくは後方支援扱いになります。 解説役なので) 以上です。 かっこいい(もしくはトンチキな)プレイングお待ちしています! それでは皆さん、必殺拳で悪党どもをぶちのめしましょう! 種別『冒険』のルール 「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。 5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。 成功度は結果に応じて変化します。 大成功 🔵🔵🔵 成功 🔵🔵🔴 苦戦 🔵🔴🔴 失敗 🔴🔴🔴 大失敗 [評価なし] 👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。 往来を肩で風切り歩くは、いずれもうだつの上がらぬ悪党ばかり! 「おう姉ちゃん、めんこいのう。 儂が大人にしてやろうか! おお?」 「ご勘弁くださいまし、どうか!」 髭面のうらなり男がおぼこい町娘を捕まえ舌なめずりする。 他方、病気がちな老婆とその息子を取り囲む剣客くずれの男ども! 「拙者らは人助けが大好きでのぉ。 その身なり、懐が寒かろう?」 「十中八九、ご母堂殿の薬代と見た。 助けてしんぜようぞ」 「どうれ、我らのこの自慢の槍でぶすりと一突きじゃ」 「おらぁ刀でばっさりやってやろうではないか!」 「「ご勘弁を、どうか、ご勘弁を……」」 あちらはどうだ。 古びた武術道場! 汚い身なりの悪漢どもが徒党を組んで、道場主と思しき男を袋叩きにしている! 「おっとう~! もう、もうやめてけれぇ!」 「うるせえ餓鬼だ、引っ込んでろ!」 悪辣……! 幼い少女の襟首が掴み上げられる! いまや高内の領土はどこもかしこもこうだ。 往来を肩で風切り歩くは悪党ども。 路傍の石も涙で濡れて渇きゃしない。 浪人は皆々高楊枝で大威張、盗人どもはお天道様すら憚らんと来ている。 救いはないのか。 光明はないのか! ……否! 見よ。 街のど真ん中、通りに生まれた幾つもの光を見よ。 あれが救いだ。 あれが乱麻を断つ快刀だ! 世界を越えて来たる者、化生を猟する不思議の者ら! 天地よ人よ刮目せよ。 突如として虚空から現れた謎の女に、男どもは呆気にとられた。 びょう、と一陣風が吹く。 尖り耳の女は、目を輝かせながら顔を上げる。 「てめえ、何者だぁ!」 いままさに、おぼこい町娘を手篭めにせんとしていた悪党が吼えた。 女はその悪辣な所業に眦を決し、凛とよく通る声でこう名乗る。 男達の雰囲気が一瞬にして変質する。 そして町娘を突き飛ばした男が、胸元から一枚の御免状を取り出した。 「儂らは天下御免の武侠様だぜぇ? それに流派を名乗るってこたぁ……」 「わかっていますとも!」 大音声! 悪漢はその意気に思わず息を呑みたじろぐ! 「これ以上の狼藉、たとえ殿様が許そうともこの私が許しません。 さあ、退くなら今ですよ。 愛用の夜槍を華麗に振るう。 「ああなってしまいますからね! いいですか!?」 「お、おう……!?」 微妙に具体性に欠ける脅しに、悪漢はちょっとだけ我を取り戻した。 そして織愛の全身を頭からつま先まで眺め、下卑た笑みで舌なめずりする! 「けけけ。 いいじゃあねえか、"神無池波流"が免許皆伝の儂が相手をしてやるぜ!」 無論、ありもしない流派である。 悪漢は鎖鎌を構え呵呵と哄笑した! 「退く気はなしですか。 しからばいざ、尋常に!!」 その時、御免状が不気味に輝き、悪漢を赤黒いオーラが包む。 そして織愛を青紫色のオーラが包み込む。 四肢がわずかに重くなる違和感! (これが呪い……でもこの程度なら戦えます!) 「勝負だァ! キーヒヒヒヒヒィ!!」 卑劣! 先の先を打ったとばかりの不意打ちである! 悪漢は鎖分銅を抛ち、織愛の腕から槍を絡め取らんとする! 下手に踏みとどまれば敵の接近を許し、槍を奪われれば無手となる。 そこに鎌で斬りかかるという二段構えの攻撃だ。 「これぞ池波流殺法、縛り大鎌よォーッ!!」 「……っ!」 だが悪漢は知らなかった。 織愛という女の真髄を。 彼女は縛られた槍ごと、満身の力を込めてぐいと鎖を引く。 自分とさして変わらぬ体躯の少女が、おお、悪漢を……一撃誅伐である! 「……ああ! 名乗りに立ち合い、そして必殺技……! いいですね、すごくいいです! ね、そう思いませんか!?」 「へえっ? あ、ああ、えっと」 嬉しそうに飛び跳ねる織愛に、町娘はぽかんと頷くばかりであったという。 【POW】 こういうノリは嫌いではないよ。 そうだね…… 「北斗派総帥とでも名乗っておこうか」 「北斗は死を司る神。 北斗派の技は敵に必ず死を齎す。 死の運命からは何人も逃れることは出来ないよ」 絶技『降神十八掌』(でっちあげ)でお相手しよう。 《シドンの栄華》、『破壊の魔力』(内功)を込めた十八種類の掌打で戦います。 それを取り囲むのは、各々一山いくらの刀を佩いた浪人崩れである。 「……誰だ!!」 まさに老婆を槍衾にしようとしたその時。 悪漢が鋭く誰何した! はたして土埃舞う通りを、まるで散歩のように悠々歩く長駆がひとつ。 「ほう、これはなかなか。 いかにも"らしい"相手だな」 金眼の男はそうひとりごちると、楽しげにゆるく笑んだ。 悪党どもは片眉を釣り上げる。 男の余裕綽々が鼻についたらしい。 「手前ェ……我らが何者か知っての無礼か?」 「残念だが知らないな。 ご紹介いただいても?」 「この野郎!!」 青筋を立てて勇みかけた槍男を制し、頭目と思しき男が歩みだす。 にこり。 一見すると紳士めいた穏やかな笑みを浮かべるが、纏う気配は鋭い。 「同門が失礼し申した。 いずれも御免状をこれ見よがしに取り出しにやついていた。 槍が一、刀が三。 頭目らしき男は徒手空拳だが苛烈な殺気を放つ。 「無礼は承知ながら、其処許の名をお聞きしても?」 男はふっと笑う。 そして思案ののちにこう言った。 するとその隣の青瓢箪めいた男がくふふと笑った。 「北斗星君と言えば、死を司る神にあらせられまするな」 「いかにも。 北斗派の技は敵に必ず死を齎す。 誰一人例外なく」 ……どろりと、周囲の空気が濁った。 窮地を救われた老婆と息子はしかし、震えながら見守る他にない。 「我らは御免状持ちにござりまするぞ。 「"そんなものは関係ない"。 君達はもはや、死の運命からは逃れられんよ」 「「「…………!!」」」 五人組が凄む。 御免状の呪いが互いを強めあるいは弱めた! だがシーザーの表情は変わらず。 八つ裂きにしてはらわたを路端に広げてやれぃ!!」 「「「「ウオオオオーッ!!」」」」 四人が一気に迫る! 意外や意外、統率の取れた同時攻撃だ! 一の槍を避ければ残る三の刀が、飛ぼうが這おうが頸を断つ構えか! 「「「「これぞ卍組が秘剣、卍血衾斬りよぉーっ!!」」」」 シーザーは微笑みながら腰を落とし、それらしく身構えた。 内気功めいて高められた、破壊の魔力を撃ち込む強烈な掌打! 四人組はどさどさと地面に倒れる。 シーザーは残る頭目を見やり、 くいくいと指で手招き挑発してみせた。 「絶技『降神十八掌』。 どうだね? それらしいだろう?」 「て、てめえ、ふざけ……が、はっ!?」 おお、いかなる不思議の技か? 悪漢どもの顔が、肉体が……! 「「「ぶぎょらっ!!」」」 膨れ上がりある者は折れ曲がり、奇怪な断末魔と共に……おお、おお! 「ふ……くっくく。 いやこれはなかなか……ふ、ふふ!」 シーザーはこらえきれず噴き出しつつ、呆然とする親子へ歩み寄る。 「ご無事かね? もう安心だ。 今日のうちに悪党どもは皆、この街から姿を消すだろう」 この男、割とノリがいい。 颯爽と歩み寄る背中は、まさに英雄好漢そのものである! 悪党ども、そこまででです! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい。 蒸気の力を込めたこの鞘から放つ刃はまさにジェット噴射の如し。 流派、ジェット居合流伝承者、館・美咲、ここに見参ですよ! と高らかに名乗りを上げて、正面から悪党どもを切り伏せましょう。 これもジェット居合流の名を広めるため、門下生を増やすため。 実際に強くなっているかは食らった相手のみぞしる。 そして道場主と思しき中年の男は、噫! 取り囲まれ袋叩きにされている! 「おとう~! おっとう~!」 涙ながらに父を呼ぶ幼き少女。 身の丈七尺半はあろう巨漢が掴み上げる! 「うるせえ餓鬼だ、てめえからぶっ殺してやろうか!」 「や、やめろ……うちの娘に、手ぇ出すんじゃねえ……!!」 「けっ、老いぼれは黙ってな!!」 ずん! と踏みつけられ、師範は血を一塊吐いてしまう。 なんという所業か。 いかな神仏もこの悪行を見逃すといいたもうか!! 「そこまでです!!」 だが神も仏もなくとも、ここには猟兵という者がいる。 黒髪をたなびかせ屹然と悪党どもを睨みつけるは、異国情緒の装い纏う女ひとり。 「ハ! 誰かと思えば女かよ。 なんだ、俺らに可愛がられてえのかあ?」 巨漢がニタニタと言えば、手下と思しき悪党どもがげらげらと笑う。 だが黒髪の女はそんな挑発も意に介さず、不敵に胸を張るではないか。 「ただの女ではありませんよ! あなた達を成敗する者なのですから!」 男どもは女の言葉を鼻で笑う。 巨漢はこれみよがしに御免状を突き出した。 呪いの気配! ただでさえ巨大な体躯の威圧感がさらに増す……! 「どうだ、恐れろ! こいつぁ大名様直々の武侠御免状よぉ。 それとも本気で挑むてか? この無敵無双流の鶴清(かくせい)様に!!」 「その通りですよ。 さあ皆さん、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」 大仰に両手を広げ、女は威風堂々と自らを名乗る! 「蒸気の力込もりしこの鞘より、放つ刃はジェット噴射の如くなり!」 愛用のサムライブレイドを手に、朗々響く言の葉気合十分! 「ジェット居合流伝承者、館・美咲! ここに見参ですよ!!」 ぺたん、と地面に尻餅をついた幼子も、涙を止めてきょとんとするばかり。 だが面白くないのは悪党ども! 鶴清はビキビキと青筋を立てて歯を剥いた! 「小娘がァ……!! いきがりやがって!!」 「どうしました? その小娘と立ち合うのはお嫌ですか!」 「くだらねえ! おうてめえら、やっちまえ!!」 「「「ヒヒヒーッ!!」」」 段平を提げた一山いくらの悪党どもが、美咲めがけて襲いかかる。 女一人に徒党を組んで、何が武侠か片腹痛し! 卑劣千万この上ない! ……しかし! 美咲に些かの恐れなし。 その場にいる全ての者が、そこ"まで"は目視できた。 だが直後! 女の姿は悪漢どものはるか後方にあるではないか! まるでその後を引くかのごとく、入道雲めいた蒸気一筋吹き荒ぶ。 美咲の利き手には、白白と輝く刃ひとつ。 「「「ぐわああああっ!?」」」 直後! 迅風一閃、十は居ようという徒党がまるごと吹き飛んだ! ごしゅう! 機構鞘が思い出したかのように蒸気を噴出する! 「ふっ、今日も冴えてますね、私の剣!」 「お、おねえたん、あぶないっ!」 幼子の悲鳴! 然り、美咲を背後から襲わんとする鶴清だ! 奴は猿(ましら)じみた雄叫びとともに、岩をも砕くであろう膂力を込めて拳を振り上げる。 無敵無双流など駄法螺もいいところ、所詮は力自慢の木偶の坊か。 ごしゅう、と蒸気が噴出する。 まるで舞踏を刻むかのように、軽やかな足取りで踵を返す。 緩やかに見えてしかし疾く。 清々しいまでの一太刀であった。 おのが噴き上げた蒸気をも断ち切る、音をも超えし神速抜刀。 切り裂かれ払われし蒸気は、さながら朝露と消える濃霧の如し。 ゆえにこの剣、その技、銘をこう呼ぶ。 血漿ひとつ刃紋を汚さぬ凄絶な居合。 そして蒸気は消えていく。 「ほう……」 暗黒めいた広間に佇む長身痩躯、笑みは張り付く仮面の如し。 いかにもこれこそが、いまや領内を悪漢匪賊の住処に変えた外道の首魁。 "笑う厭魅師"。 「これはこれは。 我らの天敵がいらっしゃるとは」 遠見の呪術によって転移を嗅ぎつけた厭魅師は、楽しげに呟いた。 時期尚早の襲来ではある。 だが早晩、誰某が忍び込むであろうと予期していたゆえに。 「さて、噂の猟兵、その力はいかばかりか……まずは見物いたしましょう」 闇の中に禍々しい気配が立ち込める。 「悪鬼羅刹流の中でも、血を奪う事に特化した一派【致死舞曲】の技、存分に味わうと良いよ。 」 適当な流派を名乗って、妙な威圧感を出しつつ悪党たちの前に出ようかな。 …ノリと勢いで言ってみたけど、意外と楽しいねぇ。 若干悪役っぽいけど。 悪党たちは複製した大鎌で峰打ちでもしてボコっとこう。 「ちなみに悪鬼羅刹流には他にも【毒伊吹】とか【霧殺界】があります。 須藤・莉亜がやってきた通りには、まさにそういうあからさまな連中がたむろしていた。 「うわあ、よくもまあここまで絵に描いたような連中集めたもんだねえ」 「あぁ? てめえ何様のつもりだ!!」 飯屋で威張り散らして酒をゆすろうとしていた悪党どもが、 気怠げな莉亜の物言いに青筋を立ててガンをつける。 「何様のつもりでもないよー、それよか君達アレ持ってるんでしょ?」 「こいつ……わかってて喧嘩売ってるってのか」 殺気立った悪党ども、手に手に取り出したるは呪いの御免状。 だがもとより呪詛に慣れた莉亜、大して驚くふうもなく大鎌を担げば、 「悪鬼羅刹流の中でも、吸血に特化した一派"致死舞曲"の技。 存分に味わうといいよ」 と適当な流派を名乗り、表情を変えぬまま妙な威圧感を醸し出してみせる。 この男、飄々とした外見に似合わずなかなかの益荒男である。 裡に秘めた闘争本能はかくたるもの、さながら猛獣がごろごろ唸ったかの如く、 悪党どもは目に見えぬ異様な気配に震え上がってしまった! 「……これ、ノリと勢いで言ってみたけど、意外と楽しいなあ」 「ぶ、ぶつぶつ独り言してんじゃねえっ!!」 ゴカッ!! 迂闊に飛び出した悪漢一人目の鳩尾に、大鎌の石突が突き刺さる! 「なあっ! い、いつのまに!?」 「しかも、おい! 見ろよ、あ、あれ!」 悪党どもは震えた。 なにせ莉亜の周囲には、三十以上の不気味な大鎌が死霊めいて浮かんでいるのだ! 「若干悪役っぽい気がするけど~」 呑気な様子と裏腹に、莉亜の口元に三日月めいた不気味な笑み……! 「かかっておいでよ。 御免状持ちの武侠様なんでしょ?」 「「「な、嘗めやがってぇええええ!!」」」 段平に手斧にいかにも雑魚らしい得物を手に悪党どもが襲いかかる! ……が、そんな一山いくらの連中が敵うはずもなく。 丁寧な峰打ちにより、六人目の悪党が白目を剥いて顔から倒れた。 「ひいいっ!!」 「ちなみに、悪鬼羅刹流には他にもいろいろ技があるんだけど……味わってみる?」 一人残った七人目、鼻水を垂らしてへたり込みぶんぶんと首を横に振る。 完全に心が折れているようだ。 莉亜は少し残念そうに唇を尖らせつつ、 荒らされた飯屋に首を突っ込みにへらと笑った。 「あ、せっかくだしお酒一献もらっていい? お金はちゃんと払うよぉ」 はたしてどちらが本性なのか、掴みどころのない男である。 すさまじいエグゾースト爆音だ。 「なんだなんだどこのちんどん屋だぁ!?」 「わたしです!!!!!!!!!」 エグゾースト音のほうがまだマシという大音声が応えた。 そして戦国バイク(彼女自身は馬だと思っている)シュバルト丸に跨がる者こそ、 雄々しき人狼騎士リゼリナ・ファルゼナだ! すでにおわかりだがアホである! 「天が呼ぶ地が呼ぶ紅湖が呼ぶ、それが」 「なんだこの乗り物マジでうるせえな!」 「耳が壊れそうだ!!」 「あの女はもっとうるせえ!!」 「正義の騎士リゼリナ参上!!!!! です!!!!」 「「「うるせえ!!!!!!」」」 ドルドルドルドル。 エンジン音が大きすぎて悪党どもの声もリゼリナにはよく聞こえない。 「そこの悪いことしてるあなたがた!!!!! 目が合いましたね!!!!! 名乗りなさい!!!!!」 「「「そのうるさいの止めろよ!!」」」 「このリゼリナと黒剣シナナイがその性根を叩き切ってやりましょう!!!!!」 「「「だからまずそのうるさいの止めろって!!」」」 「えっ!?!? なんですって!?!?!?!? 聞こえません!!!」 「「「その!! うるさいの!!! 止めろって!!!!」」」 ウォオオンウォオン。 ドルドルドルドル!!(エグゾースト音) 「もっと大きい声で!!!!」 「「「だから!! そのうるさいのを!!! 止め」」」 「もっと!! 大きな!!!!! 声で!!!!!! ウオオオオーーーー!!!!!!!」 「「「グワーーーーーーーーーッ!?!?!?!?」」」 ナムアミダブツ! リゼリナの人狼咆哮が炸裂だ! 会話からのよどみなきアンブッシュ、正直正道を名乗る騎士としてはどうなのか! だが待ってほしい、リゼリナにはそもそもユーベルコードを使った自覚すらない。 「……はっ!!!!!」 耳からたらーんと血を流して倒れている悪党の皆さん。 無辜の民の皆さん? その前に気絶したので問題なかったようだ。 「自ら改心して倒れるとは……敵ながらあっぱれ!! ですね!!!!!」 誰かこの暴走騎士を止めたほうがいいのではないだろうか。 バイクもろとも。 たとえばあそこだ。 町民の憩いの場である井戸端へ群がる野盗ども! 「おうおう、水が使いたきゃ俺らに許しを得な!」 「そんな……娘が熱を出しているのです、どうかお許しを」 薄幸そうな女が平伏すれば、やつれた男どもは下卑た笑みを浮かべる。 その視線の意味を悟り、若き母はぎゅっと目を瞑った。 なんたることか……! 「ったく、ろくでもねえことしてやがんなあ」 「「「誰だっ!?」」」 殺気立つ悪党どもを前にして、飄々とした面持ちの男が一人! 優男は不敵な笑みで片眉を吊り上げると、自らをこう名乗る。 「黒鳥流師範、セリオス・アリス……ってとこか? ま、我流だからな」 「聞いたこともねえぜ、田舎の三下流派じゃねえのかあ?」 「色男さんよぉ、俺たちゃこれからお楽しみなんだ! 帰(けえ)んな!」 徒党を組んで気の大きくなった悪党どもはげらげらと笑う。 そしてこれみよがしに御免状を見せつけるというわけだ。 「ハ! そりゃこっちの台詞だぜ?」 「何ィ……?」 「ま、井戸端と来りゃあ死に水を取るには最適だろうけどよ。 朗々たる煽り言葉に、余裕綽々でいた悪党どもが再び殺気立った。 だがセリオスには些かの恐れもなし。 むしろちょいちょいと指で挑発してみせる! 「てめぇ、くたばりやがれぇ!!」 御免状が禍々しく輝きセリオスを呪う。 「……あ?」 「なんだ、見えなかったのか?」 己が斬られたことすら察知出来なかった悪党は、呆けた面のままどさりと倒れる。 そして見よ! 振り抜いた剣から生まれる蒼き炎を。 悪党どもがなまくら刀を振るうより速く、ぐるりと回転飛翔し敵を薙ぎ払う! 「「「ぐわぁーっ!!」」」 「こ、この野郎! 嘗めんじゃねえぞ!!」 一山いくらの三下どもが吹き飛べば、頭目らしき男が血色ばんだ。 「へえ、お前は少しは腕に覚えがありそうだな」 「一刀流の村丸様だ! つかてめえ……鳥、黒くねーじゃねーか!!」 ごもっともな指摘である。 「あ? あー……まあ、アレだ。 お前が燃えて黒い炭になる、っつーか」 「どこまでもふざけやがってぇ!!」 疾い。 さすがは悪党どもをひとまとめにするだけはあるか。 だがセリオスの踏み込みはなお疾い! 気がつけば間合いの内側だ! 「何っ!?」 「おらよっと!」 がぎん! 打刀と青星が撃ち合う。 敵の一に対しセリオスの撃剣は二! 蹈鞴を踏みながらも留まった村丸が、全力を込めた袈裟懸けを繰り出した! 「死ねぇ!!」 「おっと」 がぎんっ!! セリオスも感心するほどの重い一撃である。 セリオスが引いた!? 「な」 拍子を崩された村丸は体幹を崩す。 その時青年は舞踏めいて一回転。 そして青星で打刀を払って守りを剥がすと、がら空きの鳩尾に左拳を叩き込む! バチバチバチ! とすさまじい雷撃が村丸の全身をつんざいた! 「げえええっ!」 「こいつはお釣りだ、とっときな!」 ざんっ! とどめの剣閃一条、その軌跡もまた蒼碧なり。 「ち、畜生、卑怯だぞ……」 ビクビクと稲妻の魔力に痙攣する村丸が、恨めしげに呻いた。 セリオスは悪びれもせず、刃を肩に担ぐとニヒルな笑みを浮かべて応える。 「おいおい、剣だけって誰が言った? 最近の流行りってのはなぁ」 ばちばちと雷の残滓を纏う拳を掲げれば、そこへ星の鳥が舞い降りる。 「剣も拳も魔術も、全部載せた強くてかっこいい流派なんだぜ?」 この伊達男、いかにも強者なり。 己らがいかに井の中の蛙だったかを悟り、悪党どもはぐたりと倒れるのだった! やれやれ、けったいな免状もあったもんじゃ。 我流、されどこの身は剣に秀でる烏天狗の加護を預かりし退魔の霊刀。 名などお前らにくれてやるつもりはない。 この身退魔の刃、ヒトを斬るものにあらず。 魔性の者でないのなら用はない。 俺を鞘に納めたまま、静かに、疾く、鞘や柄で昏倒させていく。 なにが楽しくて名乗りやら正面勝負やらをするものか。 俺は侍でも、ましてや武芸者でもない。 ただの、刀よ。 通りをそぞろ歩いていた士(さむらい)が、ふと足を止めた。 昼時である。 常ならば往来には多くの町人や働き手が行き交って、 さぞかし活気ある風情を描いていよう。 だがいまは無人の如く静まっている。 「やれやれ、けったいな免状もあったもんじゃ」 嘆息し頭を振る。 見れば通りの向こうから、男が数人やってくるではないか。 流浪の剣客めいた士と異なり、彼方の奴らはいかにもな風体である。 すなわち帯を着崩しだらしなく髷を解き、口元には卑賤な笑み。 ぎんぎらとした煙管やら大切羽やらを見せつけるあたり、趣味が悪い。 士を閉口させたのは、連中が懐から御免状をちらつかせているところであろう。 「あぁん……? なんだぁてめえ、ここらじゃ見ねえ面だな」 「この通りは辺り一面、俺らの縄張りって知らねえのかあ?」 にたにたと笑う浪人崩れが威張り散らす。 士は無言。 「けっけ、ビビって声も出ねえときたか!」 「おいおい、よせ野郎ども。 無知は悪いことじゃねえよ」 恰幅のいい親分らしき男が、手下どもをニヤニヤしながらたしなめる。 「いやいや親分、まさかあっしら紅湖五名刃を知らねえ奴がいるはずがねえや!」 げらげらと笑う悪党ども、いやさ紅湖五名刃! 無論それはでっちあげだろう。 斯様に士道も心得ぬ悪漢どもには、大仰に過ぎた二つ名である。 「ほう」 その時、士が口を開いた。 「三下どもを然様に有難がるとは、変わった風習もあるもんじゃ」 ぴきり、と周囲の空気が張り詰めた。 「……てめえ、今なんつった?」 士、含み笑いをひとつ。 「いや失敬、三一(さんぴん)侍とでも言ってやったほうがよかったかのう」 「この野郎……!!」 血気盛んな手下が一人、その言葉に苛立ち剣を抜き士を斬って捨てた! 「あ?」 だがそこで男は気づいた。 いやに手先が軽いことに。 ……鍔から先、太刀がへし折れているではないか! 「げええっ!?」 「て、てめえ何をした!?」 悪党どもは慌てて飛び退き、各々鞘走って身構える。 士、再び嘆息。 鞘は握れどその手は決して柄に運ばれず。 士は抜刀すらせずに柄尻で刀身を叩き折ったのだ! 「何者だ、こいつ!?」 「名を名乗りやがれ!!」 士はぎらりと悪党どもを睨めつけた。 「名などお前らにくれてやるつもりはない。 所詮は我流の身なれば」 実はこの士、人に非ず。 古くは烏天狗の加護賜りしと謳われる、退魔の霊刀の化身である。 どうしても名が必要な時のみ、この無愛想な刀はこう名乗る。 "無銘・飯綱丸"。 いかにも士らしい無骨で不器用な名と言えよう。 「お前達、免状は与えられどヒトの身は外れておらぬと見えるな」 退魔の霊力を宿した浄眼が、ヒトの本質を容易く見抜く。 呪いの顎が触手めいて士を絡め取らんとするも……さもありなん。 赤黒い波動は、男の裡より溢れる破魔の気配に鎧袖一触なり。 「き、気取ってんじゃあねえ!!」 親分らしき男が吼えた。 それを合図に四人が一斉に斬りかかる! 士、やはり抜刀せず。 腰元から鞘ごと刀を引き抜き、柄尻や鞘でもって敵を打つ。 剣が来ればこれを弾きあるいは砕き、首筋や鳩尾に重い一撃を加えて昏倒させるのだ。 瞬き一つの間に、あっという間に徒党は白目を剥いて倒れ伏していた。 「……まったく、何が楽しくて名乗りやら勝負やらをするのか」 士は頭を振った。 なぜならその身、侍にも武芸者にもあらぬただの刀なりと。 そして再び通りをしめやかに過ぎていく。 恐れ慄きながらも一部始終を目の当たりにしていた街の人々。 戸口の隙間から食い入るように男の背中を見送った幼子が、呆然とする両親に言う。 「すごいや、おさむらい様だ! 本物のおさむらい様だよ!」 悪漢どもを見逃さず、無用な殺生すらも控えて風の向くまま去っていく。 その背中、まことの士と呼ばずにどう呼ぼうか。 どっちを向いてもヒーロー不在!だったら俺がやらなきゃ誰がやるってんだ! [SPD] どこもかしこも悪党だらけ、1人ずつ相手してたんじゃきりがないぜ。 走り回って連中を原っぱに集めてまとめて決闘だ。 お前はどこのどいつだって? 誰が呼んだか、愛と勇気と熱い鼓動流のテイクとでも名乗っておくぜ。 俺の獲物はこのレンチかって?違う違う、今から見せてやるよ。 幸い街を駆け回ってる間に材料は十分集まったしな。 正々堂々真正面からUC即席爆弾で勝負だ。 そして悪あるところ苦しめられる人々がいる。 であればヒーローにも出番がある! 「ってなわけで……さあ、これだけ集めりゃ十分だろ!」 街から離れただだっ広い原っぱに、少年ひとり。 するとあちらから来るわ来るわ、うだつの上がらぬ悪党どもの群れ! 「が、ガキぃ! ちょこまか逃げ回りやがって!」 「ぜえ、ぜえ……ようやく追い詰めたぞ!」 「こんなとこまで来させやがって……!」 どいつもこいつも息を切らせて、口々に少年を罵る。 少年は挑発や不意打ちで悪党どもの気を引き、走り回りながらここまで逃げてきたのだ。 いや、逃げてきたというのは正しくないだろう。 「ふさわしい場にご招待したって言ってくれよ。 決闘てのはこういうとこが定番だろ!」 「決闘だとぉ……?」 「こいつ、よほどの命知らずらしいな」 「どこのどいつだ、名を名乗れ!」 数十人近い悪党を前にして、少年は少しの恐怖も見せはしない。 問われればむしろ胸を張って、こう名乗ってみせる。 「誰が呼んだか、愛と勇気と熱い鼓動流のテイク・ミハイヤー、なあんてな。 ……ちょっと長すぎるかな? ま、大した問題じゃないだろ!」 草原に風が吹き、テイクの赤いマフラーをたなびかせる。 悪党どもの目線は、彼が肩に担いだ動力機つきのモンキーレンチに集まっている、が! 「おっと、早とちりするなよ? 俺の得物はこいつじゃないぜ!」 "スチームモンキー"と名付けたチープウェポンを槍のように地面に突き刺し、 テイクがポケットから取り出したのは……はてな、ガラクタばかりだ。 割れた陶器片やら炭の欠片やら、これで何をしようというのだろう? 「ケッ、大口を叩きやがって! もうハッタリにゃ騙されねえぞ」 「こっちは数がいるんだ、逃げ回ったてめえの判断を恨むんだな」 「おい、やっちまおうぜ! 囲め囲め!」 ザザザザザ、と悪党どもがあっという間にテイクを取り囲む! そこで奴らは気づいた。 包囲網を敷く僅かな隙に、テイクがなにやら妙な物体をこしらえていたことを。 「おーおー、らしいことしてくれるじゃんか。 こっちは正々堂々真正面から行くぜ!」 ぽーい。 ガラクタの塊にしか見えない球状物体が……着弾、爆発!? 「「「グワーッ!?」」」 KA-BOOOOM!! 爆裂とともに陶器片が散らばり大ダメージだ! 「なんだこりゃあ!?」 「おっと、お決まりのアレを忘れてたぜ。 "いいわね? 行くわよ!"なあんてな!」 SWOOOOOSH……KA-BOOOOOOM!! 「「「ぎゃああああっ!!」」」 「くそっ、やっちまえ! 殺せぇー!!」 「そうは行くかよ、まとめてドカンだっ!」 BOOM! BOOM!! KA-BOOOM!! こんな開けた場所では遮蔽物に隠れることも、逃れることも出来はしない。 テイクは逃げていたのではない。 誰かを巻き込む心配がないフィールドで、悪党どもを思うがままに吹っ飛ばす状況をセッティングしただけなのだ! 鬨の声は、あっという間に情けない悲鳴と断末魔に変わってしまったのである。 流派を名乗って堂々と闘うとは、これほどオレに向いた依頼もねえ 実戦経験と流派の武名の為にも、悪党悪漢叩っ斬って行かなきゃな というわけでごり押しで解決のみだ。 そうでなくとも力を嵩に狼藉ばかりの奴らなんて風流さのかけらもねえし見過ごせねえ。 出来うる限りぶった切る。 ユーベルコードは春風だ。 徒党を組んだ野郎共に、風流ってのを教えてやらなきゃな、文字通り。 一切合切横薙ぎだ。 あと何はともかく武名を上げねば。 逐一流派の名前はアピールするぞ。 参らせてもらう。 突然ふらりと現れた男の声に、鋭い視線がいくつも応えた。 エルフの青年がやってきたのは、町外れにあるボロ屋敷である。 かつては郷士の立派な住まいであったであろうに、今や見る影もなく、 御免状を笠に着た悪党どものねぐらと化している始末。 しかもどうやらここに屯するのは、もともと徒党を組んだ賊の群れであるらしい。 「なんだぁ? ここはてめえみたいな優男が来るとこじゃあねえぜ」 「酒が欲しけりゃよそへ行きな、もっともここらの酒はみぃんな俺らが頂いてるけどな!」 げらげらげら。 略奪を隠しも悪びれもしないとは、悪漢ここに極まれり! そんな野盗どもの嘲りにも目くじら一つ立てず、青年は肩を竦めた。 「力を笠に着て狼藉三昧、挙句に弱えモン同士でお山の大将気取りかい。 ああ、やだやだ。 これだから風流の欠片も知らねえドサンピンどもはよ」 「んだとこらぁ!!」 歯に衣着せぬ物言いがよほど癪に障ったか。 野盗どもは額に青筋を浮かべ、ガシャガシャと剣呑な武器を手に取る。 あっという間に入り口を塞いで青年を取り囲み、じわじわとにじり寄るのだ。 「俺達"空羅党(くうらとう)"に嘗めた口聞いてくれるじゃねえか、ええ?」 「あん? なんだって? "ぼんくら党"?」 これみよがしに耳に手をやって、聞き間違えたふりをしてみせる。 「「「げぇえっ!?」」」 「なっ!?」 身構えていた後続は、己らの真横を砲弾めいて吹っ飛んだ仲間の姿に唖然! 一瞬である。 青年はすでに抜刀していた。 そして刀身が異様なのだ! まるで鞭めいてしなっていたそれは、しゅるしゅると音を立てて元の太刀へ。 薄い笑みすら浮かべながら、青年がじろりと悪党どもを睥睨する。 「いきなりご挨拶をくれるじゃあねえか。 もう終わりかい?」 「て、てめえ……な、何者だ!?」 ふっ、と微笑んだ青年が身構えれば、どこからともなく一陣の風。 「春夏秋冬(ひととせ)流、アロンソ・ピノだ。 悪漢どもに風流を教えに来てやったぜ。 さあ、かかってきな。 免状もろとも、一切合切オレが横薙ぎにしてやらぁあよ!」 「か……かまうこたあねえ、やっちまえ! 殺せ!!」 「「「うおおおおおお!!」」」 アロンソはニヤリと笑う。 そして再びの斬撃一閃! 瞬間、伝家の宝刀"瞬化襲刀"がしゃらりと伸びてしなり、悪党六人をばっさりと薙ぎ払う! 「「「ぐえええ!!」」」 「春夏秋冬流・春の型壱の太刀……春風。 春一番ってやつだ、避けてみなぁ!」 春一番などとはとんでもない、悪党を薙ぎ叩き斬る様はまさに颶風なり! かくして破れ屋敷の野盗どもを相手に、アロンソの大立ち回りが始まった。 「オレの流派は春夏秋冬流だぁ、地獄に行っても忘れんじゃねえぞぉ!」 風に乗って響く大音声に、外の悪党どもすら震え上がったことだろう! ……ふっ、常ならば君達のようなこざいくだよりの武侠くずれに名乗る名等は無いのだが……そうは行かないようだ。 然らば、そうだね。 これがどういうことか解るか? 僕は得物を持たないのでなく、持つ必要がないのさ。 得物の元は君達が用意してくれるし……なんなら、石礫一つあれば良い。 無形無尽流、幽薄紡糸。 ……なんて。 ね 多対一は慣れてるのでね【ロープワーク】【敵を盾にする】【地形の利用】+無形無尽流の弦術で裁いていこう。 そしてこの手の輩が好むことと言えば、酒に博打に女と相場が決まっている。 「よぉ~お嬢ちゃん、見ない面だなぁ? んん?」 そんなわけで銀髪の少女は、今まさに悪漢数人に囲まれていた。 着物をだらしなく崩した連中は、御免状を懐からちら見せしているものの、 間違いなく犯罪者上がりの無法者どもだろう。 武芸者ですらないのだ。 「俺っちの好みにゃちと歳が足りねえが、何、これも乙なもんよ」 「へ、へ、へ! そこがいいんだよそこがぁ」 下賤! 本人を前にして斯様な会話を控えもしないとはなんたる下劣さか! だが色白の少女は瞑目したまま、男どもの言葉を無視して歩き出そうとした。 「あ、が、お、俺の手が!? ああああ!?」 まるで鋭利な刃物で斬ったかのように、手首から先が切断されているのだ! 「こ、こいつ!? 妖術師か!?」 残る悪党どもがざざざっ! と後退って段平を構えれば、ようやく少女は眼を開いた。 虚のごとき黒い瞳に睨みつけられ、男達は金縛りに遭ったかのようになってしまう。 「常ならば、君達のような小細工頼りの連中に名乗る名など無いのだが」 しゅるしゅると音を立て、"何か"が少女の手に撚り集まる。 「これ以上は荷が勝つか。 尋常ならざる気配が張り詰めているゆえに。 まるでそれは、路辻を彷徨う恐ろしい亡霊と相対してしまったかのよう。 「無形無尽流"弦"術師、在連寺・十未。 細められた十未の眦に、あざ笑う気配。 「幻に見えるかい? あいにくだが違う。 僕の得物は鋼糸。 目に見えないほど細いが、ね」 「ほざけこのガキぃ!!」 二人目。 裂帛の気合とともに、振り上げた刀を兜割りめいて叩き下ろす。 十未は避けも防ぎもせず、ついと指先を伸ばして、降り来たる刃に触れた。 するとどうだ。 刀はひとりでにしゅるしゅると"解け"、そして消えてしまった。 否、消えたのではない。 すべては十未の言葉通りである。 「や、刃が消えてなくなっちまった!?」 柄から先が失せた剣を放り捨て、悪党が蹈鞴を踏む。 きらりと光の筋が煌めいたかと見えた瞬間、悪党の体はバラバラに四散する。 「ひいっ!!」 「い、糸だと!? どこから出しやがった!」 「見てたならわからないのかな? "変えた"んだよ」 ひゅるるる。 十未の掌の上に、喪われたはずの刀身"だけ"が現れた。 正しくは糸に変じていたそれが撚り集まったのである。 そして一流の糸使いである十未にかかれば、糸は見えない殺意の雨にも壁にもなる。 「僕は得物を持たないのではなく、持つ必要がないのさ。 ところでさっきは、なにやら僕を相手にあれこれ口走っていたようだけれど」 「「「う、うおおおおおーっ!!」」」 この時点で、生き残った連中はさっさと逃げるべきであった。 十未は表情を変えぬまま、最初に飛び込んだ一人を盾として糸を展開、攻撃を捌いて受け流し、淡々と片をつけていく。 「……適当に名付けてみたけど、こういうのも楽しいな」 歩み去る十未の足元で、御免状がバラバラに切り裂かれた。 風が吹き、紙片をさらっていく。 「ほう」 剣客は吐息を漏らす。 その口元は残忍な笑みを浮かべていた。 時間はやや巻き戻る。 「……って感じでいこうと思うんだけど、どうかな?」 長台詞を終え、オルハ・オランシュは得意げに笑った。 彼女の考えた"最高にかっこいい流派"の設定である。 「準備がいいに越したことはないのですが、流派の開祖まで設定する必要はあったんでしょうか」 対するヨハン・グレインは相変わらずの無表情で首を傾げる。 「いいのいいの、こういうのは細かいとこまで考えるのが大事なんだよ!」 「はあ」 「それに、あれまだ省略したほうだしね」 「完全に考えるのが楽しくなってるやつじゃないですか……」 ヨハンは呆れた。 オルハはいつもこうなのだ。 「とにかく! ちゃんと合わせてねヨハン、解説は任せたからね!」 「まあ、作戦は了解しました、やってやりましょう」 といったところで二人は石段を登りきり、荒れ寺へやってきた次第である。 そして時間軸は元に戻る。 (……なるほど、あれは) ヨハンをして中々の腕前と分かる、鋭い殺気。 そしてあの笑み。 いかに御免状があろうと猟兵と常人とでは差があれど、気を抜けば危ういか。 しかしオルハはヨハンの方をちらりと見ると、胸を張って一歩前に出た。 「其処許、儂の免状目当てで参ったか」 時代がかった口調で剣客が言えば、オルハは三叉矛を身構える。 「うん……じゃなくて! いかにも、その通りである!」 (微妙に素が隠しきれてないんですが大丈夫でしょうかね) 若干不安そうなヨハン。 剣客は大して気にした風もなく誰何する。 「神無双松前流・天全。 其処許も名乗るがよい」 二人は顔を見合わせ、こくりと頷いた。 オルハは朗々と名乗りを上げる! 「緒蘭朱(おらんしゅ)流槍術士、折葉! 推して参るんだ……じゃない、参る!」 そして飛び込んだ。 剣客はすでに柄に手を置いている! だがオルハの初動が先の先を得た。 小手調べの薙ぎ払いが大気を切り裂く! 「ほう!」 剣客はこれを見事に躱していた。 すかさずヨハンが合いの手を打つ。 「なかなかやりますね、あの緒蘭朱流槍術の初撃を避けるとは。 フェイントを交えての刺突。 狙いは喉! 「っと!」 「呵呵! 聞かぬ名だが中々の使い手よな!」 がきん、とウェイカトリアイナの柄と刃が拮抗し火花を散らす。 剣客は二度ほど小刻みな刺突を放った上で飛び退る。 攻め手は再びオルハへ。 (っ……ちょっと、体が重くなってきたかも) 呪いの影響か。 長期戦はどうやら不利と見えた。 ここは速攻で勝負を決めねばなるまい。 一つ大技を放ちたいところ……だが。 (あっ。 どうしよう、必殺技の名前考えてなかった!) ものすごくどうでもいい、ように見えて実はけっこう大事なことに気づくオルハ。 その間にも天全は刺突薙ぎ払いを丁寧にいなして躱し、攻撃の隙を伺う。 呪いの重圧は少しずつ高まる。 ここはヨハンを信じて撃つ他にない! 「君……じゃなくて、お主もなかなかやるではないか」 「ハ。 酔狂をほざいておる場合か?」 「それはこちらの台詞だ……である! せやぁ!」 瞬間、ヨハンと天全はオルハが消えたように思えた。 だが実際は、そう見えるほどの速度でオルハが踏み込んだのだ! つまり彼女は勝負をかけに行っている。 ヨハンの頭脳が高速回転した! 「! ……あれは、閃影迅!」 (なにそれ、かっこいい!!) 「鋭い一閃が影も残さず翔けるという……さすがは折葉さん、少女の腕であれほどとは!」 オルハの体が軽くなったのは、呪いが弱まったせいかあるいはノリにノッたからか。 反撃の糸口を失った天全は、徐々に徐々に圧されていく! がきん! ひときわ重い金属音とともに、両者は飛び離れた。 「ぬうう……!」 天全は呻く。 あちこちには避けきれなかった疵が増えつつある。 「これはどうやら、奥義を見せる時が来たようだ……な!」 (ほんとにああいう演技が苦手なんですね……仕方ないか) ヨハンはんん、と咳払いをひとつ。 「彼女が本気を出せば、狼藉者など……」 若干の間。 「……四肢を切り裂かれ舌を絶たれ、二度と陽の光は拝めないという。 だがオルハはあえてこれに乗ることにした。 空より来たる避けようのない多段攻撃である。 奇しくもその時、ヨハンとオルハの声はまったく同時に重なった。 「み、見事なり……」 どしゃり。 天全が倒れ、免状はボロボロと塵に変じて消えてしまう。 「ふっ、またつまらぬものを斬ってしまった……」 「それ、槍で使う台詞じゃないと思うんですよね」 「んもうっ、そういうツッコミはいいから!」 などと言い争いをしつつ、ふっとオルハは片目を閉じて微笑んだ。 ……意外なことに、ヨハンもまたこれに、リラックスした笑みを返す。 数多の戦いを、そして年頃の少年少女らしい交流を経た二人だからこその笑み。 (…………思ったより、楽しかった) だけではないらしいのは、ご愛嬌である。 つーワケだから、今回オレらは【チーム・いろは】で行こうかァ! ホラ、オレらの名前って頭文字が「あ・い・う」だからサ。 ってなワケでオレサマはトーゼン解説役担当だァ。 気張れよお二人サン! おっと、あっちゃんのあの技は『豪打・啄木鳥』!目にもとまらないスピードでキツツキみてーに全く同じポイントを突き刺す妙術!あれ難しいんだよな真面目に。 槍でもスナイパーかよ。 あ、いっちゃんたら『無明長夜』出してる。 敢えて視界を捨てることで相手のフェイントを無視し、的確に急所を刎ねる技だ。 手加減してなきゃ首が落ちてたナ! コレ楽しいな!UCで臨場感溢れる実況しちゃろ!がんばれアホ共ー! なーにが【チーム・いろは】だっての、この性悪狐……。 流派、流派ねぇ……そんなの考えた事もなかったなぁ。 僕の槍は完全に我流だし……。 でもこういうの考えるの、楽しいよね。 なんかカッコ良さげな感じにしたいなぁ。 うーん……よし。 やあやあ、遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ! 我こそはカルラ流槍術の皆伝者、アルバートなり! 蛮力ひけらかす卑賤の輩め、この僕が相手してやろう! こんな感じかな? あとは変に魔術使わないで、UCで技能を底上げしつつ槍で戦っていこう。 地に足着けて戦うの久しぶりだなぁ。 羽根は仕舞っておこうね。 しかし……狐うるせぇな……。 絵に描いたような、しかしけっして許されてはならぬ悪行がそこにあった。 「元はと言えばお袋さんよぉ、あんたが俺らにぶつかってきたのが悪いんだぜぇ?」 「で、ですから私のことはどのようにしてくださっても……」 「あぁ? 俺らに指図するつもりかこのババア!!」 「おかあちゃあ~ん! びぇえええ~!!」 ……とまあ、このような有様である。 幼子の年頃はまだ3つか4つといったところだろう。 母の顔立ちも若々しい。 だが悪党どもが意に介することはない。 むしろ下卑た舌なめずりをする始末! 「おい、さっさとその餓鬼を黙らせちまえ。 そのあとはよう……」 「お願いでございます、その子だけはどうか……!」 覚悟を決めた母親の嘆願も、卑劣な連中の耳にはまさに念仏か。 泣きじゃくる幼子が地面に叩きつけられようとした、その時! 「あでぇっ!?」 「「「!?」」」 幼子の襟首を掴んでいた輩の手の甲が、ばっくりと砕けていた。 そして勢い余って宙を掴んだ幼子に、何かが絡みついてぐいっと引っ張る。 杖である。 一撃で外道の手を叩いて砕き、素早く幼子を絡め取ったのだ。 続けざま、母親を取り囲んでいた一党がわけもわからず吹っ飛んだ! 「「「うおおおっ!?」」」 「な、なんだ! 誰だ!?」 「いいねェ、お決まりのセリフって大事だよなァ!」 誰何の声に応えたのは、ボリューミーな赤髪が特徴的な伊達男である。 「チーム・いろはだ。 今回はそういう趣向らしい」 巨漢が真面目くさった……より正確に厳密に表現するならフラットな声音で言う。 その機微に聡く気付くようなものでなければ、理知的で温厚と見えるだろう。 「それ、ホントに使うの?」 不満げな優男の言葉に、伊達男がカッカと調子よく笑う。 「こんな奴らにゃ"それ"で十分だろ? それにホラ、オレらって名前の頭文字が"あ・い・う"だしサ」 「だからってなーにが"いろは"だっての、この性悪狐……」 などと軽口を叩く優男だが、この状況そのものはまんざらでもないらしい。 三人して、人助けだとか悪党をやっつけてやるなどという義憤は見当たらない。 つまりは景気よく暴れられればそれでいい、そういう連中であった。 「こいつら、ふざけてんのか!?」 「まァまァ焦りなさんなって、ほれお二人サン、ちゃんと名乗らねェと」 主犯格……もとい焚き付け役の荒・烏鵠はさっさと後ろに退いてしまいつつ、 うまいこと優男と巨漢に水を向け、悪漢どもの注意をそちらに逸らしてしまう。 殺気立った視線がいくつも向けられるが、二人がそれを恐れる節はなし。 「だってさイル、なんか考えてある?」 「この杖術は烏鵠から教わったものだからな、当時の奴はどう名乗っていたか……」 呑気に腕組みなどして、巨漢はしばし沈思黙考。 やがて"ああ"と思い出した様子。 なんだかんだで名乗りには胸躍るものがあるのか、その隣でひゅんひゅんと槍を構えた。 「やあやあ、遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ! 我こそはカルラ流槍術の皆伝者、アルバート・クィリスハールなり!」 なかなかどうして、威風堂々とした朗々たる名乗りである。 実際のところは我流なので何もかもでっちあげなのだが、こういうのは迫力が重要だ。 その点において二人は満点と言えよう。 悪党どもは気圧される! 「蛮力ひけらかす卑賤の輩、この僕が相手をしてやろう!」 「このイリーツァ、義によって助太刀いたす」 といった具合である。 後ろの烏鵠は大受けで手を叩いている。 性格が悪い。 助けられた親子にとっては、まさに天の遣わした救いも同然なのだが! この奇妙な三人組のやりとりに毒気を抜かれていた悪党どもも、 どうやら連中が自分達をぶちのめしに来たのだと分かると再び血色ばむ。 「嘗めた連中だ、畳んじまえ!」 「「「おおっ!!」」」 数にして十……いや二十近い連中、いずれも免状をひけらかした悪漢ども! 「来るがいい虫けらども。 叩き潰してやろう」 「こんな感じでいいのかなぁ? じゃあまあ、始めようか」 かくして戦端は開かれた。 だが趨勢は誰の目にも明らかである。 呪いによる補正を差し引いても、いろはの二人の方が圧倒的に上手だからだ。 「地に足着けて戦うの、久しぶりだなぁ」 世間話めいて軽く言いながら、アルバートはすいすいと敵の攻撃をかいくぐる。 いや、そもそもあまりにも自然な動きゆえに、懐に入られたことすら敵は察知出来ないのだ。 先ほど吹き飛ばされた悪党どもも、こうして間合いに飛び込まれたのである! 「ぎゃああ!?」 「お、俺の脚がぁ!」 アルバートの両手が霞んだ瞬間、敵の苦悶が木霊する。 まるで畳針で縫い留められたかのごとく、手足に穿たれた大きな穴! 「おっと、あっちゃんのあの技は……『豪打・啄木鳥』!」 「ご、ご存知なんですか?」 幼子を掻き抱いてへたり込んでいた母親の台詞に、烏鵠はナイス! と指を鳴らす。 「目にも止まらないスピードで、キツツキみてーに全く同じとこを突き刺す妙術! ……あれ、難しいんだよな真面目に。 槍でもスナイパーかよ」 然り。 アルバートの本来の戦闘方法は斯様な"生っちょろい"やり方ではない。 今の彼は、猛禽の黒翼を隠せし一人の槍手であるゆえに。 目で見ずにしていかに敵を捉えるというのか? 「いや、そんなことねえぜェ。 ありゃ『無明長夜』の構えだなァ」 そして狙いすましたかのように、烏鵠の名解説が挟まれる。 杖術には些か不似合いかつ不穏当な響き。 直後、それは現実となる。 「ぐええええ!!」 ひとつ、ふたつ。 瞑目したままのイリーツァによる的確な打撃。 それはまさしく敵の腕を足を刎ね飛ばすような鋭さで、前後左右の悪党を昏倒させるのだ。 「手加減してなきゃ首が落ちてたナ! さすがいっちゃんだぜ!」 この技、本来の銘を"不推不察・超直観"と呼ばれている。 五感に頼ることなく、直感を研ぎ澄ませて"正解"を見出す。 そこに"もしも"はありえないのだ。 「おお! 今度はあっちゃんの『瞬打・百舌鳥』が炸裂だァ!」 「……あのさ、イル」 「すげェ! いっちゃんもまさかの『暗夜套路』でガンガン攻めやがる!」 「どうした、アルバート」 軽々と悪党どもを薙ぎ払いながら、アルバートはげっそりとした顔をした。 「あの狐、うるさくない? いや、ていうかうるせぇ」 「そうだな。 楽しそうでなによりだ」 「イルらしい感想でなによりだよ……」 次から次へと悪党どもが駆けつけては、鎧袖一触とばかりに打ち倒されていく。 「コレ楽しいな! 化けて終わりじゃ能がねェ、がんばれアホ共ー!!」 一方の烏鵠、いよいよ解説芸に磨きがかかりその様まさしく"万両役者"。 二人の大立ち回りと一人の名調子は、悪党どもが山と積み上がるまで続いたという。 「俺の流派は神酒坂風桜子抜拳流」 挨拶し。 「今はシティ拳豪の神酒坂恭二郎だ」 名乗りを残して背を翻す。 挨拶から名乗りまでの間は1秒足らず。 恭二郎の抜拳術は30分の1秒で放たれる。 10人ばかしの悪党を倒すには、少しばかし長すぎる時間だった。 紅湖の悪党の中でも、ことさら腕自慢として名を知られる連中がいる。 武のためならば殺人をも厭わぬという、札付きの罪人どもだ。 常に十人。 されど一切馴れ合うことなく、隙を見れば互いに殺し合う。 飢えた猛虎すら素手で殺すという、恐るべき達人集団。 御免状を賜るに当たり、これほど向いた奴らもいなかろう。 今や奴らは街の一角を己らの縄張りと定め、完全に支配していた。 よその悪党どもから守るという名目で、近隣の住民から酒や金子を巻き上げているのだ! 「……で? その十指鬼のねぐらと分かってて、来たわけか」 剣呑な入れ墨を全身に施した男が、闖入者に向かって凄む。 常人ならば、その一睨みだけで言葉を喪い立ちすくむだろう。 入れ墨男の他にも、巨漢や太っちょ、はたまた痩せぎすや小男……。 多種多様な奇人変人が、合わせて十人。 まさに十指鬼の集いである。 あたりには酒瓶や食い散らかした飯が、さながら獣の屍肉めいて散らばる。 否、獣の死骸"も"、である。 太っちょが血まみれで骨をしゃぶっている。 浅ましくも凄まじい有様。 だがふらりと現れた男は無言である。 凄まれてなお、あたりに立ち込める血臭を浴びてなお、口元には薄い笑み。 「おいおい、あんまりビビらすなヨォ。 震えて声も出なくなってるゼェ?」 小男がヒョッヒョと気味の悪い笑い声をあげた。 それがあまりに涼やかで平易な声音だったものだから、誰もが呆けた。 訝しみながらも、闖入者の言葉の続きを待つ他なかった。 「お前さんらが居るとは知らなかった。 ただふらついてただけなもんでね」 ……誰ともなく、十指鬼は笑った。 声を上げてげらげらと笑った。 己らの縄張りに踏み込んでおいて、"知らなかった"と来る! 「は、は、ははは! こりゃいいや、傑作だ!」 「命乞いにしちゃあ新しいや、ぐひひひひ!」 「こ、ごいづ、喰っでいいのがぁ?」 よだれを垂らす太っちょを、刺青男が制する。 「よせよ。 刃めいた双眸が闖入者を睨めつけた。 「"そういう挑発だ"なんてことは、ねえよなあ?」 笑い声が、止む。 すさまじいまでの殺意が周囲を張り詰めさせる。 鳥すらも恐れおののき頭上を飛ばぬ有様で、男はしかし笑っていた。 名前より先に、己の武術流派を名乗る、それが意味するところはひとつ。 十指鬼は血走った目で男を睨みつける。 誰かの拳がごきりと鳴った。 それぞれの殺人武芸が繰り出される緊張。 筋肉がぎちぎちと縄めいて引き絞られる音! 「今は、"シティ拳豪"の……神酒坂・恭二郎だ」 ふざけるな、と誰かが言った。 嘗めるな、とも誰かが言った。 そしておそらくは同時に飛びかかったはずだろう。 だがその時、恭二郎はすでに踵を返し、すたすたと歩いていた。 一秒にも満たぬ、一瞬である。 一体この男は何をしに来たのかと、常人ならば思うことだろう。 名乗るだけ名乗って逃げ帰るつもりなのか、と。 否である。 その時すでに、恭二郎の拳は叩きつけられていたのだ。 神酒坂風桜子一刀流・"石火(いわほ)"。 本来ならば電光石火の速度で刃を振り抜く、神速の抜刀術。 剣の代わりに拳を抜き、放ち、そして打ち込んだ。 一撃わずか30分の1秒。 十指鬼に叩きつけられた拳は十と四つ。 その者ら、腕自慢として名を知られる悪党徒党。 されど、神酒坂・恭二郎にとっては一山いくらの雑魚である。 うだつの上がらぬサンピン侍が無様に倒れ伏す。 これでちょうど十人目。 免状狩りは上々と言ったところだ。 「ほう……どこの誰かと思いやこんな餓鬼とはな」 「む!!」 ゆらりと姿を現した悪漢に、少女は表情を変えて身構える。 纏う気配が、これまでの雑魚とは一味違うと知らせていた。 「目当ては俺か、免状か、両方か。 この心眼流の道雪斎様にかかってくるつもりなら名乗りな!」 懐に差した御免状が赤黒く輝き、悪漢あらため道雪斎の体を覆っていくではないか! さらに呪いは少女にすら作用し、じわじわと体の動きを重くさせていく。 「師匠! よいですか? よいですね!」 少女が独り言めいて呟けば、彼女が着けた眼帯から声がする。 『……まあ、これまでの雑魚狩りはすべてそのためのもの。 悪漢だけを斬るならばそれでよし。 油断だけはするでないぞ?』 「承知!」 そして意気揚々と道雪斎を見据え、少女は朗々と名乗りをあげた。 「聞かれて名乗るもおこがましいが、聞かれたからには名乗りましょう! ウチこそがアルダワ新選組切り込み隊長! スペースジゲン流リョーコ・アサギだー!」 「なんだぁそりゃ、聞いたことねえな! 田舎の三流剣法か!」 もとよりリョーコと"師匠"が悪党どもを見逃すつもりはないが、 このあからさまな挑発は彼女らにとって覿面に効いた。 『……叩きのめしてやるでござる、リョーコ!』 「もちろんです!規律を破り、世の風紀を乱すものはウチが叩き斬ってやる!」 罰・即・斬を合い言葉に、サイキックエナジーの刃を纏いし剣を構えた! スペースジゲン流とはすなわち示現流に通ず。 示現流は、猿叫とも呼ばれる奇怪な怪鳥音とともに一ノ太刀を叩き込む流派だ。 ゆえに道雪斎は、当然上段からの打ち込みを警戒した。 した、のだが……リョーコの剣速は、ヤツの想像をはるかに越えていた! 「ちぇすとぉーっ!!」 「ぐほぉっ!?」 一撃! 一撃である! 防御のために構えた剣を叩き折り、大上段から叩き込まれた振り下ろし一条。 真正面から正々堂々と挑みかかるという士道に相応しい戦いぶりが、 呪いをはねのけリョーコの力をさらに強化したといえよう。 「見たか! スペースジゲン流の恐ろしさをー!」 『ま、多少はやるでござるな!』 「ええーっ、満点ではないのですかー!?」 などと、やかましい凸凹師弟であったという。 ばなこ(f00572) いのちゃん(f01962)と「GWP」で参加 ルール上、武術に詳しい人が解説した方がいいはず! と解説役に あのユーベルコード(黄金果実の情熱)を解説するの? あれは!…あれ、は…何? ええい勢いで押し切れ! 「流派絢爛芭蕉とは、UDCアースがまだ戦乱の時代。 悪党どもが村を支配して農民を強制労働させているのだ! 睡眠食事はおろか水分補給さえ制限された農民達は、目も虚ろで足元が覚束ない。 「も、もう無理でさあ、勘弁してけろ……」 頬のこけた農民男性が、悪党の足元に跪く。 息も絶え絶えだ。 「口答えするのかぁ? ならお前を……いや」 ニヤリと笑った悪党の視線の先には……おお! 農民の若娘の姿! 「親の責任は子供に取ってもらわないとなぁ?」 「ま、待ってくだせ! おらぁ痛めつけるってんならわかる、あの子は関係ねえべさ!」 「ごちゃごちゃうるせえんだよぉ!」 すがりつく農民を蹴り飛ばし、悪党の魔の手が娘へ迫る! 若き娘が逃れられるはずもない、もはやここまでなのか……!? 「ハーッハッハッハァー!!」 「「「誰だっ!!?」」」 突如どこからか響き渡る高笑い、悪漢どもはたじろいだ! 「あ、あそこだ! 櫓の上にいるぞ!」 指さした先、物見櫓……のさらに天井に凛と仁王立ちする姿あり。 まるでその姿を照らし出すかのように、中天に登った太陽が逆光を背負わせる! 「ううっ!? ま、眩しくて見えねえ……!」 「そこまでだ! 悪党どもォ!!」 くるくるくる……しゅたっ。 軽やかな回転跳躍からの着地。 「何者だ、名を名乗りやがれ!!」 「よくぞ聞いてくれたじゃねえか。 決まった……! そんな彼女の横にざざっと駆けつける影さらにふたつ! 「ねえお師匠様、今のってあそこ(櫓のこと)に登る必要あったのかな!!」 「あ、あんまり深くツッコまないほうがいいよ、いのちゃん……」 そっかー! と天真爛漫(ややアホっぽいとも言う)な笑顔で納得した、 白い髪に色黒の肌をした少女の名は八海山・いのこ。 そして二人のハイテンションっぷりに、苦笑いを浮かべているのが西行・胡桃だ。 合わせて三人、いずれも見目麗しき少女達。 だが悪党数十人を前にして恐れなし。 「あ、あんたがたは一体(いってぇ)……!」 「フッ、よくぞ聞いてくれた。 胡桃はちょっと恥ずかしそうだ! 「流派! 絢爛芭蕉!! ……百戦錬磨、甘味完食のナナコたぁアタイのことよぉ!!」 若干の間。 「絢爛芭蕉? 聞いたことあるか?」 「いや、ないな……俳人の名前じゃんよ」 「そもそも流派なのか二つ名なのかわかんなくねえか?」 悪党どもの反応はイマイチであった。 (お師匠様お師匠様、これ私達の出番じゃない!?) (そ、そうね。 じゃあいのちゃんは村の人達をお願い!) 了解っ! と笑顔で敬礼したいのこに人々の避難を任せ、胡桃はおほんと咳払い。 「流派絢爛芭蕉……それは、えーと……UDCアースがまだ戦乱の時代だった頃! 時の権力者が反乱を恐れて刀狩りを行った頃に興ったとされる流派……!」 「知っているの、お師匠様!!」 UDCアースってなんだ? 的な悪党どもの疑問は切って捨てる二人である。 なお、ナナコは腕組みをしてさあ解説しろとばかりにふんぞり返っていた。 何様だ。 「一見武器だとは思われないよう、バナナを使って戦った反逆者達が始まりだと言われているわ。 つまり……そう! バナナを使って戦う、まったく新しい武術流派なのよ!!」 「な、なんだってぇー!?」 どぉーん。 いのこと胡桃のコンビネーションはある意味完璧であった。 バナナが武器? 物ですらなく? みたいな悪党どものごちゃごちゃを察したナナコが、くわっと目を見開く! 「御高説はここまでだ! 悪党ども、テメエらの悪行はアタイ達の前では許されねぇぜ!」 「すごい、ナナちゃんが強引に話をねじ込んでいったよ!」 「私達必要なのかしらこれ!?」 ジャキン! ナナコが両手に取り出したのは……おお、見よ! 「バナナだ」 「バナナだな」 「バナナ? バナナナンデ!?」 コワイ! なぜか両手にたっぷりのバナナのぶら下げてドヤ顔のナナコ! あまりの意味不明っぷりとドヤ顔っぷりに悪党はある意味でたじろいだ! ついでにいうと助けられる側の農民のみなさんもだいぶ訝しげな顔だ! 「見ておけよテメェら……ここからが絢爛芭蕉の恐ろしいところだぜ」 「「「うう……っ!?」」」 ナナコのただならぬ眼光に、武器を構えていた悪党どもは尻込みする。 その隙にいのこは農民達を助け出し、戦闘の邪魔にならない場所へ避難させるのだ。 「まさか、あの技が出るというの……!?」 「お師匠様、知ってるの!?」 (……知らないし嫌な予感しかしないけど、ここは勢いで乗り切るわ) (そっか、勢いは大事だよね!) 解説役&驚き役の二人もある意味ハラハラドキドキである。 そしてナナコは……おもむろにバナナを……おお、なんたることか……! バナナの皮をむいむいと剥がし、そしてバナナを……バナナを!? 「このアタイの恐ろしさを、思い知らせてやるからな! いくぜぇ!!」 バナナを食べ……食べない! 食べないが目の前にぶらさげて凝視する! 「うおぉおおおお!! バナナが、バナナが食べてぇえええ!!」 食べたい。 だが食べない! 眼の前にちらつかせるだけで我慢する! どこからどう見ても狂人だ! だがあまりの熱意がオーラめいて揺らぐ! 「あ、あの技は……あれは!」 「あれは!?」 いのこがうまい具合に合いの手を入れる。 胡桃は……。 「……あれ、は……何?」 バナナを手に持ちメラメラと荒ぶるナナコ。 かなりセインではない光景である。 「よ、よくわかんねえがやっちまえ!」 「「「うおおおおおっ!!」」」 そこへ襲いかかる悪党ども! 悪い夢は終わらせるに限るからだ! ……だが!! 「「「グワーッ!?」」」 見よ。 飛びかかったはずの悪党どもが放射状に吹っ飛ぶ! ナナコは無傷。 それどころか陽炎めいて揺らめくほどの闘気、体が巨大に見え……いや、 実際に巨大化している。 ぐんぐんと大きくなっていく! 「「「な、なんだーっ!?」」」 「うおぉおおお!! バナナを求める! このバナナへの熱い想い!! この力が、感情が! アタイを成長させ強くしていくぅうう!!」 「目の前にあんだから食えばいいじゃねーか!」 「問答無用だ喰らえーっ!!」 「「「ぎゃああああ!!」」」 鎧袖一触とはまさにこれ。 悪党どもは為す術もない! 「……えーと」 気を取り直した胡桃は勢いで押し切ることにした。 「あの技は、あまりにも絢爛芭蕉が強すぎたために、バナナの所持も禁じられてしまった時の伝承者達が『なら食べてしまえばいいんだ! もともと食べ物だし!!』と思いついて編み出された技よ!」 「すごいや! それでどう強くなれるのお師匠様!」 「……み、見ての通りよ!!」 「見ての通りなんだ……そうか、そんなにすごい技なら、それならきっと!」 きっとも何もナナコの体は増大を続け、文字通り悪党どもを足蹴にしていた。 もはや悪党が悲鳴を上げて逃げ出す有様だ。 逃げ遅れた農民の皆さんも悲鳴をあげる。 「うぉおおおバナナバナナバナナバナナバナナァアアア!!」 「「「グワーッ!!」」」 もはや暴れ狂う怪獣みたいな勢いである。 「飢えれば飢えるほど強くなる……つまり、逆境に強い!」 「逆境っていうか蹂躙だよね、あれ!」 「それはそれで強いということよ! みんなで応援しましょう!」 「そうだねお師匠様! ナナちゃん頑張れ、すごいすごーい!!」 流派・絢爛芭蕉ここにあり。 その武名は大きく知れ渡ったことだろう。 「…………そもそもバナナって、なんなんだべか」 「おっとうも知らないんだべか?」 助けられたはずの農民達は、蹂躙を呆然と見守るばかりだったという。 〇アイリ・ガングール(f05028)さんと合わせ 呼ばれてないけど参上、です。 お天道様に変わっておしおきです、よ 狩猟本能に目覚めたきつねの怖さを悪漢に思い知らせて……、って、アイリさん……!? そんな性格でしたっけ……!? でも凄い戦術、です。 かっこいいです、ね……!私もがんばらないと 私の白兵戦技も、巷ではシス・テマとか言われているらしいので、ある意味流派、です。 では宴の参加者は? 顔にも脛にも傷のありそうな悪党ばかりである! 壁際には何人ものうら若き乙女達が並べられ、酌に配膳にと右往左往していた。 「皆さんのおかげで私も商売繁盛してますからねえ」 「こちらこそ、旦那のおかげでのびのびと遊ばせて頂いておりやすよ」 「天下の御免状に呉服屋旦那のご後見とくらあ怖いものはねえや!」 「法度も政令もくそったれ、てなもんだぜ!」 ガハハハハ! と笑いあう悪党と呉服屋。 なんたることか……! あろうことか呉服屋の主人は御免状を賜った悪党どもを囲い込み、 食客としてもてなすことで商売敵や都合の悪い相手を蹴落としているらしい。 免状を持つ者だけが悪党ではないということか。 ではこの娘達は!? 「さてお前達、わかっているね?」 呉服屋のいやらしい笑みが、かすかに震える娘達へ向けられる。 ……然り。 彼女らは法外な借金や言いがかり、あるいはより直接的な脅しによって、 呉服屋の屋敷へ連れてこられた無辜の町人達である。 夫や両親、はたまた友人や子供を守るためにいいように使われているのだ。 無法ここに極まる! 悪を糺す正義は、もはやこの地から喪われたのか!? ……否! 突如として外から警備の悲鳴が響き渡り、悪党どもは殺気立った。 勢い衾が開かれ、血まみれとなった浪人が転がり込んでくる! 「どうした騒がしい!」 「だ、旦那様! ふ、不埒者が、屋敷の正面からこちらへ……!」 「なんだと!?」 がくり。 浪人はそのまま昏倒してしまった。 そして戦闘の鬨の声は、まさに酒宴場に面した中庭へとなだれ込んでくる! 「コココココ! いやぁ、こうしてると昔の頃を思い出すねぇ! こうしてあちこち攻め込んで、悪代官をぶった斬ったもんさ」 奇矯な笑い声とともに颯爽と現れたは、金の髪が艶やかな幼子である。 だが心せよ、この女、見た目にそぐわぬ長齢老獪、武も呪も究めた剣豪術士なり。 「聞けぃ悪漢ども! 我は天正新谷新道流が師範、アイリ・ガングールなり!」 「何! 天正新谷新道流とな!?」 「知っているのか雷丸よ!」 雷丸と呼ばれた禿頭の悪漢が、持っていた盃を握り潰しながら頷く。 「今は亡びしさる国に伝承されていた、ただならぬ流派と聞いたことがある。 その剣、風よりも速く岩より重く、先の先を得ては出を潰す剛剣であると」 「コココココ。 存じておるとは見上げたものじゃね、みどもは嬉しいぞぉ?」 異色の双眸が艶然と緩く笑みに歪んだ。 あどけなさにそぐわぬ妖しの色香……。 「と、相手はアイリさんだけではないですよ?」 手足をてんでばらばらにへし曲げられた浪人を放り捨てつつ、 続けざまにやってきたのはやはり妖狐の少女。 前髪で覆われているはずの双眸は、たしかに悪党どもを見据えている。 「流派は……シス・テマとしておきましょう、か。 巷ではそう言われている、とか。 アイナ・ラウタヴィーラ、呼ばれてないけど参上、です」 お天道様が見逃そうと、悪漢どもの所業を見逃すはずはなしと身構える。 アイリよりは一回り大きなれども所詮は少女の体躯、だが異様なまでに充実した殺気! 然り、この娘、見た目に反して恐るべき戦場傭兵なのである。 女狐だからと嘗めていれば、あの浪人どものような目に遭うは必定か! 「せ、先生! 畳んでしまってください!」 「どうれ……」 「余興にゃあちょうどいいな、きっひっひ!」 「化生なら我が刃にも不足なしよ」 悪漢どもは各々剣呑な武器を構え、悠然と中庭に降り立つ。 「重畳じゃね。 しからばいざ、尋常に立ち会わん!」 「応さ小娘。 この新陰如月流が吉政、相手になろうぞ!」 アイリの挑戦に応じたのは、二刀流を構えた鷹の目じみた鋭き眼光の剣士! 雷丸は瞠目した。 立ち合いが始まった直後、アイリの姿が消えたからだ! 「吉政殿、注意めされよ!」 「失伝流派何するものぞ……ぬうっ!?」 疾い。 だがアイリは剣豪であるとともに呪師でもある。 妖狐仕込みの呪術ここにあり。 機動力が強みたる二刀流が圧されるばかりとは! 「そうらそらそらそらそらぁ!!」 「アイリさん、そんな性格でしたっけ……!?」 旧知の仲であるアイナをして、攻め手の苛烈さはすさまじい。 いや、あそこまで高揚に酔いしれる女の姿は初めて見るのではなかろうか? 「でも凄い戦術、です。 かっこいいです、ね……!」 「よそ見をしてる場合かァ、女ァ!」 「……私も、頑張らないと」 そしてアイナと対峙するは、彼女の二倍近くの背丈を誇る異常身長の怪人! 「あいにく我流だ。 だが二つ名ならあるぜェ……クッキキキ。 "怪力乱人"の剛羅様たぁオレのことよぉ! バラバラにしてやるぜぇ!」 ビキビキと全身の筋肉が緊張する。 特に指先はもはや異形だ。 おそらくは膂力で相手を殴り蹴り叩き伏せ、握力で以て破壊する闘法と見えた。 アイナはいかにして立ち向かうか? ……構えるは小ぶりな刀一振りのみ。 「"狐刀一尾"でお相手いたしま、しょう。 どうぞ、かかってきてくだ、さい」 「そんな脇差みてえな刀で何が出来るってんだ、クソガキがぁああ!!」 ドウ、ドウドウドウ! 巨象じみた巨漢の突進がアイナへ迫る! 「剛羅が完全にキレたな。 あの娘っ子、もはや形も残るまい」 「いかにもよな。 天禀たる膂力で鉄の柱すら引きちぎる、まさに"怪力乱人"よ」 観戦に回る悪党どもは、アイナの無残な最期を予期し下卑た笑みを浮かべた。 だがただ一人……雷丸のみは違う。 冷や汗がこめかみを伝う! 「むうっ、あれは!」 「「「なんと!?」」」 そして次いで全員が驚愕した! 防御も回避も為す術なく捻り潰されると見えたアイナは、しかし! まず片腕の腱を一太刀で切り伏せ、空いた片手で敵の片腕を掴み受け流す。 勢いそのまま懐へ潜り込み、まず鳩尾へ痛烈な肘打ち! 巨漢は絶叫! 「触らない……でッ!」 「ぐほぁっ!?」 くの字に折れ曲がった上体をばっくりと切り裂き、さらに腹部へ膝! たまらず倒れ込んだ後頭部への回し蹴り。 痛烈かつコンパクトな連撃である! 「あ、あれほどの体格差を逆に利用するとは……!」 斯様な閉塞状況でこそ、アイナの白兵戦技(クロース・コンバット)は最大効果を発揮するのだ。 ……そしてアイリの側は! (攻め込めぬ、これが失伝流派だと……!?) 防戦に徹せざるを得ない状況で、吉政は屈辱に唇を噛んでいた。 そしてふとアイリが拍子を外した瞬間、防御が……がら空きに! 「な」 「よう耐えたもんじゃね」 剣士は震えた。 己が相対していた者の正体を知ったゆえに。 呻き声すらなく、亡国の名刀が剣士に引導を渡す。 剣刃一閃。 納刀音と対手が倒れ込む音は全く同時に。 「お見事、です!」 「うおうっ!? なんじゃ、そっちはもう終わっとったのかアイナ!」 髪で隠れているが、おそらく目をキラキラさせたアイナの小さな拍手に、 我に返ったアイリはテレテレと顔を赤らめて慌てた。 「いやぁ、おばあちゃん張り切りすぎたやね!」 「とても参考になりそうでし、た。 かっこよかった、です」 「あ、アイナこそ、戦いのときは中々に果敢じゃのぅ! コココココ……っ」 照れるアイリ。 真正面から称賛するアイナ。 尊みのある空間だ。 だが残る悪党どもはそうもいかぬ! 凝固した殺気を放ち身構える! アイナとアイリは咳払いして頷きあい、肩を並べて武器を構えた。 「さあて、次は誰がみどもの相手になるのじゃね?」 「誰からでも、かかってこい……です!」 かくて、死闘はなおも続く。 武侠御免状を持つ武人とお見受けする! 「実戦空手紫電会初段、雷陣・通が武を以って、汝に挑まん。 いまだ声変わりを迎えきらぬ少年の、しかしびりびりと大気を揺るがす声だ。 「……ほう」 ゆらり。 陽炎めいたオーラをどよもしながら、ボロボロの僧服を纏う怪人が振り向く。 背の丈は少年より三、四回りはあろう。 七尺近い巨体である。 「この繋心坊に勝負を挑むとは、見上げた心意気。 名乗るがいい」 巌じみた巨体が大きく両足を開き、大地を踏みしめた。 ずしりと地が揺れ、 まるで猛獣が足踏みしたかのように土埃が吹き上がる。 ただならぬ気配。 「実戦空手・紫電会初段、雷陣・通だ。 武を以て汝に挑まん……!」 対する少年……通もまた、ずしん!! と大地を踏みしめる。 だがそのまま腰を落とすことなく、まるで地面の反発力を受けたかのように、 小柄な体躯はふわりと浮かび上がり、やがて小刻みなフットワークを重ねる。 「お互い名乗ったんだ。 決して逃げたりはしねーよな?」 「笑止」 亀裂めいた眼窩に病的な眼光を宿した破戒僧は皮肉げに微笑んだ。 さながら力士めいた、四股を踏むかのような泰然自若たる繋心坊の構え。 対する通は、半身を切ったサイドスタンスで常にフットワークを刻み続ける。 静と動。 大と小。 剛と柔。 揺らめく赤い呪詛(オーラ)と紫電の飛沫。 繋心坊の言葉に、通が片眉を吊り上げた。 言わずもがな、奴が言及したのは、通が背負う一振りの刀である。 「ハッ、おめーらみてえな悪党には必要ねえよ!」 「…………笑止」 呪詛が濃密さを増す。 殺意が迸り、通りに面した家々を軋ませた。 対抗するかのごとくに、通の内側からバチバチと紫電が吹き出す……! ……そして、先の先は通が得た! 「っしゃおらぁ!!」 疾い! 文字通り稲妻じみた速度での接敵、そして二連蹴り! 繋心坊はあえてこれを避けずに、より深く強く地を踏みしめて受ける。 みしりと脛、そして脇腹を蹴り足が打つ。 通は瞠目し即座にバックステップ! ずしんっ!! 少年が鞠めいて後転宙返りを打った瞬間には、 直前まで彼が居た場所に雪崩めいた恐ろしい手刀が突き刺さっていた! (まるで大木、いや大岩だぜ……ちょっとやそっとじゃ揺らぎやしねえ!) 「どうした小僧、小手調べにもなってはおらぬぞ」 「言ってろ、ライトニングにいくぜぇ!!」 再びの踏み込み。 迎撃の前蹴りをあえてのしゃがみこみで避け、 立ち上がりながらのアッパーを鳩尾へ。 入った、だが筋肉の鎧が分厚い! 通は即座に拳を引き戻し、勢いを殺さぬまま跳躍、さらに鳩尾へ二連突き。 (どんだけ鍛えりゃこんな腹筋が作れんだよ……!) まるで手応えがない。 じんじんと痛む手の甲を強く握りしめながら、 通は裂帛の気合とともに首筋めがけ空中回し蹴りを叩き込んだ。 ……不動。 「笑止」 「!!」 破城槌じみた正拳突き! ばちんっ!! と奇妙な破裂音が響く。 「ぬう……?」 鼻骨は愚か頭蓋を破砕する心算であった繋心坊は、その手応えに呻いた。 通はこの一撃を見切り、巨木じみた手首を掴んで勢いを殺していたのだ! 「もらったッ!」 そのままぐるりと体をひねり、小柄な体躯で腕ひしぎへ移行……否! (動かねえッ!?) 繋心坊は両足で寝技への移行を拒否する。 そして腕を振り上げ叩きつけようと! 「ぬんっ!!」 「そうは行くかよ!」 通は即座に四肢を離し、腕を蹴って寸前で着地。 だが着地直後のよろめきを狙い、繋心坊は本命の踏み込みを終えていた。 「砕け散れぃ……!!」 あまりの威力に踏み込んだ地面が砕け、土埃が両者を覆い隠す。 正中線めがけた満身の正拳突き。 勝負あったか……!? ……土煙が、晴れる。 「教えてやる」 「何……」 見よ。 通は片手を頬に添えるようにぴたりとつけ、肩で押し出すように拳をいなしている。 「紫電とはすなわち死に至る電(いなずま)。 少年の裡なる稲妻が四肢を伝って迸る。 紫電とは死に至る電を伝えるものであり、すなわち至伝に通ず。 起死回生を自ら生み出す、一撃必殺ならぬ"連撃必殺"の套路。 狙いは顎下への飛び蹴りか。 繋心坊は全身に膂力を込め、これを凌ごうとする。 そして瞠目した。 全身を使っての踏み込み、撥条じみた緩急による威力の作動。 敵の攻撃を誘ってのカウンター。 威力は双方の運動力がそのまま倍増する……。 「がぼっ」 "紫電の空手(ライトニングファクター)"ここに完成せり。 血の塊を吐いて倒れた繋心坊、通は油断することなく残心を切る。 ひらりと舞った免状を掴み取れば、それはボロボロと炭めいて散って消えた。 「もらってくぜ免状。 一本と一緒にな!」 青天の霹靂の如き、晴れやかな戦いぶりであった。 看板娘は震えながら顔をそむけるしかない。 免状持ちに逆らうことは出来ないのだ! 「そこまでです!!」 悪漢どもは、突如として遮った声にギロリと振り返る。 そこにはなんと……男達の胸に届くかどうかという、小さな背丈の少女が一人。 「悪い人達の狼藉三昧、見過ごすことなんて出来る筈がありません!」 「あぁ~ん? なんだあお嬢ちゃん、ごっこ遊びかあ?」 「ままごとなら他所でやりな、他所でよう!」 悪党どものからかい言葉にも臆することなく、少女はきっと眦を決する。 「まさかたぁ思うが……俺らが免状持ちと知ってて逆らうんじゃないだろうなぁ?」 「その通りです!」 「けっ! 餓鬼が。 ならてめえの名前を名乗ってみやがれ!」 少女は腰に両手を置き、胸を張ったまま答えた。 「はつらさんに、悪い人達に名乗る名前なんてありませんっ」 「「「はぁ?」」」 悪党どもが声を揃えて呆れたのも無理からぬもの。 中には仲間の方を見て、こめかみのあたりでくるくる指を回す輩もいる。 しかしそれは見下しが過ぎるというものだ。 なぜならば……。 「さあ、外に出てください! お店の迷惑ですから!」 「うおおおおっ!?」 ぺたぺたと無造作に近づいたはつら、悪漢の腕を掴み外へと放り投げたのだ! 呆気にとられる他の連中も、次々にぽいぽい店外へ放り出される! 「痛ぇ!」 「なんだこの餓鬼、とんでもねえ馬鹿力だぞ!!」 「はつらさんはバカじゃありませんっ!」 唇を尖らせながら店外に出てきたはつらは、悪党どもが身構える前に剣を振り上げる。 ただし鞘に入れたままだ。 そう、このはつらという少女、実は人間ではない。 すなわちヤドリガミ。 人ならぬ怪力を持つ器物の化身なのだ! 「これこそ優鉢羅流の零の巻、悪いことをしたら地面に埋まって反省ですよ!」 首から下が穴に埋まってしまった悪党どもは、目を回して昏倒している。 なんという怪力、そして大破壊を可能にする不可思議な超重刀であろうか。 鯉口を切るまでもなく、悪漢をひとまとめに片付けてしまうとは! 「快刀乱麻を断つどころではありませんでしたね。 まあ問題ありません!」 ひょい、ひょいと地面に落ちていた免状を拾い上げ、はつらは微笑む。 「お天道様に顔向けできるぐらいに懺悔したら、またお会いしましょう?」 仮に改心したとして、この恐ろしい少女に二度も会いたがる輩が居るかどうか。 突然の救い主に、店の主人と娘も腰を抜かすほかなかったという。 そして頭数が増えれば増えるほど、この手の奴らは幅を利かせるものなのだ。 強き心を持たぬがゆえに悪に堕ちる。 驕慢はすなわち臆病の裏返し。 「おーおー、こりゃあまた盛大なこって」 ゆえに街の外れにたむろする悪党どもを前にして、青年が恐れを抱くことはない。 むしろ怒気の籠もった睨みなどどこ吹く風で、愉快げにニカっと笑ってみせるのだ。 「小悪党が揃いも揃って、何の罪もねえ人らをビビらせ大物気取りっすか。 そういうの、イキってるっつーんすよ? ま、知らなくても無理ねえか!」 かんらかんらと呵々大笑する青年を、悪党どもが取り囲む。 さもありなん。 見返す青年の凄絶な眼光に、恐れをなしたのである。 「"ナメてんのかテメェら"だ? そりゃこっちの台詞だぜ」 底冷えするような怒気。 一山いくらの悪漢どもはごくりと息を呑む。 「て、てめえ! こちとら天下御免の武侠様だぜぇ!」 御免状を掲げられようが、青年は萎縮するはずもない。 目当てはそれなのだ。 「ハッ! 弱者をいたぶるばかりのチンピラが武侠を名乗るなんざ、片腹痛ぇ」 青年が担いだ盾に、掲げるべき紋章はない。 なぜならば彼は傭兵まがいの騎士。 誇りとする家紋も家柄もなく、その日その日を生きる風来坊なのである。 自由を愛する遍歴騎士と言えば聴こえはいいが、所詮は根無し草の戦争屋だ。 落ちぶれたと言わば言え。 否定するつもりもない。 それでも騎士の家の出なのだ。 貫くべき道と精神、そして守るべきものがなんであるかは知っている。 「たとえ世界が違おうが、武芸者の在り方ってのは大して変わりゃしねえ。 それが青年の名。 外道に堕ちた悪漢を前にして、騎士が退くことなどありえない! 「ほざけ余所者がぁ!」 「たかが一人で何が出来んだ、あぁ!?」 「囲め! 数で圧して押し潰しちまえ!」 そしてこういう時、数を頼みに徒党を組むのもよくある光景。 辟易した様子で嘆息しながらも、リンタロウは銜えていた骨をがりっと噛み砕いた。 ばり、ごり、がぎん。 リンタロウは咀嚼したそれを躊躇なく嚥下する。 するとどうだ。 再びリンタロウの姿が霞のようにかき消えて、チンピラどもの間をくぐり抜ける! 「ど、どこだ!? 速すぎる!」 「捉えきれねえ! なんだこいつ!?」 「あ、脚が! 俺の脚がぁ!!」 色付きの風となったリンタロウには、誰も追いつけない。 達人ならまだしも、数を頼みに群れるごろつき風情に何が出来よう? 骨を喰らうことで力を得る。 これが"骨喰"リンタロウの力にして呪いである! ざっと一分。 土埃が舞い上がり、最後の一人がどさりと倒れた。 死んではいない。 手足の腱を的確に斬られ、二度と刀を握れなくなっただけだ。 「これにて再起不能ってとこっすねえ、まあ運が良けりゃくっつくんじゃねえっすか?」 「ち、畜生、覚えてやがれこの野郎……!」 痛みに呻くチンピラは、己の発言を後悔した。 太陽を背負い自分を見下ろす騎士の、殺意に溢れた眼光に射竦められたのだ。 こんな雑魚ども相手では栄誉にもならず、またその名誉を誇示するつもりもない。 が、辺りの住人に、ひとまずゴミ掃除が終わったことは伝えて回るとしよう。 「民草を安心させるのも、騎士の務めってやつっすからね」 さあっ、と気持ちのいい風が吹く。 リンタロウは、どこか故郷を思い出した。 シズル・ゴッズフォート、参ります!」 剣と大盾での「武器/盾受け」を駆使した、防戦を中心とした個人級白兵戦術 剣で斬り、いなし、時に盾での殴打や体術も交えつつ防ぎ、どうしても防げない攻撃は【無敵城塞】で受ける 言葉にすればそれだけですが。 相手は傷つかず、自分達だけが損耗する理不尽への恐怖……耐えられますか? 「力ある者には、相応の義務が生じるものです。 怯え震える民草を足蹴にして、げらげらと下卑た笑いをあげる匪賊ども。 耳に届くのは悲鳴、懇願、あるいは嘆願。 痛ましい叫びばかり。 武侠とは名ばかりの惨状である。 だが名は体を示すとも言うではないか。 形だけでもそう名乗るならば、相応しき振る舞いを求められるのは当然のこと。 「世も己も意に介さない。 なるほど、よくわかりました」 「あぁん? なんだこの女、一人でブツブツと!」 「おいおいずいぶん別嬪じゃねえかあ、けひひひ!」 女の存在に気づいた悪漢どもが、ぞろぞろと群れをなして取り囲む。 足蹴にされていた人々は、安堵と不安の入り混じった表情で女を見上げる。 己らから矛先が逸れたのは正直ありがたい。 だが次は彼女なのだ! それを見て見ぬふりが出来るほど、民の心は穢れていない。 悪党どもがたじろぎ一歩退けば、大きく息を吸い込み朗々と名乗りをあげた。 戦場において、己と家の名を高らかに叫ぶのは騎士の本懐、職務である。 声が大きく高く響けば響くだけ、それは味方を鼓舞する力となるのだ。 「神塞流陸殲術、防楯の型皆伝。 さて、このシズルなる女、実は只人ではない。 強烈な飢えと衝動を抱えながらも、薄く笑む様は凛々しくそして美しい。 しかして騎士を名乗る者ならば、美しいだけで済むはずもなし。 バスタードソードを苦もなく片手で振り回し、もう一方を守るは巨大な盾。 彼岸花と蝶の紋様を刻んだそれは、彼女の誇りである忠誠の証。 「な、なんだこの女、さっぱり攻め込めねえ!」 「くそっ、なんべん打っても斬っても隙がねえぞ!」 堅固とは、堅くまた固いさまを示した言葉である。 シズルの戦いはまさにそれ。 剣でいなし、斬り、あるいは柄で敵を打つ。 迫る攻撃を盾で凌ぎ、弾き、近づくものは打ち払う。 よしんば守りをかいくぐったとして、その身を超常の防御が包むのだ。 「これこそが防楯の型。 あなたがたの攻撃は決して私に届きはしません」 傷一つ負わせられはしないと豪語する、その言葉は事実である。 数十、ともすれば百の撃剣を浴びてなお、鎧はおろか肌にすら一縷の傷もなし! 「ひ、ひぃ! 化物だぁ!!」 「た、助けてくれぇ!!」 相手は傷つかず、撃てど殴れど響きもしない。 体力だけが減っていく。 さながら山を、あるいは海を相手にするかのような理不尽との戦いである。 人は、理不尽には勝てない。 体より先に心が折れる。 恐怖して潰走する悪党どもを、しかしシズルは心を鬼にして打ち据えた。 これが戦場ならば斬って捨てている。 だがここは戦場ではない。 ゆえに殺しはせず、昏倒させるに留める。 見逃すつもりは一切ない。 「力ある者には、相応の義務が生じるのです。 望むにせよ望まざるにせよ」 「ぐええっ!!」 背中を踏みしめられ、足元のチンピラが呻く。 「よく覚えておきなさい。 そして二度と、罪なき民を苦しませてもなりません」 金色の瞳には、たしかな嗜虐と血への高揚と陶酔があった。 満たされぬ植えを強靭な精神力で押さえ込み、正道たる騎士は悪を討つ。 そのさまは、まさに終わりなき求道そのものである。 そんな物に頼って人を傷つけたら、君達もそんなモノになってしまうよ。 咎を重ねたいなら、それを棄てて己だけでね。 咎は何時か廻り帰るものだから。 でも近くで人を襲ったら止めるけどね。 故郷の名前は無くなったし、僕等は七人だし。 悌が残ってるのかな。 夷洞みさき。 いざ尋常に。 物理のみ。 片手両手で車輪を振り回す。 【POW】 車輪の使い方を習っていたのは事実だしね。 車輪の回転音が【恐怖を与え】掠るだけでも摩擦で【傷口をえぐる】 車輪の輻(スポーク部分)で絡めとって色々へし折りつつ【敵を盾にする】 されど、基本は無慈悲に【踏みつけ】る。 馬の耳に念仏、というやつだ。 馬鹿とはまさによく言ったものである。 「君達、そこまでにしたほうがいい」 「「「ああ?」」」 だが世の中には、その愚行をあえて犯す者もいる。 ただし彼女の場合は、それが愚かとわからぬほど世間知らずなわけでも、 ましてや人の善性を脳天気に信じ切っているわけでもない。 「"そんな物"に頼って人を傷つけたら、君達も"そんなモノ"になってしまう。 どうしても咎を重ねたいならば、それを棄てて己だけでやるべきだね」 痩せぎすの女の神妙な物言いに、悪党どもはきょとんとしたあと声を上げて笑った。 どうやら連中にとって、彼女の言葉はさぞおかしいものであったらしい。 「なぁにわけわかんねえこと言ってやがんだ、こいつはよぉ!」 「ぎゃはははは、どこのお坊様だよ! 説法でお布施ねだりか!」 そんな嘲笑の囲まれようと、痩せた女はあるかなしかの笑みを崩さない。 「咎はいつか、巡り帰るものだ。 君達が咎を重ねることを僕らは止められない。 とはいえ、見てる範囲で人を襲うようなら、それはもちろん止めるけれどね」 なるほど、道理をあざ笑う悪党どもならば、彼女の物言いを嘲笑うのも納得か。 だが奴らはこの時点で気づくべきだったのだ。 "咎"の在り様と輪廻を説く、痩せた女の不可思議な雰囲気の正体に。 ……彼女からかすかに漂う、この世ならぬ海の薫りのその意味に。 「おい、ちょうどいいぜ。 この女で遊ぼうや!」 「けけけ! そりゃ豪気だな!」 下賤な笑みを浮かべ己を取り囲む徒党に、女はくすりと微笑む。 誘うような? 否。 嘲るような? それもまた、否。 たとえるならば、それは臨終を見送る死神めいた微笑み。 まあでっち上げなんだがね」 故郷の名は無く輩は在れど亡く、ただ遺るは悌のみ。 ゆえに名乗る。 「なんだ、この女……!?」 「お、おい、やばいんじゃねえか!?」 いまさら気づいたところでもう遅い。 すでに奴らは剣を抜いている。 そしてみさきは名乗った。 咎を殺す車輪がそのために来た。 彼らは現世の者。 されど罰するべき咎はそこにあり。 「殺しはしない。 ぎしり、ぎしりと車輪が軋んで回転する。 悪党どもは剣を振り上げる。 車輪の歩みが疾いということはない。 しかし緩くもないのだ。 現世の者であれそれは当然。 奴らは人々を甚振り悦楽した咎人なり。 軋み音が心を砕き、掠れば肌を皮を裂いて摩擦が肉をこする。 ならばと破壊にかかれば、これこそまさに悪手。 めきりと骨がへし折れる。 逃げ惑う者がいる。 それを追って車輪はぎしぎしと咎人を押しつぶす。 踏みつける。 これぞ貴様らの咎なりと、心と体に刻み込む。 車輪が軋む。 傷をえぐる。 刃を弾き、ぐるりとその身を盾にして、 同胞を従えた海鳴りの女が幽鬼めいてそぞろ歩く。 「た、助、助け……あぎッ」 「殺しはしないよ。 みさきは、ただ微笑んだまま、表情を変えることなくそう言った。 咎を殺し罪を禊ぐことこそ、その身に与えられた使命であるゆえに。 独学で覚え、指南書で伸ばした弓術です。 流派などありません。 即興ですか?無理です。 耀さんの提案された作戦に乗らせていただきますね。 過去に共闘した方でしたら戦法もおおよそ記憶していますし、 初見の方でも上手く合わせていきましょう。 書物で得た表現力を活かせると尚良しですね。 しかし、真の一手は次にこそ。 先程の攻撃は確たる死の刻印を与えたに過ぎません。 あの構え……いよいよですね。 麒麟を討ったと云われている、彼(彼女)の秘儀。 狙われたが最後。 己の死にすら気付かぬほど、鮮烈な最期を迎える事でしょう。 お疲れ様です。 お見事な戦いぶりでしたよ。 心底を震わせる重低音のビートを刻み、名乗りを上げる。 あるだわしきですめたりゅう・ぎたりすと 阿流蛇倭式出主眼多流・魏足素斗 才堂紅葉と申します、一手ご指南いただきたく 優雅な外国(とつくに)の礼儀作法で挨拶する。 戸惑う男達に向け演奏を開始 超絶技巧を見せつけ、悪魔を称えるが如き邪悪な歌詞を天使の如きクリアボイスで歌い上げる 「あら、かかってはこないのですか。 「おかわいいこと」 冷ややかな憐憫の眼差しを向ける。 激昂した男達の攻撃は流水の如く回避し、悪魔の演奏を続け心をへし折り。 曲の締めに蒸気ギターで殴り倒します。 なんだかここのところこういう役割が多いような気がする。 人形は訝しんだ。 おそらく気のせいだろう。 他のグリモア猟兵の予知だとまともなはずだ。 「なぜこんなところに、その、なんですかそれ実況席……?」 「いいところに。 ちょうど解説が欲しかったの」 ツッコミを完全スルーした神元・眞白はぽふぽふと解説席を叩く。 アルジャンテは言語によるコミュニケーションの限界と可能性に思いを馳せつつ、 これ多分断ってもYESを選ぶまで選択肢が出続けるやつだな、と諦め、 おとなしく眞白の誘いに従って解説席に腰掛けた。 寒風がぴゅうと吹き抜ける。 「……で、なんなんですかこれは」 「通りすがりの実況と解説」 「なんのですか……?」 いや聞くまでもない。 アルジャンテはわかってしまった。 なぜなら彼もまた、あのトンチキグリモア猟兵の口車に乗ってしまったのだ。 ……ホニャララ書房作戦! あれっ実況とかする作戦でしたっけ!? 「まあそれはいいのですが、肝心の解説をする相手はどこに?」 「おまんじゅう、おだんご、おはぎ、さくらもち……」 「すいませんどうしてガイドブックをパラパラめくってるんですか」 「あーあー、いけません。 解説さん、あー困ります、あー」 やる気が全く感じられない眞白からガイドブック(?)を取り上げるアルジャンテ。 読んでみると意外にガチな装丁がされていた。 どこの誰が発行してるのか。 「私達だけで席を用意したところでなんの意味もないでしょうに」 「大丈夫。 ほら、あそこ」 眞白が指さした先。 木枯らしとともにやってきたのは一人の女……!! ギャァアアアア~~~~ン!! 「うおおっ!?」 「なんだぁ!?」 酒を呷っていた悪党どもは、突然の重低音に飛び上がった。 というかもうギタリストでいいのでは。 ギャァア~ン。 呆気にとられる悪党どもに女は旋律をかき鳴らす。 「才堂・紅葉と申します、一手ご指南いただきたく」 「「「えぇええ……」」」 悪漢達は戸惑った。 萎縮も出来ないし脅かすこともできない。 むしろ可能な限り目を合わせないようにこの場を辞去したい気持ちで一杯だ。 「ええええ……」 それは解説席のアルジャンテも同じだった。 眞白は無表情である。 「あの、そもそも戦いでもなんでもないような」 「まだ始まったばかり。 ちゃんと解説しないと」 「あ、はい……」 そんな解説&実況席の困惑をよそに、無駄に優雅な礼儀作法を披露した紅葉は、 おもむろにピックを掲げ……そして! 力強くギターをかき鳴らした! ギャァアア~~ン!! ガリガリガリギュキューン! 「あれは!」 「知っているのですか、実況さん?」 「……解説さん、どうですか」 「あの聞いたの私の方ですよね」 「こういうときは、解説が大事だから」 「実況席必要あるんでしょうかこれ……」 アルジャンテは呆れ顔で彼方を見た。 ぽかんとしている男達。 ノリノリでギターを弾く紅葉。 悪い夢かな? 「あー……今の一撃……一撃? 一打……一フレーズ、ですね。 あれは天地をも揺るがすという……曲、曲としか言いようがないですね」 無駄に上手いのがなおさら不安と混乱を煽っている。 しかし、真の一手は次にこそあるはずです」 そう信じたいというのがアルジャンテの本音である。 悪い夢だこれでは。 多分あの歌が、なんかこう死の刻印的ななんかを与えているのだろう。 ギャァアアーンッ!! クインッ。 演奏が終わった。 静けさが戻る。 紅葉は目を閉じたまま余韻に浸っている……! 「「「…………」」」 「ふう……あら。 かかってはこないのですか?」 「むしろなぜこの流れで襲われると思ったんでしょうか」 「挑発は大事」 きらびやかな汗を拭い、紅葉はあからさまな嘲笑を向けた。 嘲笑われる側の悪漢どももさすがに戸惑うばかりである。 「所詮(ピー)野郎は(見せられないよ!)で(自粛)ですね」 「音声は加工してお届けしています」 「誰に対する発言なんですかそれは。 「よくわからねえがこいつ殺すしかねえ!!」 「「「うおおおおーっ!!」」」 恐怖である。 この女をここで殺らねばヤバいことになると本能が叫んでいた! そして襲いかかる悪党ども! 紅葉は流水めいてこれを避ける! さらに……ギャァアア~ン!! 演奏を再開した!? 「再開した」 「何故……?」 実況席も困惑するばかりであった。 「し、しかし。 あの構えはいよいよ、終わりのはずです。 終わってください。 相手はおそらく、己の死にすら気づかぬほど鮮烈な最期を迎え……」 「ッダァーーーーーーーーイ!!(ゴガシャア)」 「「「アバーッ!?」」」 「迎えませんでしたね」 「普通にギターで殴った」 「完全に力任せでしたね……」 クオンクオンクオン……残響めいてギターの旋律が消えていく。 蒸気ギターでぶちのめされた悪党どもを背に、紅葉は満足げな顔で片手を掲げた。 「…………終わり?」 「アンコールはちょっと勘弁していただけると」 だが紅葉はやる気だった。 悪い夢はまだ暫く続くのだ……!! 名乗りですか。 一般的な剣術……それもどちらかといえば競技用ですからこれといった流派があるわけでもないのですが。 そうですね、こちらの流儀に則るならば…… マクリントック式細剣術・中伝、アリシア・マクリントック、参ります! わが剣は人を殺める剣にあらず、その力を奪うのみ。 人を斬るための剣には敵わないでしょう。 ですが、貴方たちのような心無き者の剣にならば私が負ける道理はありません。 打ち合うのに向いた剣ではないですから、そこは注意して立ち回る必要がありそうですね。 「秘剣・虹光裂破!」 腕を狙って必殺の突きを。 大見得を切ってしまいましたし、できるだけ傷つけずに戦闘力を奪いたいところですね。 相手は一人なんだ、構うこたねえ!」 ざざざざざ、とチンピラの群れが両翼に展開する。 対するのは金髪碧眼の、淑やかな少女たったひとり。 明らかな人数差、ましてや相手は女である。 悪漢どもの警戒は過剰ではなかろうか? ……いいや、過剰などとんでもない。 彼女の足元を見よ。 すでに五人以上の悪党が、腕を抑えてのたうち回っているではないか! 「い、痛ぇ、畜生!」 「この女、つ、強ぇ……」 金髪の令嬢は、油断なく両翼の敵を視界に捉えながら独特の構えを取る。 フェンシングである。 この世界では滅多に見られぬであろう西洋剣術。 「いきなり現れたと思ったら、まさかここまで手こずらせるとはな……」 「よくもまあ暴れたもんだ。 名前を聞いておこうじゃねえかお嬢さんよ」 じりじりと包囲網が狭まる。 少女は決然と目をそらさない。 たおやかな眼差しには、しかし鋼のような力強い信念が感じられた。 「いいでしょう。 なし崩しに始まった戦いゆえに、名乗りが遅れてしまいましたね」 本来であれば、彼女が修めたのはあくまで競技用の剣術である。 ゆえに大それた銘があるわけではない。

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